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クリームパンダの生態報告―その1
【クリームパンダの生態報告シリーズ】
出版:Shock Bread Publisher
著者:Rine Marga
1975年生まれ。クリームパンダ遺伝学研究の第一人者。普通に学術論文が書けないという致命的欠陥をもつ。
訳:ドクター甘味
協力:クリームパンダ保護協会
【はじめに】
本論で扱われる、”クリームパンダ”をはじめとする”アンパンマン”作品に見られるような言葉は、既存作での意味合い・概念とは異なり、完全なるパラレル・アンパンマン世界での概念としている。
パラレル・アンパンマン世界では、野生のクリームパンダと、他の生命活動体と共同体を形成しているクリームパンダが存在する。
著作権を訴えられたらそれまでの覚悟である。
【本文】
六月。動物たちに恋の季節がやってきた。山の裾野に広がる豊かな木々と、ゆっくりと蛇行する川に沿うようにして踏み歩くのにちょうどよい背丈の草原がのびのびとした生殖行動を促すのだ。くまたは、くまこに声をかけるところから始める。まじめで優しく、高収入だったくまたはすぐにくまこに認められたようだ(実際はかなりシビアだそうですよ)。
そのすぐ近くにクリームパンダがいくらか集まっている。その集まりの林の向こうには、メロンパンナちゃんがいる。彼らは、誰が先にメロンパンナちゃんに声をかけるかで争っているところだった。
その争いの勝者は、強靭さ、収入、外見、性格など一切関係なく、運。すなわちじゃんけんによって決まる。
クリームパンダは、頭の上部が五等分されており、ヒトのように特定の指を折り曲げる動作によってじゃんけんを行うことができ、特に日本やアメリカで行われる三種類の目で戦うじゃんけんのスタイルをとっている。
野生のクリームパンダはじゃんけんによってすべての勝敗を決する。人気アニメアンパンマンシリーズではグーチョキパンチという技を繰り出しているが、これは緊急を要するときのみに使われる。
通常、野生のクリームパンダは勝敗を決する方法として、「ショック・カリー・アンパー…ワン・ツー・クリーム!」という掛け声で人間にもお馴染みのじゃんけんを行う。
そのじゃんけんが行われるのは、メロンパンナちゃんを他のクリームパンダととりあうときや、最後に皿に残ったチーズ(某名犬のことではない)の食べる権利を決めるとき、ばいきんまんに向かっていく順番を決めるときなど様々である。そんな生活を続けていればじゃんけんの強いクリームパンダが生き残るのは必然である。
あるとき頭部が大きく二つに割れ、その一つ一つが五分割されたクリームパンダが現れた。このクリームパンダが二種類のじゃんけんの目を同時に出せるので勝率が高く、多く生き残った。このまま勢力を拡大するかと思いきや、クリームパンダは著しく論理性に欠けるところがあったり冷静さがなかったりしたため、二種類同時に出せるところをどちらもグーで出したり両手が絡まって反則負けになったりするクリームパンダもいた。また、クリームパンダは大きな活躍もしないのにパン工場ファミリーに入っていることをよく思わない他のキャラから襲撃を受けたりアンパンマンと同じ扱いをされて顔を引きちぎられたりする。手が二つ分あるクリームパンダは余計に目立ってしまい他個体から襲われることも多い。
そういうわけで、突然変異によって生まれた頭部にある手が二つ分のクリームパンダは生存競争の中で優位を築くことはなかった。
なお、自然選択のはたらかないクリームパンダはハーディー・ワインベルグの法則が成り立つ条件にあり、一定の遺伝子頻度を示す。
パン工場にすんでいるクリームパンダはIQが(人間の平均を100としたときに)65程度しかないといわれている(諸説あり)。そんなクリームパンダの一日を見てみる。
朝起きてまず鏡に向かう。ここまでは何も起きない。鏡に映った自分と睨めっこをした後、寝ているバタコさんを起こさないように小さな声で、「ショック・カリー・アンパー…ワン・ツー・クリーム!」と言って鏡に映った自分とじゃんけんをする。
当然あいこ。
2回目からは「ワン・ツー・クリーム!」と省略して行うがこれもあいこ(カブトムシはaiko)。
4回目以降は「クリーム!」しか言わなくなるのだが、だんだん声量が大きくなってくる。「クリーム!…クリーム!!…クリーム!!!…」その音でメロンパンナちゃんが目を覚ましてしまう(メロンパンとクリームはまあまあ相性がいいらしいので)。
メロンパンナちゃんがあくびをした時に出る音が鏡の前のクリームパンダにも聞こえ、急に気が付く。「あれ、もしかしてきみはぼく?」そう、鏡の中の自分とじゃんけんをしても勝敗はつかないのである。
もう目は覚め切っているはずのクリームパンダは起きたばかりの状態を装い、メロンパンナちゃんと挨拶をする。眠いことを表現するときの演技が、目を閉じることだと思っているので目を閉じるのだが、前が見えない。そして階段から転げ落ちる。骨はないので折れない。
最も驚くべきことは以上の過程を毎朝同じように繰り返すことである。ただしじゃんけんで出す目は、前の日の朝に多く出した目に勝てる目を多く出そうとする傾向がある。『昨日はいっぱいパーを出したから今日はチョキ主体で行くぞ~』といったようなことを頭の中で言いながら毎朝じゃんけんを鏡の前でするのである。
次に昼のクリームパンダを見てみる。基本的にパン工場ファミリーは、パンをつくるかパトロールに出かけなければならない。