映画「Widow Clicquot」を鑑賞する
9月2週目にミラノでは雨が2度降った。
それまでは30度を超える日が続いていたのに、2度目の雨の朝(結構な大雨だった)の後、急激な冷え込みがやってきた。
中には早々とダウンジャケットを着ている人もおり、快適な体感気温をマイナス6~16℃に設定しているシマ子としては、いくら何でもそれはなかろう、という目で見てしまうが、もしかしたら彼らは25~40度くらいを快適と思っているかもしれないので、そこは目をつむり、自身はいそいそとショートパンツをはいて喜んだりしている。
外気温はさておき、ベランダには屋上から降ってきた黄緑色をした小さな木の葉がわんさかつもり、地下鉄の入り口にも外から舞い込んできた大小さまざまの茶色や黄色の木の葉が溜まり、いよいよ秋だな、と思わせる光景がそこかしこに見られるようになった。
そんな秋を実感した初めての週末、新作の米英仏合作の映画「Widow Clicquot」を鑑賞した。タイトルからVeuve Clicquotに多少なりとも関わる映画であることは容易に察しが付く。お酒は殆ど飲まないが葡萄は大好きだし、なんといってもTrailerから秋にぴったりな感じが伝わってくるのが実にいい、と心を弾ませて映画館へ向かう。
女性が事業を行うことが禁止されていたナポレオン時代、若干27歳で未亡人となったBarbe-Nicoleは、夫Françoisが経営していたシャンパーニュの会社を引き継ぐ。
女性がワイナリーの指揮を執るなど想像もしなかった人々の偏見や権力者たちが仕掛けた罠と闘いながら、初のヴィンテージ・シャンパーニュの創造、初のブレンドによるロゼの開発等、様々な革新的技術でシャンパーニュの刷新に貢献した反骨精神溢れる女性を、涼し気だが強く深い印象を与える眼差しが特徴の女優Haley Bennettが演じている。
一方、ロマンチックで情熱的で波乱に満ちた短命を送った夫をTom Sturridgeが、そして彼が絶大な信用を置き、その死後にBarbeと関係を持つ販売代理人Louis BohneをSam Rileyが演じている。
Barbe-Nicoleの結婚は6年で終わりを迎えたため、映画内ではしばしば、夫の奇行や2人の蜜月の様子が詩的かつ抒情的にフラッシュバックするかたちで織り込まれてくる。しかしHaley Bennettの性的魅力は、夫やLouisと愛を交わしているシーンよりも、なぜか私の目には、大地や雨と向き合っている時にこそ豊かに表現されているように映った。
それこそが、自分の信じるものを守るために戦い、永遠に勝利を収めた女性とは、ということや、シャンパーニュへの揺らぎない愛の証を示唆しているのかもしれない。
そしてその絶妙で見事な演技をスクリーン上で見せたHaley Bennettに、また男性優位の権力社会においてある意味、彼女が紅一点となったクライマックスのシーンの台詞を台本に入れて仕上げた監督と脚本家に、「脱帽」、否、「乾杯 -Salut!-」と言いたいシマ子であった。
強靭で毅然とした女性Madame Clicquot。
未だに男性優位な場合の多い現代で、彼らと肩を並べて働く私たち女性がお手本にしたい女性リストに加わるべき人物を知る、という大きな収穫もあったこの映画。
日本での公開日については知らないが、観て絶対に損はないので、個人的には、世のすべての女性にお勧めしたい。
ところで、この映画に登場する2人の男性、François役のTom SturridgeとLouis Bohne役のSam Rileyにはごく狭い範囲で共通点がある。それは、"彼らが、私が愛して止まない俳優Matthias Schoenaertsと共演している"ことだ。
Tom Sturridgeは「Far from the Madding Crowd(邦題: 遥か群衆を離れて)2015年」でCarey Mulligan演じる主人公が心を揺さぶられる3人の男性のうちの1人を(ここでもやや精神不安定な役だった)、Sam Rileyは私が恐らく人生で一番観た映画「Suite Française(邦題: フランス組曲)2014年」で主人公の女性を慕う農家の夫婦の、足の悪い夫Benoît Labarieを演じている。
個人的には、Sam Rileyの方が演技の幅が広いように思うが、2人とも素晴らしい俳優には違いないので、秋の夜長に観る映画として、この2本もお勧めしておこうと思う。
序でに、「Suite Française」の作者Irène Némirovskyの本「Jezabel」の朗読会に参加した際のNoteも載せておこう。
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映画の後、近くのスーパーで買い物をした。
買うものはいつも大体決まっているが、この日に限っては、敢えてお酒の売り場のショーケースも眺めてみた。
中央のやや下の方の段にVeuve Clicquotがあった。
確か57ユーロくらいしたと思う。
それが高いのか安いのかはわからないけれど、ピンク色の箱が威厳を放ってキラキラと輝いていた。
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