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密室殺人

「おい!人が死んでいるぞ!」

男が叫ぶ。
周囲の人が集まってくる。

死体はどこだ?
誰が殺したの?
こんな平和な町で?

野次馬たちはザワザワとしている。

誰か警察は呼んだのか?
誰が殺されたの?
犯人は誰なの?

野次馬たちは盛り上がる。

そこには古い貸し倉庫がある。
シャッターは硬く閉ざされている。
その倉庫にはひとつだけ はめ殺しの小さな窓がついていた。

男はその はめ殺しの小さな窓から中を覗き、死体を発見したのだという。
野次馬たちが右往左往していると後ろから声がした。

「やぁみなさんどうかされましたか?事件のニオイがするのですが」

推理小説や探偵漫画から抜け出したかのような、如何にも探偵ですと言わんばかりの衣装を身にまとった男だった。

野次馬たちは余計にザワザワとなりつつも、古い貸し倉庫の中に死体があるのだと説明した。

「ほほぉ。死体とは穏やかじゃないですね」
「ちょうど名探偵である私が通りがかってよかった」

その自称名探偵は 警察には連絡するな といい殺人事件の捜査をはじめた。

「ふむ。随分と古い貸し倉庫ですね。鍵はしっかりと閉まっている」

名探偵はシャッターをガジャガジャと持ち上げしっかりと確認した。

「他に出入口はなく、小窓は はめ殺しで開閉不可能」

名探偵は小窓を念入りに調べ、貸し倉庫の周りをぐるりと1周してしっかりと確認した。

「そして死体は…ふむ30代の女性といったところでしょうか」
「出血している様子はない、殺されてからここに運ばれたのか?」

名探偵は小さな窓を眺めながら、ひとりブツブツと推理を展開していた思うと「えっ!?」と驚いたような声を出した。
野次馬たちが どうしたどうした とザワザワする。

「よく見ると死体のそばに鍵が落ちています!」
「鍵の形状や古さからおそらくはこの貸し倉庫の鍵…」

名探偵は驚いた表情を崩さずに

「これは密室殺人だッ!」

と叫んだ。
野次馬たちのガヤガヤも最高潮に達した。
「うぉー」と謎の一体感のようなものを全員が感じていた。
しかし、そんな野次馬の中から冷ややかな声が聞こえてきた。

「よくそんな小さな物が見えるな!」

その一言に他の野次馬たちは一旦シーンとしたかと思うと
またガヤガヤと騒ぎ出した。

確かにそうだ。
こんなに暗いのにわかるわけがない。
本当は鍵なんてないんだろ。
密室殺人って言いたかっただけだろ。

野次馬たちは好き勝手に名探偵に野次を飛ばした。
そんな野次を受けても名探偵は笑顔を見せていた。

「まぁそう慌てないで。今証拠を見せますから」

名探偵はそう言うと 小窓に親指と人差し指をあてた。
そしてその指をゆっくりと開いた。
すると小窓の風景はズームされ死体のそばの鍵がよく見えるようになった。

おぉ〜。
えぇ!?
本当に鍵が!
いや、そんなことより…

野次馬はさらにガヤガヤワイワイと騒がしくなった。
名探偵が親指と人差し指をすぼめると 先ほどと同じサイズになった。
野次馬たちはガヤガヤするのを止め思考停止状態となった。

あの名探偵はマジシャンか?
あの小窓に何か仕掛けが?
いったい何が起こっているの!?

野次馬たちは少しパニックに陥りかけていた。
名探偵はクックックと笑っている。

「いやぁみなさんすみません。実は殺人事件なんて起こってはいないんです」
「実はこの窓には…」

名探偵はそう言いながら小窓の隅を爪でカリカリしたかと思うと薄い何かを剥がした。

「じゃじゃーん。これは私が開発した極薄フィルム型モニターなのです」

名探偵はヒラヒラと小窓から剥がしたフィルムを野次馬たちに見せびらかした。
野次馬たちからはどよめきが起こる。

すげぇ。
薄すぎて風になびいている! 
あの死体は映像だったのか!
欲しい!

「この極薄フィルム型モニターを貼り付ければ、どこでもモニターに早変わり!」
「さらに皮膚にも貼り付けることが出来るので 好きなタトゥーを選び放題!ハゲた頭皮に貼り付ければ髪の毛を演出することも容易い」
「さぁ1枚2万3千円ですよ」

名探偵はまくし立てた。
野次馬たちは盛り上がる。

買った!
2枚くれ!
こりゃすごい!

あっと言う間に20枚が売れた。
野次馬たちは満足して帰っていった。
取り残された名探偵はポケットから極薄フィルム型モニターを取り出し、小窓に貼った。
そのモニターには真っ黒な映像を出力されている。

名探偵はニヤリと笑いつぶやいた。

「これで中の死体は見つからないですむ」






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