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和と洋をつなぐ碧い瞳

蒸し暑い夏の夕刻、遠くから聞こえる三味線の音と、入り交じる異国の楽器の調べが江戸の町をほんのりと彩っていた。夕日の赤が重なり合う空の下、あちこちで暮れゆく光に照らされた人々の影が長く伸びている。町を行き交う着物姿の人々の中に、異国の服を部分的に取り入れた装いの若者たちもちらほら見られるようになった。徳川の時代も末期となり、海の向こうからやって来た文化の断片が、新しい時代の兆しを少しずつ灯し始めている。

 そんな江戸の片隅にある小さな長屋で暮らす青年・凪人(なぎと)は、日暮れ時になると決まって外に出て、ふと町の喧騒を眺めるのが習慣になっていた。彼は金色がかった明るい髪と碧い瞳を持ち、生まれは日本だが、父親は遠い異国の出身だという。珍しい容姿のため幼少期から周囲に好奇の目で見られることもあったが、成長するにつれ、それを逆手に取って明るい人柄を育んできた。やがて新しい海外文化に対しても心を開いていった彼は、町の噂を探るのが好きで、今日もいつものように夕刻の長屋の戸口に腰を下ろしている。

 夕陽が町屋の瓦屋根を金色に染める頃、凪人は立ち上がり、ふと目に留まった小柄な娘を見つめた。その娘は麗花(れいか)といって、隣町の花街で働く芸者見習いだ。彼女はほんのりと西洋のデザインを取り入れた帯飾りを身につけていた。形としては和の伝統が残るが、色合いと素材がどこか洋風なのだ。まだあどけなさを残した笑顔がよく似合い、細い指先でそっと扇子を握っている。夕刻に少しだけ散歩するのが好きだと言っていた麗花が、今日はちょうど凪人の前を通りかかった。

「凪人さん、こんばんは。今日はいつも以上に町が賑やかですね」

彼女が微笑みかけると、凪人も笑顔で応じる。

「こんばんは。どうやら新しく交易船が入港したんだとか。あちらこちらで異国の物珍しい品々が売り出されているらしいよ。観に行ってみたいけど、あまりにも人が多くて躊躇してるところさ」

 そう言いながら、凪人は少し照れくさそうに麗花を見つめた。二人は顔見知りというだけでなく、いつしか密やかな想いを抱き合うようになっていた。しかし、互いの立場もあり、はっきりと「好きだ」という言葉を交わしたことはまだない。それでも、流れている空気にはお互いの気持ちが確かに感じ取れる。この夕暮れのひとときこそ、二人がほんの短い言葉のやりとりから深い温かさを得る、そんな大切な時間になっていた。

 麗花は控えめに笑って扇子を閉じると、凪人の横に腰かける。和と洋の入り混じった艶やかな柄の着物が、夕日に照らされて優しい色味を帯びる。

「次のお休みの日にでも、一緒に見に行きませんか? 人が多いときは二人で行くと心強いですし」

その言葉に、凪人の胸はどきりと高鳴る。控えめだけれど、どこか甘い含みを持った誘いに、彼は深く頷いた。

「いいね。早朝ならまだ人出も少ないかもしれない。じゃあ今度の日曜の朝、港近くの屋台通りで待ち合わせしようか?」

凪人が提案すると、麗花は嬉しそうに微笑み、小さく頷いてから立ち上がった。まだ見習いの身である彼女にとって、夕方の自由時間は長くはない。そろそろ芸の稽古場に戻らなければならないのだ。彼女は扇子をそっと広げて、軽く手を振るようにして去っていった。その後ろ姿を見送りながら、凪人は一抹の寂しさを感じつつも、次の約束に胸を躍らせる。

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 港の朝は早く、まだ薄暗い空の色が残る頃に行商人たちが品物を運び出していた。海からは潮の香りが強く漂い、沖には外国船と思しき大きな帆船のシルエットが見える。すでに船着場には、珍しい衣服や道具を扱う露店が並び始めており、外国人らしき商人たちが熱心に接客をしていた。凪人は、気持ちばかり少し早く来てしまったため、あたりを見渡しながら麗花を待っている。

 やがて薄明るくなった空の下、艶やかな着物姿でやって来た麗花を見つけた。だが、その着物はいつもと少し違っていた。裾の部分に洋風のレースをあしらい、帯の色合いにも微妙に金糸を織り込んである。遠目に見たときは和服とさほど変わらないのに、近づくにつれてその独自の美しさが際立ってくる。異なる文化が溶け合い、新しい様式を生み出す時代の息吹を感じさせた。彼女はまだ見習いながらも、師匠の好意で作ってもらったというその着物を誇らしげに着こなしている。

