【ネタバレ感想・批評】『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』
※注意事項※
本記事は、筆者が当該アニメを視聴した際に抱いた感想を綴ったものです。批評としての体裁を保つべく、可能な限り客観的・論理的な記述を心掛けてはいますが、あくまで個人の主張に過ぎず、その他の意見を否定する意図はございません。内容に触れない批評は説得力がないため、全編ネタバレありです。未見の方はご注意ください。なお、筆者はアニメを鑑賞する上でストーリー・シナリオを最も重視しており、作画・音楽・声優等には余程のことがない限り言及しません。ご了承ください。
記事に対する感想・疑問・指摘等あれば、お気軽にコメントしていただけると幸いです。
作品概要
タイトル:『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』
放送開始:2023年夏
話数:全13話
原作:ブシロード(オリジナルテレビアニメ)
監督:柿本広大
シリーズ構成:綾奈ゆにこ
アニメーション制作:サンジゲン
※参考
まえおき
筆者は『BanG Dream!』シリーズを知らない。過去のアニメは見たことがないし、アプリゲームも触れていない。キャンペーン期間内に記事を書けば公式が目を通してくれるということで、事前知識がないまま急いで本作を視聴した。そのため、本稿には誤った認識・解釈が含まれる惧れがある。気付いた方は指摘していただけるとありがたい。
基本設定
主役となるのは高校生4人と中学生1人のガールズバンドで、特定の主人公を持たない群像劇。この世界ではガールズバンドが盛んらしく、5人のうち2人が通う「羽丘女子学園」では、「誰も彼もがバンドをして」いるらしい。背景情報などは特に語られないので、シリーズのお約束なのかもしれない。
5人のうち3人はかつて別の5人組バンドに所属していたが、人間関係のトラブルで短期のうちに解散していた。本作は一度は離別した彼女らが和解し、メンバーを2人加えて新たなグループを結成するという珍しい導入をとっている。
人物紹介
高松燈:ボーカル兼作詞。感性が人とズレており、周囲から「不思議ちゃん」扱いされている。先代のバンドでもボーカルと作詞を担当。
千早愛音:ギター。見栄っ張りで流行に弱く、努力を厭う刹那主義者。中学卒業後イギリスの高校に入学するも、周囲になじめず帰国。転入先の羽丘女子学園でバンドが流行りと知ると、自分が目立つのに手頃そうな相手(燈)をバンドに誘う。動機が動機だけに実力はメンバーで最低。
要楽奈:ギター。変人。腕はいい。
長崎そよ:ベース。先代バンドへの執着が強く、愛音が燈を勧誘していることを知ると、メンバーを呼び戻すチャンスと見て彼女に接近する。
椎名立希:ドラム兼作曲。先代でもドラム担当。バンドではなく燈個人に執着している。
豊川祥子:先代バンドのキーボード兼作曲。創設者にして解散の原因。今回はあまり重要ではない。
各話解説
1話。
見栄を張ってイギリスの高校に入学したが、周囲になじめず一ヶ月で帰国した千早愛音。知り合いがいない(と思われる)羽丘女子学園に転入し、「クラスのマスコットキャラ」高松燈をバンドに誘う。かつての解散によりバンドにトラウマを持つ燈は、「一生、バンドしてくれる?」と愛音に問いかけ、彼女が返答に窮したことで失望して逃げ出す。
2話。
愛音は燈の旧バンドメンバー・長崎そよと街中で偶然知り合い、ダメ元でバンド結成を打診すると快諾。彼女の方には燈を連れ戻してバンドを再結成するという裏の思惑があった。
3話。回想回。先代バンドの結成から解散までが描かれる。
結成過程は著しく適当で、歩道橋から身を乗り出す燈→自殺志願と勘違いしたキーボードと知り合う→いきなりキーボードを自宅に招待→自作の歌詞ノートを何のためらいもなく見せる→実はキーボードは作曲の天才でした……アニメなめてんだろ。その後キーボードのツテでベース、ギター、ドラムを揃え、燈は歌詞書いてただけなのになぜかボーカルに抜擢される。いつからアニメの脚本はこういうやっつけ仕事が当たり前になったのだろうか。
それはそうと彼女らは、オリジナル曲を引っさげ初ライブを敢行。演奏は成功し会場は拍手喝采、Twitterでも好評コメントが大量だが、一つだけ「ボーカル必死すぎ」というツイートがあった。キーボードはこれにショックを受け、いきなり脱退を宣言。発案者が消えたことで、バンド自体も自然消滅する。……メンタル弱すぎない?
