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【医療コラム】あなたは子どもの才能について知りたいですか? ポリジェニックスコア

■親の才能を子どもは受け継ぐものなのか
子どもの才能を知りたくない親はいません。むしろ親子関係が良好であれば、どんな才能があるのかということに興味を持っている親しかいない、といっても過言ではありません。ただ、傍にいても、何か自分とは違うかもと感じたり、この子は本当に何かの才能があるのかなと思ったりすることがほとんどです。近しい存在だからこそ、客観的な視点で物事が見えなくなっているのかもしれません。

私の元には医師夫婦から切実な顔をして、こんなことを聞かれることがあります。
「あまり、言いにくいことなんですけれども・・。夫婦で子どものころから頭がいいというか成績は良かったのですが・・。うちの子どもは何とも・・」
という言葉。要するに両親は頭がいいのに、子どもはよくないのはなぜなのか、ということです。自分たちと同じように、子どもも頭がよくあってほしいということなのでしょう。
実は、この手の相談はよくされます。

だから私は、
「お子さんの発達段階にあった勉強をしてみてはどうでしょうか。できそうでできない課題を設定し、それを自分で解決して、達成感や周りからの賞賛を得ることが、学力につながりますよ」
と伝えます。付け加えるなら、私もうちの娘に対してそういったことをして、変わった経験がありますよと言っています。

■ポリジェニックスコアによる人の解析
先ほどの医師夫婦の話に戻りますが、私はその夫婦のお子さんも見たことがあります。顔は両親にとてもそっくりです。遺伝というものは、お父さんとお母さんの子どもだから顔が似ているという簡単なものではなく、子孫繁栄のためなのか多種性のためなのか、遺伝子は次世代にシャッフルされるものです。そうでなければ兄弟で同じ能力ばかりか遺伝子病さえも遺伝してしまうから。シャッフルがあるから人には多様性があり、似ていたり似ていなかったりするのです。

例えば単一の変異によって引き起こされる単一遺伝子疾患(嚢胞性線維症やハンチントン病など)のリスクを判断する遺伝子検査は10年以上にわたって使用されています。ポリジェニックスコア(polygenic score)と呼ばれる、発症リスクに複数の遺伝子が関わる疾患や体質において、数十~数万の遺伝子の違いに様々な重みづけを行い総合したスコアを検証するようなジェノタイピングの進歩は、子どもの才能を見出すシンクタンクさえも生み出しました。

スポーツ選手に認められるようなポリジェニックスコアを検証することで、この子にはスポーツ選手となる才能がある。野球選手に認められるようなポリジェニックスコアを検証できれば野球に特化して鍛え上げられるかもしれません。この技術は受精卵レベルから可能であるため、体外授精では複数の受精卵を作成しますので、技術的にはIQが高い受精卵や運動に秀でた受精卵を選別する可能性を示唆しています。

ただ、IQが高くとも勤勉さコミュニケーションなどはどうでしょうか?
私が高校生のとき、驚くほどのサッカーが上手い友人がいましたが、大学生になってからは監督と折り合いが悪く、大成することは叶いませんでした。せっかくIQが高い子どもを期待して、受精卵から授かったとしても、そう簡単にはいかないのが現実です。子育てに足掻いて足掻いて、自分なりの親としての答えを出して、そうではなかったのかと再考するのは人としての成長につながることだと私は考えています。

■子どもにとって本当に必要なもの
子どもの才能を見出し、愛着を形成しながら、子どもが自信を持って社会に出て、自立するために支えるのは親であり社会です。子どもが幸せに育ち生きる社会形成を作ることが大人に求められるものではないでしょうか。

ちなみに私の友人が、血液からポリジェニックスコアを検証して、今後の疾患のリスクについて調べたところ、アルツハイマー病のリスクが高く出たそうです。そのため規則正しい生活、人とのコミュニケーション、バランスのとれた食生活、禁煙、禁酒を心がけるようにしたと言っていました。
すっかり健康的になったので、ポリジェニックスコアはある意味では必要なのは確かですが、この結果を社会が利用することになると、転職や定年後の再雇用はダメになるかもしれないなと友人は言っていました。先が見えないから、限られた人生を必死になって生きるものだと思います。だから私は自分自身のポリジェニックスコアは検証しません。

さて、私の娘の話は以前にも書きましたが、勉強はできるものの負けん気が強かった。勉強できるところを認めて、負けん気が強いところを、娘が私立小学校の頃に責めなければよかったと、いまだに思います。きっとポリジェニックスコアでも、そこまではわからなかったでしょう。

ただ、親であり児童精神科医である私も分かりませんでしたが、占い師ならわかっていた!? …いえ、そんなことはないですよね。人の未来は誰にもわからないものなのですから。

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