「おはようございます、凪人さん」

「おはよう。すごく似合ってるよ、その着物」

凪人は素直に称賛の言葉を口にし、麗花は照れくさそうに笑う。それだけで二人の間に温かな空気が流れ、並んで港の露店へと足を運んだ。さまざまな陶器や布地が所狭しと並び、なかには異国の楽器や、香辛料らしき独特の匂いのするものも売られている。見たことのない鮮やかな色彩の瓶に詰められた液体を見て、麗花は興味深そうに首をかしげた。

「これ、いったい何の液でしょうね?」

露店の商人は日本語がまだたどたどしかったが、にこやかに応じた。

「これは……香水……いい匂い、します。ちょっと高い、でも人気アル」

差し出された瓶の栓を少しだけ開けてみると、鼻をくすぐる甘く優雅な香りが漂う。何とも言えない華やかさに、麗花は目を輝かせた。

 しかし、値段を聞くとやはり高価で、見習いの収入ではそう簡単に買えるものではない。彼女は少し残念そうに笑い、そっと瓶を戻す。すると凪人が、やや困ったような表情を浮かべながら財布を取り出した。

「俺が買ってあげようか? いつもお世話になってるし、すごく気に入ったんだろ?」

麗花は一瞬、それを断ろうとした。しかし凪人の優しげな表情を見て、その気持ちに甘えるのもたまにはいいかもしれないと思い、ありがとう、と小さくつぶやいて受け取った。商人に代金を支払った凪人は、少し照れ臭そうに笑みを浮かべている。

 その香水の甘い香りは、まるで二人の距離をさらに近づけるかのようだった。新しい時代がはじまる予感と、二人の心を繋ぐ香りが、朝の港を彩っていく。まだ穏やかな海風が二人の髪を撫で、混ざり合う和と洋の調べが町中に広がっていた。

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 その日から、凪人と麗花は徐々に互いの存在を大切に想うようになる。だが、すべてが順調というわけではなかった。麗花が見習いをしている花街の女将は、最近の風潮で西洋文化や海外との交流を無闇に取り入れようとする動きをあまり快く思っていない節があった。それでも客の中には異国の商人や、洋学を学ぶ武士や町人も増えており、芸を生業とする立場としては完全に拒絶はできない。文化が入り混じるその狭間で、どうバランスを取るかということに女将は頭を悩ませていた。

 ある晩、麗花が花街の稽古を終えて控え室に戻ったところ、女将が待ち構えていた。女将の厳しい眼差しに緊張を覚えながらも、麗花は静かに頭を下げる。女将はきっちりとした和装姿で、眉根を寄せながら言った。

「最近、あんたが外で会っている男のことを耳にしたよ。どうやら洋血の青年らしいね。その男から何か“変な教え”を吹き込まれたりはしていないのかい?」

 麗花は驚きながらも、誤解を解こうと必死だった。

「いえ、そんなことはありません。ただ、彼は日本で生まれ育った方で、異国の文化も自然に身につけているというだけです。私に何か危険なことをさせようなんて、そんなことは決して――」

女将は麗花の弁明を遮るように手を挙げた。

「わかったよ。しかし、花街の娘としては、あまりに浮ついた噂が立つのは感心しない。ここは客商売。ちょっと軽々しく恋にのめり込むようでは、信用にも関わる。自分の立場をわきまえて、行動するんだよ」

 その言葉は厳しかったが、麗花の心には火を灯すような思いが生まれていた。凪人との関係を邪魔されたくない、でも花街で芸を磨くことも大切な道だ。その狭間でどうにか両立したいと強く望んでいた。夜の街灯が暗くなりつつあるころ、麗花は部屋にこもって稽古用の三味線を手にする。指先の先に感じる糸の感触に、いつしか彼の面影が浮かんだ。異国の風にさらされた凪人の瞳は、いつもまっすぐに未来を見ている。彼に学んだ自由な心を、芸にも活かせるのではないか――そんな思いが、彼女を奮い立たせていく。

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 翌朝、凪人は長屋を出たところで町の仲間から声をかけられた。英語を少し話せるという南町奉行所の同心が、外国船との交渉通訳を頼まれたのだが、専門的な単語がわからず困っているという。それを聞いた凪人は手伝いを申し出た。幼い頃から父親の影響で少しだけ英語を耳にしていたとはいえ、本格的に学んだことはなかったが、他人とは違った経験を活かせる場面だと感じたからだ。

「お前、そんな大役、大丈夫なのか? 失敗したら大変なことになるぞ」

 友人は心配気味に問いかけるが、凪人は笑ってみせる。

「やってみなくちゃわからないさ。それに、こういう機会は滅多にないし、俺の境遇だからこそできることがあるはず」

その言葉にはどこか自信と情熱が満ちていた。新しい時代の風を感じながら、自分自身も何か大きな役割を果たしたい、そういう思いが彼を支えていたのだ。

 そして港に向かった凪人は、奉行所の役人や通訳見習いの武士たちと合流し、外国船の船長との折衝の場に臨むことになった。船長の言葉は聞き取れないほど早口ではあったものの、要点を追えばおおむね理解できる。凪人は必死に記憶を掘り起こしながら、身振り手振りを交えて伝えようと努めた。周囲が息を飲む中、ぎこちないながらも一通りのやりとりをまとめ上げ、何とか書面の取り交わしにこぎつける。これには奉行所の者も驚き、あとで凪人をいたく褒め讃えた。

