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ドイツ人の写真家の展示「Old Father Thames」を鑑賞する

とある会社帰り、途中下車して、Julia Fullerton-Battenというドイツ人の写真家の展示を見に行った。
理由はわからないが、私はインスタを始めた当初から、惹かれる写真を撮っている写真家、つまりフォローしている写真家がなぜかほぼ全員ドイツ人のため、"ドイツ人"+"写真家"=観に行くという、XもYも使わない単純な小一の算数的人生を、写真展に関しては、ここ数年送っている。

まずは展示案内から行こう。
説明文には「約30の物語」とあるが、実際に展示されていたのは約10点ほどで、1つの物語から3点ほどの作品が紹介されているものもあるので、もっと詳しく知りたい、という方は、下に付けた彼女のHPを参照いただきたい。


※展示案内

映画のような視覚的ストーリーテリングが重要な新しさとして知られる、ロンドンを拠点に活動するドイツ人写真家Julia Fullerton-Batten(1970-)の個展。
彼女のアートプロジェクトは、特定のテーマに基づき、映画のような照明技術で演出された本物の活人画(※tableaux-vivants)を使い、それぞれのイメージに物語性を持たせている。今回の個展は、2018~24年にかけてアーティストが制作した『Old Father Thames』と題されたもので、何世紀にもわたってテムズ川で起こった約30の物語が集められている。

テムズ川はイギリス諸島で最長の川ではないが、イギリスと世界の歴史にとって計り知れない重要性を持っている(...)ロンドンはテムズ川なしには存在し得なかった。(中略) それゆえ、テムズ川は時代とともにさまざまな物語の主人公となり、アーティストは環境、風習、状況を完璧に再構築し、絵画、写真、映画にまたがる魅力的なイメージを創り出した。
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※tableaux-vivants
適切な衣装を身につけた役者や芸術家の集団が、注意深くポーズをとって絵画のような情景を作ること。しばしば演劇的な照明を伴う。展示している間は、演者はしゃべったり動いたりしない。それゆえこの手法は絵画や写真といった芸術手法と結合し、現代の写真家を惹きつけた。

展示案内より抜粋/※はWikipediaより

※作品紹介

10点ほどしか展示されていないのに、そこでも好みのものに絞って写真におさめたため、見終わった後、殆ど点数がないことに気づいた。それゆえ、一部、ギャラリーで放映されていたビデオ画面から撮ったものも載せることにした。

※作品① Cathedral on the Marshes

Cathedral on the Marshes(2022年)
大聖堂にふさわしい装飾的な鉄細工が施されたビクトリア朝工学の傑作、Crossness下水ポンプ場。テムズ川岸に位置するこのポンプ場は、Joseph Bazalgette卿の設計により1865年に開設された大工事で、当時何千人ものコレラの大流行を引き起こした重大な下水問題を解消した。
(中略) 特徴的な千鳥格子のレンガ造りの外壁と、鐘や笛、まばゆいばかりに塗られた鋳鉄製の柱、螺旋階段、装飾的な屏風を備えたロマンチックな内装で、前衛的なデザインの殿堂だった。この下水道システムの多くは今日でも機能しているが、Crossnessは50年代に閉鎖、荒廃。(中略)
「女性技術者協会」は、第一次世界大戦中に女性が獲得した職を守り、工学における女性の役割を促進し続けるために1919年に設立された。100年以上にわたる女性技術者の貴重な貢献が認められ、作品には、強力なCrossnessモーターの速度を測定・調整するための装置である速度ガバナーを修理・研磨する女性技術者の姿がある。

この作品一枚でも、緻密な装飾、細部にわたって精巧に作られた建築物なのが一目瞭然で、いつか見学ができたら、と早速検索してみた。
もしイギリス在住の方でまだ見ておらず、見学したいという方、もし1~2年内に訪問する機会があれば、是非とも感想をお聞かせいただきたい。

