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【ネタバレ感想・批評】『ぼっち・ざ・ろっく!』

※注意事項※

本記事は、筆者が当該アニメを視聴した際に抱いた感想を綴ったものです。批評としての体裁を保つべく、可能な限り客観的・論理的な記述を心掛けてはいますが、あくまで個人の主張に過ぎず、その他の意見を否定する意図はございません。内容に触れない批評は説得力がないため、全編ネタバレありです。未見の方はご注意ください。なお、筆者はアニメを鑑賞する上でストーリー・シナリオを最も重視しており、作画・音楽・声優等には余程のことがない限り言及しません。ご了承ください。

記事に対する感想・疑問・指摘等あれば、お気軽にコメントしていただけると幸いです。


作品概要

タイトル:『ぼっち・ざ・ろっく!』
放送開始:2022年秋
話数:全12話
原作:はまじあきの同名漫画
監督:斎藤圭一郎
シリーズ構成:吉田恵里香
アニメーション制作:CloverWorks

※参考



基本設定

言わずと知れた覇権タイトルなので説明する必要もないと思うが、コミュ障・陰キャで友人が一人もいない高校1年生・後藤ひとりが、ひょんなことから積年の夢であるバンド活動を始め、陰キャゆえの受難に見舞われつつも奮闘するガールズバンドアニメ。


設定への疑問

まず、陰キャというものを舐めている。そもそも、陰キャは常人と比して、努力というのが圧倒的に苦手なことが多い。自分の知り合いを思い浮かべてもらえばわかると思うが、陰キャ・陽キャと呼ばれる人々のうち、より努力家で行動派なのは明らかに後者である。努力をバカにし、積極的なアクションを忌避するのが陰キャの本質であり、それこそがぼっちたる所以なのだ。

本作の主人公は、たまたまテレビで見ただけの知らないバンドに感化されてギターを始める。この時点で陰とか陽とか関係なくだいぶおかしいが、なんと彼女は三年もの間、完全独学でギターを1日6時間練習し続け、齢15にして弾いてみた動画で登録者3万、業界関係者からも目を付けられるほど名の知れた投稿者となる。しかも、エロ商法や炎上商法に一切頼っていない。過去『けいおん!』でギターを始めて、同じ領域にまで至れたオタクがどれほどいただろうか? 繰り返すが、自分を変えるより周囲に責任を求めたがるのが陰キャの典型的な思考であり、真っ当な努力ができる時点でそもそも陰キャではない。そりゃ程度にもよるが、学校に行きながら1日6時間はどう考えても尋常ではない。健常者だって大半は音を上げる。無論、あくまで傾向というだけで、本作主人公が統計上きわめて稀な例外という主張はできるが、その場合、例外でない大多数のオタクは、その天才の所業を見せつけられて納得できるのか? 売上だけで見れば、納得させられてしまったと言うほかないが。
ちなみに、この記事を書くにあたって、世間がこのアニメのどこを評価しているか事前に調査したところ、「自分と同じぼっちなのに、主人公は努力家ですごい」みたいな感想を書いている人間ばかりで愕然とした。そこでおかしいとか思わないから、こういう中身スカスカのアニメが売れてしまうのである。

なお、独学とはいったものの、肝心要のギターだけは、学生時代にバンド活動をしていた父から借り受けている。なら弾き方も習えよというか、このときの父親の言動が実に不可解で、「ひとり(娘)もついにギターに興味を」と、まるで音楽を始めることを期待、あるいは予見していたかのような発言をする。のに、別にレクチャーとかはしない。ここで父が子に手ほどきしつつ、自らのパーソナリティを掘り下げるような昔話でもすれば、主人公にとってもバンドに憧れる必然性が生まれ物語に深みが増すのだが、まあ萌え4コマ原作では無理な話か。