「お前のような者が増えれば、もっと円滑に交流が進むかもしれないな」

 奉行所の役人が言うと、凪人はくすぐったそうに笑った。だが、その胸の内にはこれまで感じたことのない興奮があった。自分も世の中の変革に貢献できるのではないか、そう思うと未来が眩しく感じられた。そしてその喜びを、いち早く伝えたい相手がいる。彼の脳裏に浮かんだのは、やはり麗花の微笑みだった。

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 夜更けの花街は妖艶で、人々が三味線や太鼓の音に酔いしれ、外からの刺激を求めて賑わっている。そんな中、稽古を終えた麗花は廊下を通り抜けて小さな縁側に出ていた。そこから夜空を見上げると、町の喧騒から少しだけ離れた静けさがあり、心を落ち着かせて自分を見つめ直すことができる。

 今宵も遠くから聞こえるのはどこか異国の楽器の音。それはまるで凪人の存在を象徴するようであり、同時に自分が生きる日本の文化と一つになろうとしているようにも感じられた。彼に会いたい。その思いは募るばかりだが、女将の言葉が頭をよぎると、そう簡単には行動できない。職務を全うしながら、どうにかして凪人との関係を深めていく道はないのか、と自問自答する日々が続いた。

 そんなある日の夜。薄暗い花街の路地裏を、凪人は足早に歩いていた。奉行所の仕事を無事に終えて、ほっと胸を撫で下ろした彼は、どうしても今夜、麗花の顔を見たくなってしまったのだ。芸者見習いが住む置屋に堂々と訪れるわけにはいかないので、隣接する薄暗い横丁を通り、そっと裏口の辺りで立ち止まる。すると、ひょこりと人影が現れた。そこにいたのは、彼の予想通り麗花である。

「凪人さん? どうしてこんなところに……」

驚く麗花は声をひそめながらも、目を輝かせている。思いがけない再会に胸が高鳴るのを押さえきれない。凪人はそっと口元に人差し指を立て、周囲を窺う素振りをした。二人きりの空間を確保すると、彼は言葉少なに、しかし熱を帯びた眼差しで麗花を見つめる。

「どうしても伝えたくてね。最近、奉行所の仕事で外国船の交渉を手伝ったんだ。周りからはずいぶん褒められたよ。自分が少しは役に立てるんだって実感があって……。こんな気持ち、初めてなんだ」

その言葉に麗花ははっと目を見開く。ほんのりと西洋の血を引く彼を、周囲が色眼鏡で見ていた時期もあったのは知っている。けれど今、彼はその境遇を強みに変えている。彼女は心の底から嬉しく思い、その目に喜びの涙が浮かんだ。

「凪人さん、すごいです。本当に……あなたらしいやり方で、今の世の中に貢献しているんですね」

言葉を返しながら、麗花はそっと手を伸ばして凪人の手を握る。夜の闇の中で触れ合う二人の指先は、体の奥に秘めた情熱を呼び覚ます。こんな場所で逢瀬を重ねるのは危険かもしれない。それでも、今この瞬間を共有したいという思いは抑えきれなかった。

 軽やかな三味線の音色が花街の入り口からかすかに流れてくる中、凪人はそっと麗花の手を引き寄せ、優しく抱きしめた。お互いの鼓動が早鐘のように響く。今まで交わしたどんな言葉よりも雄弁に、二人の想いが重なっていく。それはまだ形の定まらない不安定なものだが、やがてしっかりとした意志へと結びついていく力強さを感じさせた。

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 その翌日、花街の裏口付近で二人が会っていたことを、やはり女将は見逃さなかった。彼女は次の朝、麗花を呼び止めて問い詰める。

「見習いの身分でありながら、こそこそと男に会いに行くとはどういう了見だい。あんた、花街の稽古が疎かになってはいないかい?」

麗花は大きく息をのみ、正面から女将の視線を受け止める。

「稽古はきちんと行っています。お座敷にも支障は出していません。確かに、密会のような形になってしまったのは不適切だったかもしれません。でも、私は……」

 そう言いながら、麗花ははっきりとした口調で続けた。

「私はあの方といると、自分も新しい世界に足を踏み入れたような、そんな感覚が湧いてくるんです。芸者として、お客様に喜んでいただくためには、古い伝統に加えて、これからの時代の風を感じ取ることも大切だと思います」

