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夜森蓬
2024年2月5日 21:25
*星が輝く夜。天を見上げた占い師は、首を傾げていた。「アタール様、どうかされましたか?」腕組みしたまま、まんじりとも動かないでいる老師に、弟子のレミールは尋ねる。「分からんのだ…」「何がです?」「星が読めなくなってしもうたのだ。わしはもう占い師の天命を使い果たしてしもうたのかもしれん」「本当ですか? なんと…」レミールは残念そうに吐息する。「よって、じゃ。レミール、そな
2024年2月10日 21:20
*「本当の姿?」人語を話す『水晶玉』は、得意げにきらきらと虹色に輝いた。そうだ。この姿は、私が人の姿を棄てるときに選びしもの。「人間の姿に、戻れるの?」むろん、肉体は滅びておるから『幽体』となるがな。「おばけじゃん!」言い方に気をつけよ。水晶玉は少し怒ったようだった。夜闇のように暗くなった水晶玉に、レミールは恐る恐る触れる。すると、今度は思い切りビカーッと強
2024年2月18日 11:51
*夜明けが近い…。急がねばならない、とレミールは思った。身一つで逃げ出したかったが、そばにまとわりつく『幽体』が口うるさく「巻物を忘れるな!」と叫ぶので、仕方なくその巻物だけは持ってきた。東の空が白んできた。まだ暗い西の空には月が遠く浮かぶ。冷たい北風が頬を切るのを感じた。「レミエラス。お前はあの男に“東へ行く”と言っておったな」「ああ、そうだよ。天才先生、何か問題
2024年2月26日 23:42
*レミールは目を見開く。蒼い、聖なる瞳の色の美女…。こんな辺鄙な寺に何故いる?「……レミールさん? 私に何か御用でしょうか?」「あ、いや…ちょっと追われてまして。匿ってもらいたいんですけど」レミールの言葉に僧侶はかすかに首を傾げて、彼を上から下までじろじろ舐めるように眺めてから言った。「私にですか? それともこの寺院に?」「は?」「どちらに匿ってもらいたいので