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映像化(多分)不可。最後に先入観が覆る:『ずっとそこにいるつもり?』【本紹介】
短編集5編からなる小説。
全体的に、最後に読者の思い込みがひっくり返される、という構成。
登場人物を思い浮かべながら読み進めると最後にあれ?となり、また最初から読み返したくなる。
文章だからできるやり方なので、映像化はできなさそう。
一番印象に残ったのは、最後に掲載されている「まだあの場所にいる」。
主人公の教師が、転校生の倉橋美月と周囲の距離感が不自然に近いことに違和感を抱く物語。
短い文章の中に、ルッキズムや女性に掛けられがちなプレッシャーが詰まっている。
女性らしさに捕らわれ、娘が結婚すれば幸せになると思い込んでいる主人公の母親、
コンプレックスでもあるのか、「ブス・デブは嫌い」と言い放つクラスのいじめの主犯格、
多様性、と言いつつ結局は広告や雑誌で「正解」の見た目が示されている現実…
倉橋美月はいわゆる「細い」子ではないものの、これらのルッキズムを軽々と乗り越える、という結末。
美月はクラスの中心人物である莉愛に見た目を理由に標的にされるが、莉愛に怒る訳でもなく、「我慢ばっかりして」「本当に可哀想」と言う。
美月がシンプルに前向きで人の言葉を気にしないタイプ、と見ることもできる。ただ、文章内で「こんなに太ってるのに、短いスカートを穿いて(略)あんたなんかデブのくせにって、頭にきますか?」と主人公に問いかける部分がある。体形に対して何度も否定されてきたという過去が見えてくる文章であり、明るさの裏に悲しみや悔しさもあったのではないかと想像させられた。
本のタイトル「ずっとそこにいるつもり?」はこの「まだあの場所にいる」に対応したものと思われる。かつて自身も見た目を揶揄されて苦しんだ主人公が、心の傷を抱えて「まだあの場所にいる」、それに対して美月が「ずっとそこにいるつもり?」と問いかけたのだろう。
誰でも心に傷を負った過去があると思う。ただそこから歩き始めてもいいんだなと考えさせられた。