 女将は気難しそうな顔を崩さない。しかし、しばらく黙したあと、重い口を開く。

「まあ、時代が変わるということは、わしにもわからないでもない。けれどあんたは見習いだ。軽々しく外の男との噂が広がってしまえば、花街の信用を失う。あんた自身の将来にも関わる。覚悟があるなら、安易に流されず、しっかり自分の足で立ちな。それができるなら、わしも口うるさいことばかりは言わないがね」

 女将の言葉には、厳しさだけではなく、どこか温かさも感じられた。花街を守るために必死である女将の気持ちを、麗花は理解した上で深く頭を下げる。自分がやりたいこと、守りたいもの、全てを両立させるのは簡単なことではない。それでも、凪人と一緒に歩みたいという気持ちは揺るがない。だからこそ、花街で認められるほどの実力をつけ、自分の存在価値を示す必要がある。彼女の瞳に燃えるような決意の色が灯った。

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 そんなある日の午後、江戸の街は賑わいを見せていた。大通りには様々な人々が行き交い、和装と洋装、さらには混合した装いの人たちが入り混じっている。寺子屋で学んだ子どもたちが興味深げに外国人を眺め、商家の主人は新商品として仕入れた洋傘を手に宣伝の声を上げる。だが、その中に不穏な空気を漂わせる集団がいた。古い伝統を守ろうと頑なに異国文化を排除したい者たちである。彼らは声高に「攘夷」を叫びながら、異国風の装いをした人々を睨みつけていた。

 偶然その場を通りかかった凪人と麗花は、路上で小競り合いが起きているのを目撃する。外国人風の商人と、攘夷を掲げる浪人たちが言い争っており、周囲の人々は怖がって距離を置いていた。浪人の一人は刀の柄に手をかける様子を見せ、商人は怯えつつも必死に言葉を返そうとするが、日本語がうまく伝わらない。まさに一触即発の雰囲気が漂う。

 凪人は迷わずその場に駆け寄り、両者の間に立った。

「待ってくれ! あんたたち、話を聞いてやってくれ。彼らはただ商売をしているだけで、何も危害を加えるつもりはないんだ」

浪人たちは怪訝そうに凪人を睨む。金の髪と碧い瞳、まさに異国の血を引く青年だ。彼らにとっては疎ましくもある存在だろう。だが、ここで黙って見過ごすわけにはいかない。彼は心臓の鼓動を感じながら、一気に言葉を繰り出す。

「確かに国を守る気持ちは大切だ。でも今の世には、互いを理解し合おうとする努力も必要だと思う。あんたたちはこの町で生きてきて、俺だって生まれはここだ。もし俺を日本人と認めてくれるのなら、どうか力で脅すんじゃなく、俺の言葉に耳を傾けてくれないか?」

それは願いにも似た懇願だった。浪人たちは戸惑いの表情を浮かべ、一人は鼻で笑ってみせる。

「俺たちが守りたいのは、昔からの日本の姿だ。お前のような混血が口を挟むな。新しい文化だと? ふざけるな、伝統が汚されるだけだ!」

 しかし、麗花が静かに一歩前に出ると、その瞳をまっすぐに浪人たちに向けた。

「江戸は変わりつつあります。今のまま過去にしがみついては、何も生まれないかもしれません。私も伝統の芸を大事にしていますが、その芸をさらに発展させるためには、新しい風も受け入れる必要があると感じています」

 その言葉は浪人たちをさらに苛立たせるかに思われたが、剣呑な雰囲気の中でも麗花の声音には揺るがぬ強さがあった。その瞬間、一人の浪人が激昂しかけて刀を少し抜く仕草を見せる。

 刹那、凪人は商人を庇うようにして身を挺し、浪人と商人との間に割り込む。浪人の目が凪人の碧い瞳を捉えた。そこには恐れではなく、ただ懸命に相手を説得しようとする思いが映っているように見えた。周囲で見守っていた町人たちも固唾を飲んで成り行きを見つめる。

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 そのとき、一人の武士が姿を現した。南町奉行所の同心だ。以前、凪人が通訳を手伝った縁で顔なじみとなった人物である。同心は「何事だ」と声を張り上げ、小競り合いの場を収めようとする。浪人たちはその姿を見て、一旦は動きを止めた。

「ここは役目柄、私が仲裁させていただきたい。刀を抜くのはご法度だぞ」

 同心の厳しい口調に、浪人たちは渋々ながら刀を納める。彼らもあくまで“攘夷”を唱えているが、公権力を前に無謀なことはしにくい様子だった。商人は震えながらも安堵の息をつく。すると同心は凪人の顔を見やり、穏やかな声で言った。

「凪人、お前がここにいて助かった。先日と同じように、彼ら外国人の言い分をもう少し詳しく聞いて、誤解を解いてやってくれんか。お前の存在こそ、今の江戸に必要な架け橋だと思う」

