ピンクのねこやなぎ
ある日、会社のトイレにねこやなぎが置かれていた。
幼い頃は、札幌の郊外の山奥にある山小屋風の幼稚園に通っていたので、3-4月頃には山中でよく見かけたものだったが、大人になってから、特にイタリアに来てから、ねこやなぎを見た記憶がなく、その存在すら忘れていたので少し驚いた。
昔、ねこやなぎと言えば、薄緑かベージュっぽい緑色に白い毛がびっしり生えたものがそれだと周りの大人たちから教わっていた。
そして、幼稚園の先生方からは、「春になると突然ニャーと鳴いて、猫が生まれてくるんだよ。だからそのふくらみはつぶさないんだよ」と言われ、疑いもせず真に受けていた。先生には、「シマシマの猫もそこから生まれてくるの?ねこやなぎにもそのうち模様ができるの?」と尋ねた覚えはあるが、その答えがなんだったのかは記憶にない…きっと笑ってごまかされたのだろう、と今では思っている。
だが、家に持ち帰った猫柳の枝を花瓶に差し、水を変えて、子供なりに手入れをしているつもりだったのに、5月になり、6月になっても、いっこうにニャーとも言わなければ、何かが生まれてくる様子もなく、だんだん茶色く変化していき、おかしいな、と思い、そこからは猫など生まれてこないことを知った。
そして、ねこやなぎへの興味も次第に薄れていった。
今会社のトイレに飾られているねこやなぎは、なんと、ピンク色だ。
北海道では一度も見かけなかったし、もしかしたら近年開発されてピンクの新種が生まれたのかもしれないけれど、なにか違う植物に見える。
「この蕾からは何も生まれてこないことはわかっているけれど、ある日突然ピンクパンサーが出てきたら面白いのにな」と昼休み、歯を磨いた後に薄ピンク色のリップクリームを塗りながら、ぼんやりと物思いに耽ってみる。
春ですね。
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