さてここでようやく解散の原因が発覚したわけだが、はっきり言って構成センスがなさすぎる。1話冒頭で解散シーンだけ小出しにし、そのあとすぐ時系列が現代に移行するため、この3話が来るまで各キャラの音楽に対するスタンスやモチベーションがわからず、非常にフワフワとしたシーンが続いてしまっている。
4話。
燈から解散の原因を聞き出した愛音は、燈・そよ・立希の3人を集めて仲直りさせる(どちらかというと、仲違いしてるのはこの3人とキーボードだが)。その後4人はバンドを一生続けると宣誓。練習を始めようとしたところに全然知らないギター女子が乗り込んできて、なぜかセッションが始まる。以後、練習の場に度々現れ、なし崩し的(誤用)にメンバー入りする。
5話。
ライブハウス。キャンセルが出て30分の空白時間が生まれたらしく、偶々そこに居合わせた立希にお鉢が回ってくる。まともに演奏できない愛音が「ちゃんと準備して万全の状態で~」と反対したところ、立希に「ギターから逃げてる」と図星を指され逃げ出す。彼女を追いかける燈。留学の失敗談を告白し「逃げてばっかの人生」と自虐する彼女に対し、「愛音ちゃんは行き止まりでも進もうとして、私のことも引っ張ってくれた」的なセリフを吐いて慰めようとするが、立希の方が正論なので全然響かない。逃げてばかりなのは事実だし、燈をバンドに誘ったのも自分の引き立て役にするためである。それを優しさと勘違いする頭の弱い燈。カルト宗教の布教ムービーか?
まあそれはそれとして、愛音は燈のお陰で立ち直り、メンバーの前でライブをすると宣言した。
6話。
ライブに向けて歌詞を書き上げた燈。立希はキーボードの代わりに自分が曲を書くと言い出し、ものの数日(一日?)で完成させてくる。しかし、愛音はそもそも演奏経験ほぼゼロ、楽奈は練習の約束をすっぽかし、そよは内心やる気がないため足並みが全く揃わず、キレた立希は練習に顔を出さなくなる。ライブ前夜、燈と愛音が彼女の学校に乗り込み、夜の学校で鬼ごっこという茶番劇を繰り広げる。練習しろ。
7話。
鬼ごっこに負けたせいで(?)連れ戻された立希。まともに練習してないのでグダグダの出だしだが、演奏のウケは意外とよく、1曲だけの予定だったのがアンコールへ突入する。しかしここで先代の曲をやったのがそよの逆鱗に触れ、今度はこいつが音信不通になる。
8話。
そよとキーボードがなんかゴチャゴチャ話してるが、本筋に関係ないので省略。
9話。
立希がそよを待ち伏せして接触し、バンドはどうするつもりだと詰め寄る。対する彼女は「もう関係ない」と切り捨て、更に一生やる誓いは嘘でキーボードを連れ戻すための方便だった、ギターの二人は流れでくっついてきただけで不要とぶっちゃける。立希がこの話を残りのメンバーに伝えると愛音は拗ねて帰宅、燈も「バンドなんてやりたくなかった」と身も蓋もないことを言い始める。
10話。
バンド崩壊後、燈はこれまでの後悔を作詞にぶつけ(別に先代の解散も今回のこともこいつの責任じゃないのだが)、自分語りが詰まった女々しい詞を完成させる。驚いたことに、出来上がったそれをメンバーにではなく、ライブハウスの一般客相手に披露する彼女。肝が細いのか太いのかよくわからん。というか、ライブハウスの客はメロディすらない歌詞の朗読会に根気よく付き合ってくれるものなのだろうか。そうこうしてると偶々居合わせた楽奈が即興で伴奏を付け始め、彼女らのステージは次第に評判になっていく。マジかよ。
