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ミラクル (散文詩)
12月、木枯しココアを飲み干して。
スフィンクスが砂漠を海に変えて。
エジプトは海底にも文明を築いて。
パピルスにココアの染みができて。
過去なのか、未来なのか、
私には分からない。
現在とは?
範囲で示されることなき
ウユニ塩湖の中に落ちた
一滴の時間。
ミラクルの屑がそこら中に転がって、
風に吹き流されていく。
鯉のぼりが青空で溺れている。
街は排水溝に吸い込まれ、
マンホールから頭を出す巨大化したモグラたちの頭には、流星のハンマーが落ちる。
死すべし、死すべし。
時間よ、星よ、モグラの怪物よ。
お前らの願いは何だ?
聞いてやる。
お前らの寝言を聞いてやる。
月のクレーターの嘲笑が聞こえる。
あなたの胃は、空洞になり、夜の新幹線を眠らせる。
吐き出したら、騒ごう。
黒部峡谷のダムは偉大だ。
『恩讐の彼方に』の世界に、沈没した私の心の海賊船のボロボロの帆は、ダム愛とトンネル愛の波間で揺れる。
風の血を浴びて、透明になったアナタは彷徨う亡霊のように古城の庭でバラを眺め、どんなに咆哮しても、ダレの心にも響かない声で、廃校になった小学校の校歌を歌っている。
傷はどこから来るのか。
運命なのか。
それとも、必然?
密航船は嵐で座礁したまま、
次のミレニアムまで動かない
という可能性。
ミラクルの屑が、落ち葉と羽毛に混じって、
つむじ風の中でぐるぐると舞う。
星がきれいだと呟く悪魔が美しい。
私はブラックホールに呑まれ、
幾つかの銀河の神となり世界を支配していたが、それにも飽きて、また精子と卵子から生まれることにする。
死すべし、死すべし。
悪魔よ、銀河よ、私という存在よ。
ミラクルの屑は、それぞれの星雲に散り、それぞれの場所でミラクルを起こす。
死すべし、死すべし。
奇跡よ、神よ、私の退屈さよ。
命は。
宿業をメリーゴーランドに乗せて廻る。
命は。
時代を蟻の巣のように深く複雑にする。
命は。
誰かの命は。
重い足枷になって、この足に絡みつく茨の蔓。
血塗れな私の足を、
舐めるカメレオンは赤くなり、
蛭の大群に襲われて。
死すべし、死すべし。
命よ、赤いカメレオンよ、蛭の大群よ。
私の血を欲するなら、
ミラクルの屑を集めて、
カクテルを作り、
ブラッディメアリを超えてみせろ。
お前たちは、私になり、
私は、お前たちになる。
血塗れになって、生きて。
這いずり回って、生きて。
12月、木枯しココアを飲み干して。