CASE 3 平岡三千代の心臓弁膜症について心臓専門医が解説! 弁膜症の仕組みがよくわかります!
はじめに
⭐︎平岡三千代って誰?
→漱石の小説『それから』に登場するヒロインです。
⭐︎『それから』ってどんな話?
→簡単に言うと、親友の奥さん(三千代)にどんどん惹かれていく青年を主人公としたお話です。不倫かって言われると、ちょっと怪しいけど、どうなんですかね??
読んでてとても切ない気持ちになりました( ; ; )
カンファレンスの前の基礎知識として
〜『それから』の概要〜
読んだことがある人や早く病気が知りたい人は無視してもOK!
主人公の代助は資産家の長井家で育ち、30歳になっても働かず好きなことをして生活をしていました。彼には平岡という古くからの友人がいました。経済的背景は代助とは正反対です。三千代は平岡の妻です。
平岡夫妻が結婚する前、代助は三千代に惹かれていました。しかしある日平岡も三千代に惹かれていることを知ります。友人のため代助は自分の気持ちを抑え、二人を結ぶ恋のキューピットとなり、やがて平岡と三千代は結婚に至ります。
その後平岡夫妻は仕事の都合でしばらく東京を離れていました。
ところが再び東京へ戻ることとなり代助と再会します。
平岡は仕事関係の付き合い等で忙しく、夫として三千代に寂しい思いをさせる日々を送っていると同時に、平岡夫妻は貧困に追い込まれていました。代助はその事実を知ります。三千代は対話の中で再びお互いに惹かれあっていき、三千代を救いたいと心の底から思うようになります。
そして代助は三千代を自分のものにしようと平岡と対峙するわけです。
この場面には不覚にもドキドキしてしまいました(^◇^;)。
実は三千代は20代の若さで末期の心臓弁膜症を患っていました。
最終的に代助と三千代が一緒になったのか、それとも三千代が生きているどうかは『それから』のストーリーのみではわかりません。
続編とされる『門』では友人の妻を奪った罪悪感に苛まれる主人公が描かれています。その時の女性は生きているため、『それから』の三千代は代助と結ばれて生きている想像するのが自然でしょう。
長くなってしまいましたが、以上が物語の内容です。
ではカンファレンスを始めます!
Case 3 平岡 三千代 診断:大動脈弁閉鎖不全症
【症例】推定22〜23歳 女性
【主訴】労作時息切れ
【現病歴】20歳前後で出産したが、出産後に子供が死亡。以後労作時の息切れが出現するようになり、病院を受診したところ、大動脈弁閉鎖不全症と診断された。
<※ここでちょっと解説>
三千代の大動脈弁閉鎖不全症は、『それから』の中に記述されていました。病名の記載はないものの、太字部分から大動脈弁閉鎖不全症であることが推察されます。
(ではカンファレンスの続きです)
【バイタルサイン】
血圧 118/32mmHg 脈拍 88回/分
【診察所見】
拡張期逆流性雑音を聴取(※後で解説しますが、逆流すると雑音が聞こえます)
クインケ徴候あり(※後で解説しますが、重症大動脈弁閉鎖不全症の所見の一つです)
【胸部レントゲン】
心臓の拡大所見
【診断】
#大動脈弁閉鎖不全症
三千代は重症の大動脈弁閉鎖不全症と診断され、体調を崩すたびに療養をしていた。
平岡三千代の大動脈弁閉鎖不全症の考察
<大動脈弁閉鎖不全症の一般的事項のまとめ>
・大動脈弁閉鎖不全症は弁膜症の一つ。
・原因の多くは加齢性で、発症年齢の多くは中高年。
・通常は心臓の中の左心室という部屋から血液を放出し大動脈弁というトビラを経て大動脈に出ていくが、大動脈弁閉鎖不全症は大動脈弁を経て心臓外に放出された血液が逆流して心臓に戻される病気。(下にヘタクソな絵で解説があります)
・原因はさまざまであるが読む気が失せると思うので割愛。
・症状は胸痛や息切れなどがあり、心不全を起こす。
・症状を自覚したり心不全を発症したりして見つかるケースや、無症状でも健康診断や人間ドックでの聴診で心雑音を聴取し発見されるケースもある。
・基本的に診断と重症度判定は心臓超音波検査で行う。
・重症度別に分けられるが、重症と判断され特に症状があれば手術が必要となる。
・その他、疾患の特徴としては、重症の場合拡張期血圧(下の血圧)が低くなることがあります。また、「クインケ徴候」といって、手の爪の赤みが心臓の拍動に合わせて濃くなったり薄くなったりする現象が見られることもあります。
クインケ徴候のわかりやすい動画がありました。参考にしてください。自分でもぜひ見てみて!
<三千代の場合>
・三千代は若いが、若年でも原因によっては発症することもある。
・現代医学に当てはめて判断すると、三千代は症状のある大動脈弁閉鎖不全症のため手術が必要な患者である。
・しかし日本で初めて心臓手術が行われたのは1930年台。故に『それから』の時代背景的には心臓手術は不可能。
・現代医学では薬物治療を行うのであれば、利尿剤や心臓を保護する薬剤が使用される。三千代に薬物治療がされていたかどうかは不明であるが、「療養をしていた」という記述があり心負荷が軽減されてたのであれば正しい方法であると思われる。
・手術も薬物治療も行われず、症状を繰り返すのであれば余命は数ヶ月から1〜2年といったところか。
・三千代が現代に生きており、適切に手術や薬物治療が行われていたら、間違いなく天寿を全うできたに違いない。
三千代と私からのメッセージ
三千代:弁膜症は重症になるととっても辛いです。発見が遅れると余命も短くなるしとにかく不安。みんなは健診とか受けてそうならないようにしてちょうだいね!
それから、『それから』を読んでない人はぜひ読んでみてね♡実写版もあるわよ♡(駄洒落になっちゃった(〃ω〃))
私(内科医) : この症例を通じて知ってもらいたいことは、三千代さんがおっしゃってたようにとにかく弁膜症は早期発見と、主治医の先生としっかり管理していくことが大事ということです。がんと同じで、症状が出てからではタイミングによっては余命を左右することもあります。適切なタイミングで適切に医療を受けられれば天寿を全うできます。(もちろん100%ではありませんが)
つまり健診や人間ドック大切 !!
それと、医師が「聴診」をする意味を知ってください。今回のような弁膜症もそうですが、弁膜症以外にもわかることがたくさんあります。私もプロの循環器内科医としてプライドを持って毎日「聴診」してしばしば弁膜症を発見させていただいますo(`ω´ )o
次回のケースカンファレンスは?
次回の候補は2つです。どちらになるかはお楽しみということで。
徳川家康(糖尿病) か ワンピースのナミ(ケスチア=ツツガムシ病)
で行こうかと思います。
お楽しみに!
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