異色短編集「ミノタウロスの皿」感想
藤子・F・不二雄の短編集。全体的にダークなユーモアが効いていて読んでいて楽しかった。その中でもお気に入りなのが自分会議、間引き、ミノタウロスの皿、ヒョンヒョロ、コロリころげた木の根っ子である。
自分会議
これはタイムパラドクスもの。次々と未来の自分がやってきてやがて揉め出すという、ドラえもん「ドラえもんだらけ」(てんとう虫コミックス第5巻7話)のような展開に心が躍る。なによりあんなにやかましかった諍いから一転、静けさの中にもの恐ろしさを感じるラスト一コマが秀逸だった。
間引き
作中の記者の持論によると存在するあらゆる「愛」は種の存続と相関があるという。これが正しければ人類はこれ以上人口を増やしたって仕方がないと本能で思ったが故に夫婦仲は冷め切り、乳児はロッカーに入れられ、治安が悪くなったりしたのだ。それを聞いた主人公は呆然とするが、仕事終わりに妻からの愛に触れおいそれと泣き出す。私はここまで読んで良い話じゃんと思ったが、それを簡単に裏切られて面白かった。お金の余裕は心の余裕にも通ずるものがある。人口爆発の今、空腹という欲求に愛は勝てなかった...
ミノタウロスの皿
人間が動物を食べるという構造が逆転した世界設定。ここでは地球でいう牛が人類を食糧にしたり愛玩動物として管理していて、主人公はそのことを批判しながらも帰還後ステーキを食べるという矛盾を見せたり、人間が生物界のヒエラルキーの頂点であるかのような傲慢さも見せた。さらに「相手の立場で物を考える能力がまったく欠けている」と相手を非難しながらも、自らを省みない。こうした価値観の大幅な相違があったときに拒否反応を示してしまうのではなく、一旦立ち返って冷静になり、相手の意見を尊重するということが大事なのだと思う。
ヒョンヒョロ
互いの常識のぶつかり合いのせいで子どもがひとりぼっちになってしまうオチが衝撃。犯人が捜査会議に参加し、全体の指揮を取るという光景は滑稽でクスッとなった。子どもの純粋さを思い知るとともに穿った見方や偏見を持つようになってしまうのが大人になるということなのか、と考える。ブチギレうさぎ、めっちゃ怖い。
コロリころげた木の根っ子
これは他の短編と毛色が異なる自業自得サスペンスだった。妻を支配したつもりでいる横暴な夫が密かに妻から復讐されようとしている。奥さんが酒の空き瓶を置くコマにゾクっとした。