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セピア 《英雄の叙事詩》 〜色彩の詩(うた)〜



ある思い出を、
僕はセピアに染めてみる。

すると、
その思い出は僕という
英雄の叙事詩となる。
僕の英雄譚が誕生する。

勿論、
僕だけが知る英雄譚だ。


その自己満足に溺れるある日、


僕は友人たちと水辺へ出かけた。
釣り遊びをするためだ。

僕は秘密の穴場を知っていた。
僕は一人で穴場に行って釣る。

そこに、
セピアの少年を見つけた。
独り占めしようとしていた僕は、
彼を邪魔に思った。

しばらく我慢していたが、
まるで意に介さない彼に、
僕は苛立って、苛立って、
釣りどころでは無くなったので、

遂には、
バシャバシャッと水面を乱して、
僕は彼に文句を言おうと走った。


そのとき、


ドォー、ドォー、ドォー!!!


ものすごい勢いと量で、
上流から濁流が押し寄せてきた。



呑み込まれる!!!



僕は岸へと駆け上がって逃げた。
必死に逃げた。

しかし、
セピアの少年は呑み込まれ、

あっという間に
下流へ流されていってしまい、
見えなくなった。

海まで、
流されてしまったのだろうか。

彼は誰のセピア?
英雄はどこに消えたのか?


僕は、
友人たちと合流した。


濁流など見ていないという。


あれは、
夢か?
幻か?


セピアに染まった少年は。



僕、だったのか…?


僕の思い出の中から、
英雄の叙事詩となり、
ぽろりと転がり出た、


セピア、だったのか…?





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