 凪人は強く頷き、言葉の通じない商人に精一杯の通訳を試みた。商人はひたすらに「日本を傷つけるつもりはなく、ただ交易で互いに利益を得たいだけ」と訴えているのだと丁寧に伝える。浪人たちも同心の制止がある手前、強行手段には出られず、半ば納得がいかないまま離れていく。新旧の勢力がぶつかり合う激動の時代の中で、一つの衝突はひとまず収束を迎えた。

 その場に残った凪人と麗花、そして商人や同心たちは互いに安堵の息をつく。麗花は凪人の袖を掴み、小声で言った。

「怪我はありませんか? 本当に危ないところでした……」

凪人は少し疲れた顔をしていたが、優しく微笑む。

「平気さ。麗花のおかげだよ。あの時、俺一人だったらきっと怖気づいていただろう。お前の真っ直ぐな言葉が、俺に勇気をくれた」

 麗花の頬は熱を帯び、胸が苦しいほどに高鳴る。二人は改めて互いを見つめ合い、この混沌とした時代の中でも共に未来を見据えて歩んでいきたいという想いを確かにするのだった。

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 その頃、花街の女将は店の奥で深い溜息をついていた。最近の世の中の動きと、自分たちが守ってきた芸の形。どちらを優先すべきか悩みが尽きない。そこへ情報通の客が訪れ、さきほど町で起きた出来事を耳打ちしてくる。凪人が外国人商人を庇い、浪人たちと対峙したという話だ。女将はその話を聞きながら、「あの混血の青年がそこまでやるとはねぇ」と呟きつつ、複雑な胸中を浮かべる。どこか誇らしさにも似た感情と、不安とがない交ぜになる。

 しかし、この出来事をきっかけに、女将の考え方にも微妙な変化が生じ始める。江戸の町に広がる風評としては、凪人は「危険な異国人」ではなく「誠実に町を守ろうとしている青年」として少しずつ受け入れられつつあったのだ。その姿を見た町人たちからは、むしろ好感を持って語られることが増え、彼の行動を勇敢だと賞賛する声まで上がっていた。

 女将は独り言のようにこぼす。

「これだけ周りが認めている男に、うちの娘(こ)が心惹かれるのも無理はないのかもしれないねぇ……」

自分の中でずっと抱えていた抵抗感を、一つずつほどくように、女将は目を閉じて考えを巡らせる。異国文化を拒絶するだけでは、この先の時代には生き残れない。芸者の道も、より広い視点を取り入れなければ錆びついてしまうかもしれない――そんな危惧が、頭の片隅で芽生え始めていた。

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 それから数日後、街中の広場で異国との交流を祝う市(いち)が開かれた。町人や商人が中心となって催すもので、外国からの品々や料理が振る舞われ、見物人が多く訪れる。そこには武士や旗本の姿もあれば、町の子供たちも遊びに来ている。まるで祭りのように賑やかな光景が広がっていた。

 その市には、花街から特別に芸を披露するために、麗花ら見習いの芸者が呼ばれていた。これは女将が決めたことだ。最初は反対だったものの、町から正式に依頼があったのと、これを機に新しい取り組みを見極めようという女将の考えがあった。麗花は少し緊張しながらも、いつになく洋風のモチーフを取り入れた衣装を身につけ、三味線の音色に合わせて舞を披露する。

 観客の中には物珍しそうにする外国人商人の姿や、興味津々に身を乗り出す町人の子供たちもいる。遠目で見ていた凪人は、麗花の堂々とした所作に目を奪われる。彼女が織り成す舞は、確かに和の伝統に根ざしているが、その姿勢や流れるような動きには、どこか開放的で新しい風を感じさせた。まるで、今の時代の変化そのものを象徴しているかのように。

 舞が終わると、大きな拍手と賞賛の声が上がった。外国人の商人たちも拍手しながら「ビューティフル!」と口々に称え、町人たちも「すごいじゃないか、あの娘は!」と囁き合う。初めて大勢の前で堂々と踊り切った麗花は、胸に満ちる達成感と熱い感情に震えそうになる。そこにそっと近づく人影があった。凪人だ。

「麗花、本当に素晴らしかった。今までで一番輝いていたよ」

凪人の言葉に、麗花はほっと笑みを浮かべた。緊張が解けて頬が上気するまま、そっと息をつく。

「見に来てくれていたんですね。ありがとうございます。こんなに大勢の前で舞うのは初めてで、正直怖かった。でも、私ができることって、こういう形で日本の芸を大切にしながら、新しい風を取り入れていくことなのかなって……」