イージーモード

とにかく、スタートラインが温すぎる。高1で3万登録の音楽系投稿者って、考えようによってはぶっちぎりでスクールカーストの頂点だろう。少なくとも技術はあるのだから、同世代の学生バンドからは引く手数多のはずで、実際、1話Aパートから早々に勧誘され、バンドへの参画という当初の目標をあっさり達成してしまう。
……のだが、この勧誘の経緯もなんかおかしい。コミュ障陰キャのくせにギター抱えて街をうろついていると、ある学生バンドのドラマーに捕捉され、ライブ直前になってギターが失踪したとかで代打を頼まれる。演奏技術も一切確かめないまま、強引にライブハウスまで連れてゆかれる主人公。ライブが終わってみると、一日限りの助っ人のはずがいつの間にかメンバー扱いされており、2話は主人公を含めてミーティングをするところから始まる……
こうして整理すると、なんとも杜撰な脚本である。リアリティ云々もそうだが、それ以前にお手軽すぎやしないか。現時点での主人公の夢は学生バンドに入って文化祭でライブをすることであり、そのために3年の修行で技術を磨いてきた。ならば次は、もう一つの課題である「コミュ障」に立ち向かう様を描き、バンド加入はその成果という風にするのが自然な流れだろう。街中で突っ立ってるだけで向こうからスカウトしてくれるなら、主人公をコミュ障陰キャにする意味がない。なんならこの脚本だと、演奏技術すら必要なかったという話になりかねない。「座して待つだけでも運次第で成功できる」がこの作品のテーマなのか?

一応、「ソロ練習しかしてこなかったから合わせるのが下手」という新たな欠点も発覚するのだが、これまでの努力を思い返せば、そんなもんは時間の問題でしかない。そもそも、「バンドは陰キャでも輝ける」と言われたから音楽を始めたのであり、それが事実なら、根本的に陰キャを克服する理由がない。演奏は練習あるのみ、コミュ障は放置で結構とくれば、この先何を楽しみにこのアニメを見ればいいのだろうか。


各話解説

1~3話はキャラ紹介のようなもので、事件らしいことが起こるのは4話からである。

4話。流れで主人公が作詞担当に選ばれる。青春ぽい売れ線の歌詞を書こうとするがうまくいかず、作曲担当から「自分らしい歌詞を書け」と言われ、書く。絶賛される。めでたしめでたし。

5話。ライブハウスから、下手すぎてもう出せないと言われる。ただし1週間後のオーディションで合格すれば別だという。1週間4人でうだうだ悩んだすえ、特に秘策もないまま本番。で、特に理由も述べず合格判定。聞けば、初めから受からせるつもりだったらしい。優しい世界。

8話。公衆の前でライブ。一曲目は失敗するが、二曲目から友情パワーで盛り返す。打ち上げの夜、伊地知虹夏(主人公をスカウトしたキャラ)から、「バンドを辞めた姉の分まで人気になり、姉のライブハウスを有名にする」という、今まで隠していた「本当の夢」を聞かされる。つっても、ここまでの挙動を見れば、どう考えてもそれしかないので驚きはない。これを受け主人公も「最高のバンドを目指す」と決意表明する。
後から調べて知ったのだが、この回は神回らしい。気付かなかった。

9話。ある意味、一番の期待外れ回といってよい。夏休み、バンドメンバーから遊びに誘われるのを期待していたが、一向にその気配がなく焦る主人公。ここで一念発起、「受け身でいたらダメだ」と自らを奮い立たせ、勇気を出して誘いのラインを……送らない。ここの葛藤シーン自体はよく描けているのだが、シーンだけで物語に昇華しきれていない。結局、最終日にメンバーの恩情で日帰り旅行へ誘ってもらう。別に誰の発案だろうと以降の展開に支障はないのだから、主人公が勇気を振り絞ったという流れにしておけば、小さいながらも確かな成長を感じさせるエピソードにできたはずだし、彼女の今後の自信にも繋がるはずで、非常にもったいない。旅行自体はクソしょうもない日常パートで、語ることはない。