その後、立希と愛音を説得して呼び戻し、そよはライブ当日、腕ずくでステージへ上げて演奏に加わらせる。これで乗せられてしまう方もどうかと思うが、3人は燈の歌詞に涙を流しながら演奏を完遂し、歓声を浴びつつライブハウスを後にする。
11話。
前回の演奏でなんとなく和解っぽい雰囲気になる5人。これは感性の問題かもしれないが、言葉で説得できない相手を歌詞でなら動かせるものだろうか。仮にできたとしても、それは音楽がもたらす催眠的効用のおかげであって、闘牛が闘牛士の布に反応するのと同じ、動物としての本能を利用した条件反射に過ぎない。人間ドラマと呼ぶには程遠いシナリオだろう。
燈が入れていたライブ予約が三日後に迫り、三日しか猶予がないのになぜか新曲を作るという話になる。前日に詞が完成、立希は徹夜で曲を書き上げるが、練習どころか目を通す時間すらなかったらしい。「ちゃんとライブしたい」とはなんだったのか。それとも、このアニメはマジにこの速度で楽曲制作をこなしているのだろうか? 大体、そこまでしてオリジナルにこだわる意味が分からない。別に急ぐことでもないし、店の人も「キャンセルする?」と訊いてくれたのに。
12話。
目を通す時間すらなかった新曲は大成功で、ライブハウスは熱狂に包まれ大団円。そうですか。
13話。
まさかの最終回にして視点転換。ここまで投げっ放しだったキーボードの掘り下げが急に始まる。どうもバンドを抜けたのはツイートのせいではなかったらしく、自分から辞めておいて未練たらたらの彼女は、プロ級のメンバーを易々集めていきなりメジャーデビューする。聞くところによれば本作はすでに続編が決定しており、彼女が新たに結成したバンドが次回作の主役となるらしい。
……なんじゃそりゃ。ここまでの12話はただの前振りで、次からが本番ってこと? じゃあそっち終わってからコンテストやれよ。やっぱ放送中のアニメなんか見るもんじゃねーわ。
とりあえずこの最終回から判断するなら、本作はキーボードを主人公とした復讐劇の序章ということになり、話のテーマが丸っきり変わってきてしまう。正直この記事も一から書き直そうが悩んだが、今から書き直しても間に合わないし、そんな価値のあるアニメでもないのでこのまま出すことにした。
「迷子」
本作のキーワードである。制作陣はメインキャラ5人を「迷子」と定義し、「迷子でも進め」を作品コピーに掲げている。しかし、「迷子」とは進みたい(もしくは、帰りたい)という前提ありきの言葉であり、目的地自体が存在しない場合「迷子」という言葉は使えない。では本作における目的地とはどこか。
……正直なところ、わからない、としか言えない。そもそも、「なぜバンドをするのか?」という根本的な疑問に誰も答えてくれないのだ。彼女らの音楽に対する思い入れなどはほとんど描写されず、「学園では誰も彼もがバンドをやっている」というよくわからない設定でゴリ押しされるだけ。バンドアニメならまずバンドの価値を視聴者に提示するのが筋ではないのか?
