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Ingar Kraussの写真展を鑑賞する

先日、3か月強ぶりにトリノへ行った。前回は、久々に好評を博した記事「新版画」の鑑賞とエジプト博物館(やっぱり、熱が冷めてしまい、記事にできなかった…)が目的だったが、今回のメインの目的はLautrec、次は写真展で、余った時間のエトセトラに入れていた展示が、個人的には凄くよかったのと、ほぼ確実に日本では無名のアーティストなので(その理由は後ほど)、まずはそちらを公開したいと思う。

その展示は、予約制のギャラリーで7月中旬まで行われている、Ingar Kraussというドイツ人の造形作家の写真展だ。展示のタイトルは"Pastorale=牧歌的な"、といい、シマ子がドンピシャでタイプの雰囲気の、モノクロの展示だった。なので正直、エトセトラに入れていた他の用事の1つが流れて、序でにLautrecも想像よりもこじんまりとしていて、時間が余り、さてどうしよう、となった時に、このギャラリーにコンタクトして、約1時間15分後の予約を入れられて、「キターーーッ」と思ったのだ。

まずは作家のBioから行こう。

Ingar Krauss(1965- East Berlin)
BerlinとZechinを拠点に活動。
軍隊での警備としての見習い期間(※)、精神科での介護士としての長年の仕事を経て、90年代半ばに写真に専念し、以来、ドイツ国内外で多くのプロジェクトを実施。彼の作品は、個展や様々なギャラリーで展示されている。

※イタリアにも、新人として仕事を始める際、この見習い期間があるので、恐らくドイツも同じなのだろうと思う。

展示案内にあるBioより抜粋・意訳

次に、またメタファーに満ち満ちた(😆)展示案内へ移ろう。

ラテン語のpastor(羊飼い)を語源とするpastorale(牧歌的な)とは、牧歌的な田園風景の中で羊飼いの生活を描く視覚芸術のモチーフであり、田舎の素朴さと静けさの理想、自然への親近感や回帰のロマンチックなイメージとして描かれる。宗教的な思想や感情におけるエデンの園の思想に対応する、自然の中でのシンプルな生活への「憧れの場所」というこのモチーフは、Ingar Kraussの写真の中で、夢のような内なる風景として、個人的で自己反省的な、隠喩としての田園に言及するかたちで再現されている。
Ingar Kraussは、ドイツとポーランドを隔てるOder川の近く、東ドイツの人里離れた地方に住んでいる。彼の身近な環境の特異な特徴は、彼のイメージの源であり、それらは全て彼の家の周りの小さな半径で制作されたものである。このことは、作家が周囲の自然と深く結びついていることを明らかにし、特に、日常の中に素晴らしいものと恐ろしいものを埋め込むような、自然な方法で魔術的なリアリズムに関心を寄せていることを示している。この現実と奇跡の関係は、画像を芸術作品にする変容力の謎へと私たちを導く。作家は、あらゆるデジタル技術を避け、アナログ写真を擁護している。そこでは、写真の創造は手作業でコントロールされたままであり、プログラムによって計算されることはない。

展示案内より抜粋・意訳
Zechinの位置
ほぼポーランドですね

いよいよ作品紹介へ移ろう。

ギャラリーの方の説明によると、Kraussはもともと、肖像と静物画の作品をメインで制作しており、今回のような風景に人物(HannahとSopfiaという2人の少女)を組み入れて、静けさの中の生命、というか、無機質の中の血の通ったもの、というタイプの作品を制作するのは稀だそうだ。

こちらがHannah
どうですか、この、靄でかすんだような幻想的な雰囲気、個人的には最高にグッときます。
良く見えないと思いますが、野原で風に吹かれる麦の緑の穂です。風が作る海の波のような麦の穂の動き・流れを撮ったもの。
近景①
緑の香りとさらさらという音が伝わってくる感じ。
近景②
こちらはお手製の小屋のようなものだそう。
こういうの、ミラノの郊外の森にもあるので、珍しくはないけれど、「作家自らが作った」と言われて、「へ~」と思いました。
良く見えないかもしれないけれど、右側にある長い枝で、上の小屋を作ったのかな、と。
これ、一番のお気に入り。
水玉模様の水着を着たSophiaが、まるで毒キノコのように、森の中に佇んでいる風景。
携帯の待ち受けを、早速新版画からこちらに、変えました🤭
使われていない建物に羊の毛の塊を持ち込んでつくった作品①
使われていない建物に羊の毛の塊を持ち込んでつくった作品②
同じ建物に、蔓植物のようなものを配した作品

2、3、シマ子の映り込みがあって飛ばした作品はあるが、これが今回の展示のおおよその全様である。

さて、最初に「ほぼ確実に日本では無名のアーティスト」と触れたが、いよいよその理由を明かそう。
Kraussは飛行機に乗れない(精神病院で働いていたのはBioで触れたが、どうも本人も少し精神疾患があるのか、働いていた際の影響を少なからず受けたようで、飛行機NGなのだそうだ)ため、今回トリノでの展示開催の初日に登場した際にも車で来て、2日目には帰ったそうだ。
今回、トリノでの開催は2回目だそうだが、前回はかなりの日数をトリノ近郊で過ごし、そこで暮らす人々の写真を撮って展示したのだとか。
その他の展示履歴を見ても、New Yorkを除くとヨーロッパのみ、展示への本人の参加も恐らくヨーロッパのみ、本人のHPなし、ソーシャルのページなし、それゆえ、彼の展示を主にしている3つのギャラリーのHPを見るか本を買うしか、ヨーロッパ以外の国の人が彼の作品に触れる機会は基本的にはないそうだ。

下が、シマ子が訪れたギャラリーに展示されていた彼の作品集で、こちらはネットでも手に入るので、気になる方はポチっとされてはいかがかと思う。
中身を少し見せてもらったが、日本人が大好きそうな作品(野菜のコンポジションとか、吊るした鮭とお皿のコンポジションとか、カラーだけれど、どれもノスタルジックな色で、もうたまらない感じだった。これで白米か玄米が10杯は食べられそうな感じ…😂)がたくさん載っていたので、いつかBerlinへ行く機会があれば(絶対にある😎)、ギャラリーも本も両方制覇したいと思っている。

Ingar Kraussの写真集

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シマ子
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