10話は文化祭のステージに申し込むか悩む話。と思ったらメンバーの一人が勝手に申し込んでいた。そこからはプレッシャーに怯える主人公を先輩バンドマンが励ますというありきたりな展開だが、ラストはちょっと感心した。実は先述のメンバーが無断で申し込みをしたのはわざとで、目的は煮え切らない主人公に踏ん切りをつかせることだった。主人公が出場の意を固めたタイミングで、そのことを暴露し謝罪する彼女。対する主人公はむしろ感謝していると述べ、二人の間に新たな信頼関係が芽生える。
ギャグに見せかけた伏線で捻りを利かせつつ、後味も爽やかな良エピソードである。急にどうした。

11話は念願の文化祭ライブへ向けた前日譚。バンドメンバーと文化祭を回り、友達がいることの良さを再認識する下りはとても自然で良い。こうして表情や雰囲気だけで心情を伝えられるのは、アニメならではの利点である。
一方、バンド活動で動画投稿の方が疎かになり、視聴者に見放されかけて焦るという描写が入るが、特に回収せず終わる。

最終回は……なにこれ。ギャグのつもりだろうか。MCを振られてテンパる主人公は、なぜか客席にダイブし、そのまま気絶。いや、マジで。目覚めたら保健室で、文化祭はもう終わっていた。ほとんど夢オチである。
そこからはライブ中に壊れたギターを買い替えに行くという後日譚だが、まさかAパート終わらないうちにライブシーンを切り上げて、毒にも薬にもならない日常話を始めるとは思わなかった。最初に述べた通り、文化祭ライブは主人公が目指す到達点の一つであり、その成否は彼女にとって計り知れない意味を持つはずだが、その大事な場面をギャグで流せる神経が理解できない。どうしてもこのオチでいきたいなら、主人公は目覚めた後で自己嫌悪に苛まれ、もう二度と失敗しないと心に決める、というようなアフターフォローが必須だろう。「なぜか逆に盛り上がってたかも?」じゃねーよ。
終盤、少しとはいえ褒められる部分もあり、ややもすれば逆転かと若干期待していただけに、この体たらくには心底がっかりした。所詮はきらら原作か。まあ、あのままライブ成功で大団円だったとしても、元々が実力あるキャラな以上「そうですか」としか言えないが。つくづく最後まで足を引っ張る初期設定である。


ギャグ

一応ギャグアニメなので、ギャグ部分も評価しておく。ただ、ギャグの好みはシナリオと比べて個人差が激しく、万人を納得させるような論評は初めから不可能である。自分では間違ったことを書いているつもりはないが、「でも自分は笑えた/笑えなかった」と言われたら正直、なす術がない。あくまで筆者の所感というところを念頭に置いてもらいたい。

ギャグアニメには(アニメに限らず漫才などでも)、その作品における黄金パターンが設けられていることが多い。本作のそれは、言うまでもなくぼっちネタである。主人公がぼっちあるあるを披露したり、自虐ネタをかましたり、コミュ障ゆえの不自然な行動をとったりして視聴者を笑わせるという寸法なのだが、はっきり言って、上出来とはいいがたい。
あるあるの程度は浅いし(コミュ障だから急に言葉が出てこないとか、誰でも思いつくようなのしかない)、奇行ネタは明らかにやりすぎである。特に多いのが、ふとしたきっかけで一人妄想の世界に入り込み、周囲に現実へと呼び戻される、というパターン。この妄想の内容がヤバい。例えば、バンド内で資金繰りのためバイトをする話が持ち上がるシーン。バイトと聞いただけでぎこちない接客態度をとる自分を想像し、その光景がTwitterで拡散され、挙句の果てに「お客様に不快感を与えたで賞」とやらで死刑を言い渡されるところまで行きつく。ちょっとどうかしてるとしか思えない。正直、書いているこっちが恥ずかしい。他にもことあるごとに頭を壁に打ち付けたり、バイトに行きたくないから水風呂に20分浸かって風邪を引くとか、陰キャじゃなくてただ頭のおかしい人になっているシーンが多々ある。

