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3. 私のやり方/渡り介護士の見る景色
現場初日、配属されたフロアやらユニットの中のリーダーとかリーダー格の先輩の横について仕事を教えてもらう。
介護士の出入りが激しい介護施設のリーダーなので指導も、こなれている様に見える。
まず最初の難問として、人の名前を覚えなくてはならない。利用者、介護士、看護師、理学療法士や作業療法士、管理栄養士、ケアマネジャーなどなど現場で出会う人数はかなりのものである。
施設側の人間は、たいてい同じ様な制服を着ており、しっかりマスクをしていると、もう誰が誰だか判らない。
体格と髪型が似ていると、ほとんど区別がつかないので、名前を覚えるまで名札を確認しながら話かけなくてはいけない。
利用者も施設によっては人数も多く、名札がない上に覚えたつもりになっても、翌日に違う服を着ていると雰囲気が変わってしまい、また「誰だっけ」となってしまう。
最初の内は、毎回違う介護士から指導をしてもらいながら、業務に取り組むことになる。
以前の介護施設と基本は、ほとんど同じであるから、利用者の病気や様子などを把握しながらひとつひとつの業務を覚えて行く。
その指導の中で、ほとんどの先輩が口にするド定番の言葉がある。
それは「私のやり方は…」である。
みんな違うやり方でやっていて、私はこうやってやっている。
〝次の指導する介護士からまた違う指導があるかもしれない、その中からやり易い独自の方法を選んで自分なりに仕事してね。〟
ということらしい。
私だけではない、介護現場は渡り鳥の集まりである。
以前に自分を育てた施設の良かったやり方とか段取りを、つまりは自分に都合の良かったやり方を、みんなそれぞれが独自にミックスして毎日の仕事をこなしている。
同じく渡り鳥である新人介護士も、過去の施設で経験があり素人ではない。
この人のやり方は良くないとか、このやり方は好きだとか、聞きながら自分なりのやり方を考え仕事に落とし込んでいく。
この新人介護士も将来「私のやり方は…」と言って次の新人介護士に指導してことになるのである。