 凪人は頷きながら、彼女の手を軽く取った。周囲に人が多いため、あまり派手な仕草はできない。それでも、二人の指先が触れ合うだけで胸が満たされる。

「俺も、麗花の姿を見て改めて思ったんだ。異国の血を引いている俺ができることは、ただ新しい文化を入れるだけじゃなくて、日本人としても誇りを持つこと。両方を大事にしてこそ、本当に強い未来が見えてくるんだってね」

その思いは二人を結びつけ、言葉にしなくても互いに理解し合える何かがある。市の熱気の中で、二人はそっと視線を交わし、あたかも将来の夢を共有するかのような穏やかな笑みを浮かべるのだった。

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 日が暮れる頃、花街に戻った麗花を女将が待っていた。女将の横には、どこか気品のある年配の芸者が座している。どうやらこの人が花街のご意見番とも言われる大御所らしく、麗花の舞の評判を直接確かめたいと訪れたのだという。大御所はゆっくりとお茶をすすりながら、まるで一切無駄のない動作で振る舞っていた。

 麗花は緊張しながらも、先ほど市で披露した舞について説明する。自分なりに和の伝統を大切にしながら、少しだけ洋の要素を取り入れたと。すると大御所は、やや長い沈黙ののち、静かに語り始めた。

「花街の芸は、時代とともに変わりながらも続いてきた。いかに新しさを取り入れても、根底にある“心”を失わなければ大丈夫だよ。要は、芸の本質を外さないこと。それを守れるなら、変化は恐れるに値しない」

 その言葉を聞いて、女将は思わず息をのんだ。大御所の言葉は厳しく、しかしある種の肯定でもあった。時代の移ろいを拒むのではなく、受け止めて昇華させる。それが優れた芸者のあるべき姿なのかもしれない。麗花は安堵の表情を浮かべながらも、さらに気を引き締めるように気持ちを正す。自分のやるべき道が見えてきたのだ。

 女将はそんな麗花を見つめ、ほんのわずかに微笑を浮かべた。

「あんたはまだ若い。大変な道かもしれないが、しっかりと精進しな。あの混血の青年とも、うまくやるんだよ。もっとも、わしの目の届く範囲で頼むよ」

その言葉に麗花は驚き、女将の顔を見る。彼女の瞳には厳しさだけでなく、どこか穏やかで母のような慈しみさえ感じられた。思わず胸がいっぱいになる麗花は、深々と頭を下げる。

「はい……ありがとうございます」

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 一方、凪人もまた新しい一歩を踏み出していた。奉行所の通訳として正式に雇われる話が持ち上がっており、奉行所の役人や町奉行からも「ぜひ力を貸してほしい」と打診を受けていた。周囲の評価が上がる一方で、当然ながら否定的な声もある。浪人たちの一件のように、混血の青年を雇うのはどうなのか、と眉をひそめる者がいるのも事実だ。

 しかし、凪人は決意を固めていた。自分の存在を、新時代の橋渡しに活かしたい。その思いが心を燃やす。戸惑いはあるものの、彼は勇気を持ってその話を受けることにする。長屋の狭い部屋で一人過ごす夜、かすかなランプの灯りに照らされながら、彼は英語の学習書を広げ、懸命に発音を確かめていた。頭には、いつか本格的に外国へ赴いて、さらに深い文化交流をしてみたいという夢がある。そして、その時には麗花も――そう考えると自然に笑みがこぼれ、勉強の疲れを忘れさせてくれるのだった。

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 それから季節が一つ巡り、花街も秋の装いへと移り変わろうとしていた。夜の風が涼しさを帯び、路地裏では虫の鳴き声がかすかに響く。ある晩、凪人は花街の表通りを訪れ、かねてからの約束どおり、正式に麗花と話をする機会を得た。花街の外れにある茶屋の離れ部屋が、女将の計らいで二人だけの会話の場として用意されていたのだ。

 薄暗い灯りの下、麗花はやや緊張した面持ちで凪人の前に座る。普段とは違い、二人きりで静かに話ができることに、どこかくすぐったい喜びを感じる。最初はぎこちなく言葉を交わしていた二人だったが、やがて互いの近況や将来の展望を語り合ううちに、自然と打ち解け、熱を帯びた雰囲気になっていく。

「俺は奉行所で正式に通訳として働くことになった。最初は簡単な仕事からだけど、いずれは外国人との交渉役として、江戸のために力を尽くしたい。麗花には……その、いつか一緒に外国に行ってみたいと思っているんだ」

 凪人が少し照れながら言うと、麗花の瞳は大きく潤んだ。その先に見えるのは遠い海の向こう、まだ見ぬ世界。その想像だけで胸が震える。

「私も、日本で芸を極めることができたら、きっと新しい土地でも学ぶことがあるんじゃないかって思うんです。実は、外国の楽器や舞踊にも興味があって……私の芸に活かせるんじゃないかと」