あと、上記エピソードからも想像できるように、一つのギャグにかける時間が異様に長い。普通、どんなに面白いネタも擦り続けると醒めてしまうのだが、本作はつまらないネタでそれをやるのだからたまらない。嘔吐のタイミングに合わせてダムの映像を流すシーンなど、あまりのしつこさに一時停止してしまった。

予定調和

話をストーリーに戻す。本作がなぜつまらないのか端的に言うと、「当たり前のことしかしない」からである。

作中のキャラも言っているように、演奏中は別にコミュ障だろうが関係ないし、ステージ外での対外関係も残りのメンバーが引き受けてくれるので、主人公がコミュ障を克服しなければならない理由が一切ない。たまーにバイトやチケットノルマといった試練っぽいものが課されはするが、結局は周りがどうにかしてくれる。そもそも、バイトは別に接客でなくていいし、ノルマも達成できなかったところでまさかクビになったりはすまい。
1話で見せた人前で演奏することへの恐怖心もいつの間にかなくなっており、もはやコミュ障設定は完全に飾りである。たまに思い出したように寒いギャグを発生させるだけで、なんら物語に活かされていない。冒頭で陰キャゆえの受難がどうとか書いたが、周りが陰キャでも気遣ってくれる聖人ばかりなため、とてもじゃないが受難続きとは言えない。あまりないとは思うが、その手の重苦しい展開を期待すると馬鹿を見るだろう。
もちろん、主人公は頼まれてバンドに参加している立場なので(少なくとも当初は)、演奏以外の部分が多少人任せでも咎められる筋合いはない。が、その結果どうなるかというと、「コミュ障の人間が、コミュ障でも活躍できそうな分野を見つけた結果、予想通り活躍できました」の一言で説明できる極薄アニメが出来上がってしまう。「火に水をかけたら消える」とかと同レベルの話で、そんな当たり前の事実を延々見せられても退屈なだけである。普通の青春ドラマなら、導入部分は「コミュ障でも活躍できると思ったけどそんなに甘くありませんでした」とかにしておき、そこから真に活躍できるようになるまでの経緯を、悲喜こもごも交えながら12話かけて描くものなのだ。そこの過程をすっ飛ばしてチート能力で無双するだけなら、はなから異世界転生ものでも見てればよい。まあ、近年の市場傾向からして、もはやそういう需要の方がマジョリティといわれればそれまでだが。

「当たり前すぎてつまらない」は、全体のストーリーだけでなく単発のエピソードにも同じことが言える。各話解説の項を見てもらえばわかるが、トラブルの解決法がどれも直球すぎて面白くない。4話など、「自分らしくない歌詞を書こうとして悩んでいたら、自分らしい歌詞を書けとアドバイスされました」という、よくこんな単調なシナリオ通ったなと思うぐらい陳腐な内容である。

まとめ

とにかく、全てがぬるい。何度も言うように演奏技術自体はあるので、プロデビューとかならともかく、場末のライブハウスや高校の文化祭ごときで躓く理由がない。対人恐怖という障害があるにはあるのだが、そんなん慣れだし、実際すぐ慣れてる。周囲の環境も異様に温い。たまたまギターを持っていた父親に始まり、たまたま街でギターの欠員補充をしていた伊地知虹夏、たまたま虹夏の姉で彼女らに甘いライブハウスオーナーと、全てが主人公に都合のいいように配置されている。6話も通りすがりのバンドマンに助けてもらうだけの舐めた回だし、こんなヌルゲー成功したところで何の感慨もない。

結論

ぬるいギャグと起伏のないストーリーが続く凡庸なきららアニメ。悪いことは言わないから、『N・H・Kにようこそ!』を見よう。


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