下水ポンプ場の写真が1点しかなかったのは残念だが、次へ行こう。

※作品② 1814 The Frost Fair

次は「1814 The Frost Fair」という一連の展示作品の幾つかと、制作の様子のビデオ画面数点を紹介しよう。

Contortionist(2019年)
1813年12月末から1814年1月末までの丸1ヶ月間、異常に激しい霜が降り、氷が厚くなり、人々は川の上を歩いたり、スケートをしたり、そりで滑ったりすることができるようになった。ロンドンの商人たちはこの機会をとらえ、即席のテントを張り「万国旗、のぼり、プラカード」で飾り、"シティ・ロード"と呼ばれる通りができた。ロンドン市民は、このお祭りを見るために凍った川に大挙して押し寄せた。台所やかまどが設置され、食べ物やお茶、コーヒーが提供され、(中略) 曲芸師、道化師、そして本やおもちゃ、小物などを売る商人など、様々な種類の娯楽があった。
別の作品中の別角度のContortionist
一見すると古典作品のようなのに、女性の顔を一人一人よく見ると、ファッションショーのモデルのようなメイクや表情で、見れば見るほど釘付けになる作品だな、と。
ビデオ内のContortionist
赤い上着の男性とその後ろの女性(恐らく娼婦)が交わった後のテントの様子。
写真からは伝わらないかもしれないけれど、幾つかの作品には綿密なストーリーが付けられていて、もしもビデオだけ集めて公開してくれたら、それはそれで別物として鑑賞しに行くのに、という精巧な作品たちだった。

The Frost Fair of 1814について詳しく知りたい方に→→→

別の作品中のワンシーン
ジンジャーブレッドかスパイスケーキ的なものでしょうかね?
ビデオ内のパン…夕方なので小腹が減っていた😅
ブレてしまったけれど、展示作品にはない一コマ

※作品③ The Thomas Whale

The Thomas Whale(2018年)
2006年1月、ロンドン中心部のテムズ川で雌のホッキョククジラの幼魚が泳いでいるのが発見された。体長約5mt、体重約7トン。このクジラの通常の生息地は、スコットランド北部やアイルランド北部の海岸沿い、あるいは北極海だ。1913年に記録が始まって以来、テムズ川でクジラが目撃されたのは初めてのことだ。残念なことに、このクジラは翌日、救助中にてんかん発作を起こして死亡した。その骸骨は現在、自然史博物館に展示されている。
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クジラばかりに目が行くかもしれないが、見物人たちのファッションがいちいちおしゃれで、どのブランドのショーか、というくらい凝っている。

当時のビデオをネット上で見つけたので、気になる方はどうぞ。


※作品④ The Ladies' Bridge

この作品には動画があったので、幾つかの写真を一緒に載せておこう。

The Ladies' Bridge(2018年)
彼らは橋を架けた。普通の橋ではなく、ロンドンのテムズ川に架かる優雅で洗練されたウォータールー橋だ。 彼らは何者だったのか?その答えは、毎日テムズ川を行き来するリバーボート・ガイドたちがウォータールー橋につけた別名にある。"The Ladies' Bridge"。乗客と一緒に橋に近づくと、ガイドは、第二次世界大戦中、何百人もの女性たちが日々の家事を離れ、溶接工、大工、石工、労働者に志願して橋を完成させたという興味深い話をする。 橋の建設は1939年に約500人の労働力で始まった。戦争が始まると、労働者の殆どは徴兵された。1941年には現場に残っていたのはわずか50人だった。橋を完成させることが最優先で、男たちの穴埋めは、作業のために訓練を受けなければならない女性たちによって行われた。ドイツ軍の爆撃にもかかわらず(この橋はテムズ川に架かる橋の中で唯一爆撃を受けた)、1942年に橋は通行と歩行者に開放された。終戦の混乱の中で記録は失われ、長年にわたって女性たちの努力は認識されなかった。何年もの間、彼女たちは毎日、乗客に誰が「The Ladies' Bridge」を造ったのか、親しみを込めてこう呼んでいた。

より詳しく知りたい方へ→→→

https://www.ice.org.uk/news-and-insight/ice-community-blog/august-2021/ladies-bridge-women-built-waterloo-bridge#:~:text=It%20started%20as%20an%20urban%20legend;%20the%20story%20that%20women

ビデオより①
ビデオより②
ビデオより③
ビデオより④

※その他(ビデオより)

これで、「珍しい場所、非常に独創的な設定、ストリートモデル、映画のような照明を用いるのが彼女のスタイルの特徴」というBioの肩書に誰もが大きくうなずいたことと思う。
彼女はイメージの中に視覚的な緊張感を仄めかし、見る者を絶えず写真を再検討させる神秘性を吹き込む作品作りを常に心掛けているそうだ。
今後の作品も今から楽しみにしたい。


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シマ子
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