例えば『無限のリヴァイアス』という鬱アニメの代名詞的作品がある。宇宙空間に取り残された少年少女の生き様を描くアニメだが、このアニメも本作と同じく、登場人物がひたすらギスギスといがみ合いを続ける内容になっている。しかし本作と異なるのは、「生きて地球に帰りたい」という全員共通の目的が根底にあることだ。この目的は非常にシンプルで、視聴者から見ても価値が明白である。艦内での対立も原因を突き詰めると、それぞれが助かるための方法を模索した結果であることが多い。言い換えれば、対立に必然性があるのだ。だから時として共闘もするし、結果はどうあれ「生きる」という目的は最後まで堅持された。
翻って本作は、対立に必然性が全くない。そもそも、メインキャラ5人に共通の目的がまるでない。燈は多分、自己表現の場が欲しい。愛音は目立つため。楽奈と立希は燈目当て。そよは……なんだ? なんでこいつバンド辞めてないんだ。意味が分からん。
ともかく、バンドとしての短期的・長期的な目標が何も共有されておらず、その結果として、練習する/しない、ライブ出る/出ないみたいな低レベルな言い争いに終始する。目的地自体が存在しないのだから、道筋が定まらないのは当たり前だ。衝突の原因を紐解くと、どのキャラも自己中心的で物分かりが悪く頑固、要するに精神的な未熟さゆえである。もっとはっきり言えば、頭が悪い。計画や反省、対話といった行為を知らず、各々が自分のことしか見ていないため、いつまでたっても集団として機能しない。確かに、未熟さそれ自体は青春ドラマの構成因子として必要な要素であるが、こうも全部のエピソードをそれで固められると、流石に学習しろよと言いたくなる。それがリアリティだと主張する向きもあると思うが、より現実に即して考えるなら、そんな人間ばかりのグループはとうの昔に解散して然るべきだろう。
結局行きつく所は、毎度お馴染み「必然性の欠如」である。リヴァイアスよろしく閉鎖空間に閉じ込められているとかならともかく、本作の登場人物は年若く可能性に満ちた中高生。それも、趣味で音楽をするだけの自由を周囲から許された身である。自らの選択でバンドを始めておいて、「楽しいって思ったこと一度もない」などと抜かすのは、端的に言って人生を舐めている。そもそも音楽など、やりたい人間だけやればいいのだ。やるにしても、わざわざ合わない人間と組む必要はない。なんか道徳の授業みたいで恐縮だが、世の中には音楽以外にも楽しいこと・価値あることが沢山ある。どうしても音楽じゃないと嫌だ、このメンバーじゃないと嫌だ、という理由を視聴者に提示できない限り、こちらとしては「嫌ならやめろ」以外の言葉が浮かばない。
技術
歌詞も曲もポンポン出来過ぎ。まともに練習してないのに客ウケ良すぎ。どうでもいいギスギスに尺を全振りしたせいで、「過程はないのに結果だけ完璧」というクソアニメお決まりのパターンが出来てしまっている。
CG
CGアニメそれ自体は好みの問題だが、CGのリアル調と明らかに相性の悪い漫画的演出(顔に垂れ線で憂鬱を、汗マークで焦燥を表現するなど)は看過できない。
余談
ストーリーとはあまり関係ないのだが、個人的に一つ気になったシーンがあるので話しておきたい。具体的には3話、初ライブ後にツイッターでエゴサするシーンだ。先述の通り好意的なコメントの中に一つだけ、ボーカルに対する批判があった。それを見たドラムは「ブロックしてやる」と吐き捨て、ベースは「ブロックよりミュートね」と諫める。
これを最初に見たときは目を疑った。素人バンドとはいえ公共の場で演奏する以上、観客からの批評は避けられない。その批評にしても、別に人格攻撃とか差別発言ではなく、「ボーカル必死すぎ」とほんの一言他愛もない感想を述べただけ。それを自分からエゴサしておいて逆ギレする姿勢には本当に唖然とした。気に食わない意見は封殺、聞き入れるのは耳に心地よい情報だけ。全くもって表現者の風上にも置けない。
表面上は素人高校生の会話という体だが、ここには作り手のメンタリティ、ひいては邦アニメ界全体における風潮が表れていると思えてならない。すなわち、「見た人が嫌な気持ちになるから否定的なコメントはやめようね」だ。知ったことか。クリエイターを気取っておいて批判されるのは我慢ならないなどあまりにおこがましい。受け手の感想が受け入れられないのなら、初めから人前に晒すべきではない。チラシの裏にでも書いておけ。
まとめ
やりたいことはわからないでもないが、根本的な作劇能力が低いので、頭の悪い登場人物らがグダグダやってるのを眺めるだけの残念な出来となってしまった。そもそもギスギス自体見てて気分のいいものではないのだから、よほどハイレベルな心理描写や伏線回収でもない限り、エンタメとしての評価は厳しいものになる。さりとていきなりハッピーエンドをねじ込んだところで、視聴者を小馬鹿にしているとしか取れない。創作にしろ実生活にしろ、不調和から調和への転換には繊細な技術が要求されるのだが、本作の作り手にその技量はなかったようだ。
結論
ちょっと暗い話見せとけばすぐ深いと勘違いするような、頭空っぽの萌え豚を騙すために作られた似非鬱アニメ。