その告白に、凪人は深く頷いた。二人は同じ夢を共有し、刺激し合い、高め合うことができる存在だ。文化の狭間に立っているからこそ、見えてくる未来がある。そんな思いを分かち合える相手がいることの喜びが、二人の心を満たしていく。

 熱い想いを抱きながら、気づけば凪人はそっと手を伸ばし、麗花の手に触れていた。灯りが揺れる薄闇の中、二人の距離はすぐに縮まり、唇がかすかに触れ合う。花街のしきたりでは軽はずみな振る舞いは許されないが、ここは女将が黙認してくれた特別な時空間。唇を離した瞬間、お互いの頬が紅潮し、微笑みを交わす。

「どんな未来が待っていても、俺は麗花の隣で笑っていたい」

「私も、凪人さんと歩む未来なら、どんな困難でも越えていける気がします」

そう言い合いながら、二人は熱い想いを確かめ合う。外では夜風が吹き、虫の声が淡々と響いている。まるで、この先にどんな嵐が来ようとも、二人の絆は揺るがないと告げているかのようだった。

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 それからさらに時が経ち、江戸の町は幕末の動乱の空気に包まれ始める。攘夷や開国、様々な立場の人々がせめぎ合う中で、凪人は奉行所の仕事に奔走していた。外国人と衝突を起こさぬよう、また逆に日本が侮られぬよう交渉を重ねる日々。その一方、花街でも麗花は忙しくなっていた。宴席が増え、座敷では外国人を招くこともあり、彼女の新しい芸を求める声が高まっているのだ。

 そんな中、凪人と麗花はなかなか会えない日々が続く。次第に不安が募るが、お互いを信じる気持ちがあるからこそ、離れていても心は繋がっていられる。ときに町を歩くと、「見習いの芸者がすごいらしい」「あの混血の青年が奉行所で大活躍だ」と噂話が耳に入る。そうした噂はふとしたきっかけで二人の自信にも繋がっていくのだ。

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 ある雪の降る夜、凪人は奉行所で外国人の来客をもてなす役を仰せつかれた。江戸に初めて雪を見たという外国人たちは、まるで子供のように外の景色にはしゃぎ、興奮している。そんな彼らを眺めながら、凪人は微笑ましさを覚える。いろいろと難しい話もあるが、結局のところ人と人が分かり合うには、笑顔と誠意が一番大事なのかもしれないと感じる瞬間だった。

 夜更けになり、外国人たちが宿へ帰ったあと、凪人はそっと花街に向かった。彼の頭の中には、どうしても今宵、麗花の姿を見たいという一念がある。雪のちらつく路地を足早に抜け、花街の外れに差しかかったとき、ふと人影に気づく。薄暗い雪景色の中で、まるで凪人を待っていたかのように麗花が立っていた。

「こんな夜に外に出て大丈夫なのかい?」

凪人が小声で尋ねると、麗花は息を白く曇らせながら笑う。

「なんだか胸騒ぎがして……私、どうしても凪人さんに会いたくなって、こっそり抜け出してしまいました」

雪が二人の髪や肩に積もる。月明かりに照らされたその姿は幻想的で、一面を白く染める雪はまるで新しい幕開けを暗示するかのようにも見えた。

 凪人は麗花の手を取った。冷たくなった指先を温めるように握りしめる。

「俺たち、まだまだ越えなきゃいけない壁がある。日本全体が大きく変わろうとしているし、互いの仕事も忙しくなる。それでも……」

麗花はうなずき、言葉を継ぐ。

「でも、いつか私たちが望む未来を実現できると信じています。二人で乗り越えて、新しい時代の形を見たい」

 二人はそのまま雪の降りしきる路地で立ち尽くし、そっと口づけを交わす。雪の冷たささえ、胸の中に燃える熱い想いを消せはしない。むしろ、その白一色の世界で、互いの存在だけが鮮やかに浮かび上がり、何より大切なのだと再確認する。闇夜に広がる静寂が、この瞬間だけは温かい毛布のように二人を包み込んでくれた。

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 激動の数年が過ぎ、江戸の町の姿も大きく変わっていった。幕府の体制が揺れ、外国との往来が急増し、新しい技術や文化が怒涛の勢いで流れ込んでくる。その中で凪人は奉行所の仕事を通じて多忙を極め、麗花も花街で一人前の芸者として華やかな舞台を踏むようになっていた。周りの同僚や先輩芸者からも「新しい時代の顔」として注目されるようになり、遠方の客から指名が入ることもあるほどだった。

 しかし、二人の関係は薄れるどころか、むしろ強固な信頼で結ばれていた。なかなかゆっくり会うことが叶わなくても、忙しい合間を縫って互いのことを気にかけ、手紙を交わし合う。宛名を書くときの筆が走るたびに、あの笑顔が目に浮かぶのだ。ときには異国の香りのする小物や香水を添えたり、和の文様が美しい小さな布を贈ったり。文化が交錯する手紙のやり取りは、二人にとって何よりの楽しみでもあった。

