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【医師コラム】子どもの薬は73.2%が適応外使用 ある病院薬剤師の蛮行
子どもの体調が悪くなった時、あなたならどうしていますか? 病院に行って、お医者さんに処方してもらった薬を飲ませているのではないでしょうか。
それは普通のことです。病院は病を治すところですし、病を治すための薬を出してくれるところです。そんな風に思っているので、そこに何か疑問を持つことはないでしょう。ですが実は、子どもに処方されている薬のほとんどが、適応外使用のものって知っていましたか? もう少し詳しく話すと、小児一般で使われている薬剤のほとんどが、小児において有効性と安全性が、臨床試験で確認されていないということです。その確率がどれぐらいあるのかと言うと、なんと約73.2%もあります。
この割合が高いと思った人は、正常な感覚の持ち主です。適応外使用ということは、本来の病気に適応認定がされていないものを、薬として出しているのですから、「そんなのを飲ませて本当に大丈夫なの?」と、疑問を抱くのも当然です。小児科の世界には、他の診療科とは違う点がいくつもあるのですが、今回はその中でも、小児の保険適応外の薬にスポットを当ててみたいと思います。
そもそもなのですが、病院で処方された薬が、本当にこの病気に合う薬なのかということを考えたことはありますか? 医者が出すなら、それが正しいと思って、何も疑問を抱いたことはないのではないでしょうか。
ただ、病院で処方されている薬は、承認を受けて有効とされる病気(効能、効果)や使用方法、投与量(用法、用量)が定められています。薬一つ一つに対して、細かく説明が書かれているのです。お薬を貰う時に、薬の説明が書かれた紙も一緒に入っているのを見たことがありますよね。あれが説明書です。
正しい使い方とは異なる場合を「適応外使用」といいます。例えば、風邪をひいて発熱したのでアセトアミノフェンを処方しました。初めは正しい投与量だったのですが、あまりにも熱が下がらないため、使用料以上のものを飲ませることもあります。そうなると、その薬は適応外使用です。こういったことが、子どもに使用される多くの薬に、当てはまっています。
冒頭で述べた通り、小児科では非常に多くの薬剤が「適応外使用」になっています。ある調査によると、2001年4月から2015年3月の期間中に、日本で承認された1125の薬剤のうち、277(24.6%)の薬剤にしか、小児適応が記載されていなかったという報告されています。
では、医薬品を適応外使用するとどんな不都合が生じるのでしょうか? 例えば次のようなリスクが考えられます。
■有効性・安全性などの評価が不十分:
期待される効果が得られなかったり、予測しない副作用が発生したりする可能性があります。
■保険診療の対象とならない可能性:
費用負担が増えるかもしれません。
■医薬品副作用被害救済制度の対象とならない可能性:
薬が原因で入院治療等が必要となった際に、医療費、年金等を給付する公的な制度の対象とならないかもしれません。
では、なぜそんなリスクを抱えながらも、「適応外使用」が多いのでしょうか? その裏には、「小児の適応への難しさ」が背景としてあげられます。
例えば大人が飲める薬の分量を減らせば、子ども用として使用できるという風に考えていませんか? 実はこれは、全く正しくない考え方です。なぜなら、小児は大人のミニチュアではないからです。
成人において承認された薬を、そのまま小児に使うことは容易ではありません。例えば、抗生剤の投与量、投与間隔は成人と小児で大きく異なり、単純に成人用の投与量を体重換算で、小児に当てはめるだけではいけないのです。そこには細かな計算が必要ですし、子どもが何歳で、どんな発育をしているのかによっても変わってきます。
また、成人と小児では、薬の体内動態ひとつをとっても、さまざまな違いがあります。体内での薬の動態の因子として吸収、分布、代謝、排泄があります。これらはすべて成長、発達の影響を受けるため、小児では成人よりも複雑なのです。そのため、単純に大人の薬も子どもにそのまま「適応内」にさせることができず、追加の試験が必要となります。
子どもの薬でさらに問題になるのは、ドラッグラグ」と「臨床試験の困難さ」です。ドラッグラグとは、新薬が海外で承認されてから、日本で使用できるようになるまでの時間差のことを指します。
そもそも小児の薬そのものが、子どもたちの治験参加が難しい、患者数が少ない、倫理的な制約など、多くの課題があるため、小児向けの臨床試験が十分に行われない傾向にあります。
さらに小児向け薬の市場は、成人向け薬に比べて小さいため、製薬企業は投資リターンが低いと判断して、小児用薬の開発に消極的になりやすいという現状があります。その中で特に患者数の少ない小児がんでは、使用できる薬が少ないために、治療の遅れが問題となっています
小児の薬は、市場規模が小さいにも関わらず開発コストがかかりますし、安全性監視活動など、法的制度での負担が大きいという壁もあります。小児の治験に精通した施設、医師、CRC(臨床研究コーディネーター)の不足など、小児治験を実施する環境が不十分という問題もあり、日本の導入が遅れてしまっているのです。
これらの環境を打破しない限り、「有効性はわかっているのにも関わらず、いまだに日本では「保険適応外」となっているという状態が続き、今後も「適応外使用」が多くなってしまうことでしょう。
ここまでの中で伝えたいことは、「日本の整備が追いついていないことによる適応外使用」が多いということです。この事実は厚生労働省もよくわかっており、「適応外使用の基本的な考え方」について、「広く医療の中でより適切に使用されるためには、基本的に薬事承認・保険適用を目指すべき」としています。
では海外ではどうなのかというと、先ほどの小児がんの際に使われる抗がん剤などの重要な薬は、小児の臨床試験を義務付けています。採算が取れなかったとしても、薬として処方するのであれば、臨床試験を必ず受けて、承認を受けたものだけを使用するように徹底しているのです。
こうした考えは、当然です。薬は服用する人の一生を左右するかもしれないものです。何かが起きてからでは遅いので、臨床試験は徹底して行うべきだと、私は思っています。それなのに、日本ではまだまだそういう現状にはなっていません。
薬は薬です。使用量も少なく、利益もほとんど出ないから、適当でいいなんてことはないはずです。自分の子どもに適応外使用の薬を飲ませている事実を、ちゃんと理解しているのでしょうか。もし何かあったら、どうするつもりなのでしょうか。
利益を得たい大人たちは、薬を飲む子どもが自分の子どもだったら、ということを考えたことがあるのでしょうか。
私は一刻も早く、適応外使用しないで、安心して薬が自由に出せる法の整備が進むことを願っています。
最後にこのコラムを書いたのはある病院薬剤師の蛮行があったためです。
「これは小児適応外の薬です。小児科医師が処方していますが、内服として使用することはお勧めできません。私は医師の指示で処方しますが私なら絶対飲ませたくない薬です」と薬剤師の説明がありトラブルがありました。
「用法用量を守って!」味方もいない。これでは小児科医は子どもを救えない。