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 やがて、ある暖かな春の日、花街では盛大な祝宴が催された。芸者衆の中で長く修行を積んだ者が新たに位を上げる儀式でもあり、普段は厳粛な場だが、この日は特別に多くの客が招かれ祝福ムードが漂う。麗花もその一人として、芸者見習いから正式に一本立ちすることになったのだ。女将も大御所も、そして花街の仲間たちも、みな彼女を祝福している。

 その席には町奉行をはじめ役人たちも顔を出し、なぜか凪人も招待されていた。公的には「通訳としてお世話になっている関係者」という名目だが、周囲はうすうす二人の仲を知っている。遠回しな冷やかしを受けながらも、凪人はきちんと礼装を整えて現れた。半ば洋装に近い着物をまとい、髪も整えている姿はさすがに目立ち、花街の人々からはひそひそと声が上がる。けれど、そのどれもが好意的な反応だ。

 宴の最中、大御所が麗花に促すように視線を送る。麗花は覚悟を決め、そっと立ち上がった。琴と三味線の調べが始まり、彼女はこれまで培ってきたすべての芸を込めた舞を披露する。和の厳かさと、どこか解放的な洋の香りが混ざり合い、見守る人々を魅了する。凪人も胸を熱くして、その舞に見入った。

 一曲が終わり、場は大いに盛り上がる。拍手と歓声の渦中で、麗花は静かに息を整え、凪人のほうを見つめる。その瞳には、ずっと胸に秘めていた思いが宿っていた。女将からも黙示のように背中を押され、彼女は思い切って凪人の手を取る。

 まわりがざわめくが、二人はそんな声に動じない。何か特別な儀式があるわけではない。ただ、これまで幾度も阻まれながらも育んできた愛を、ここで改めて公の場で示したいのだ。その気持ちが、言葉にならないほどの強さで二人を突き動かす。

「俺は、麗花と共に新しい時代を歩んでいきたいです。これまでいろんな困難がありましたが、その度に彼女の芸と心に救われました。お互い、まだまだやりたいことがあるけれど、ずっと一緒にいたいんです」

凪人のその言葉に、会場からは感嘆の息が漏れ、あたたかい拍手がわき起こる。麗花は瞼をうるませながら、しっかりと凪人の手を握る。女将も遠巻きに見守っており、微かに頷いた。

「私も……ずっと凪人さんと同じ夢を見ていたい。日本の芸を守りながら、新しい風を取り入れて、二人で大きな世界を見に行きたい。それを心から望んでいます」

そうして二人は、人々の祝福に包まれるようにそっと抱き合った。花街という古くからの伝統を尊重する場所でありながら、そこには新しい息吹を受け入れる余地が確かに存在している。その象徴となるように、二人は互いの愛と未来を誓い合う。

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 江戸の町は少しずつではあるが変わり続けていた。幾多の争いや誤解を乗り越え、和と洋が交じり合い、新たな文化を芽生えさせようとしている。二人はそんな時代の流れに乗りながら、決して揺らがない想いを胸に抱いていた。

 それからさらに月日が流れ、凪人は奉行所の通訳としての地位を確立し、外国から来る人々と江戸の人々を繋ぐ大切な役割を担うようになった。麗花は芸者として名を高め、日本古来の舞と新しい音楽を融合させる画期的な公演を行い、その名が全国に知られる存在となる。そして時が経つにつれ、二人の交際は広く認められ、いつしか夫婦として寄り添う将来を当たり前のように考えられるようになっていった。

 やがて彼らが夫婦となった後も、二人は江戸の町で、あるいは海の向こうの国々で、互いの夢を叶えるべく支え合う。異なる文化を受け入れ、共に歩み、愛を深める。その姿は周囲の人々にも勇気と希望を与えた。かつては異国の混血として疎まれたかもしれない青年と、厳しい花街で見習いから抜け出せないかもしれないと怯えていた少女。その二人が出会い、手を取り合い、新しい未来を信じて生きた物語は、いずれ伝説のように語り継がれるかもしれない。

 けれど、そんな大仰なことは二人にとって重要ではなかった。ただ、熱い愛を持って、お互いの存在を認め合い、共に笑い、支え合う日々。朝の光に包まれて海辺を歩くときも、花街の夜に三味線の音色が響くときも、二人はいつも隣にいる。和と洋が交じり合う新しい時代に、どこまでも続く幸せを感じながら――

 彼らの恋は、困難を乗り越えた先にある大きな花を咲かせ、永遠に色褪せることなく記憶される。異国の文化と日本の文化が融け合う江戸の転換期、若い二人の心は確かに一つになり、その愛は時代の風を受けながら明るい未来へと続いていったのである。

――<終>――

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