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CASE 7 安西光義監督(スラムダンク)が倒れた原因を心臓専門医が解説!

伝説のスポーツ漫画『スラムダンク』より、安西先生の話題です。『スラムダンク』17巻ではインターハイ予選の最中に安西先生が倒れて救急車で運ばれるシーンがあります。この時に発症した病気について考察していきます。

CASE 7 安西光義 診断:急性冠症候群


【症例】65歳男性(推定)

【主訴】胸痛

【現病歴】
<患者背景>
神奈川県立湘北高等学校のバスケットボール部監督。かつて鬼コーチと呼ばれていたが、現在はとにかく動きが緩慢で部活の試合ですらベンチの監督席からほとんど動かない菩薩みたいな人物。体重は推定で120-140kgの高度肥満。
口癖は「ホッホッホ」

<発症エピソード>
桜木花道のシュート練習を見ていた安西先生は突然の胸痛と冷汗を自覚。異変に気がついた花道はすぐに救急要請した。救急車内で酸素マスクで酸素吸入を開始し、北村総合病院へ搬送された。

【既往歴】(仮説)
高度肥満(BMI 42)
脂質異常症
高血圧症
睡眠時無呼吸症候群

【診断】(仮説)
#急性冠症候群 (ごく軽い急性心筋梗塞か不安定狭心症)
 (※言葉の整理:急性冠症候群急性心筋梗塞不安定狭心症などの総称です)

【経過】
安西先生は救急搬送後、急性冠症候群の疑いで緊急入院となった。その後安静とニトログリセリン(血管拡張薬)投与し、症状改善。酸素吸入も入院後すぐに終了できた。翌日心臓カテーテル治療を行い、入院後3日で退院。心筋壊死所見はごく軽度で済んだ。



考察

花道はみっちゃんとりょーちんにオヤジが倒れた理由を尋ねられていますが、花道は「知らねえ、聞くの忘れたんだよ!」と発言しており、その前後でも病名は明言されてさていません。

少ない情報量ですが、私なりに考察してみました。
尚、スラムダンク掲載は1990年代であり、当時の医療と現在(2022)の医療では多少異なる部分があると思いますが、今回は 2022年の最新の医療に当てはめて考えて行きます。

まず、安西先生の発症前後の状況のポイントを簡単にまとめます

突然の胸痛(胸を強く押さえて苦しんでいた)
胸痛に伴う冷汗
救急車内では酸素吸入のみで、心臓マッサージはされていないため心肺停止には至っていない
入院後は酸素も吸入していなければ、点滴もしていない
メガネくん(小暮)は「何か持病があったのかなぁ」と発言
安西先生はとにかく運動不足で、肥満体型
ゴリ(赤木)が連絡を受けた時は「命に別状はないそうだ」と発言
確証はないが、高確率で高血圧持ち
これも確証はないがコレステロールも高そう
病室にいた安西夫人は「桜木くんの迅速な対応がなければ危なかった」と発言。また「医師は検査が済めば2,3日で退院できる」と発言
安西先生の経過のポイント

上記の情報をもとに安西先生の病気を推定します。

〈考察のポイント1〉
肥満や高血圧、脂質異常症などの基礎疾患、すなわち動脈硬化を進行させる疾患を持っている。
冷汗を伴う突然の胸痛で発症し、対応が遅れていたら命の危機に瀕していた可能性がある。
→急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症)、大動脈解離などが考えられる。

〈考察のポイント2〉
心停止には至っておらず、酸素吸入や点滴も早期に終了している。2,3日で退院できる。
→大動脈解離は2,3日で退院できることは常識的にあり得ない。また、ごく軽度のものを除き、急性心筋梗塞は2,3日で退院できることは常識的にあり得ない。

参考までに以下に命に関わる胸痛で発症する代表疾患を記載します。

1.「急性心筋梗塞」・・・心臓の筋肉を栄養する冠動脈が動脈硬化が原因で突然詰まり、心筋壊死が進行。放っておくと心停止、心不全、心臓破裂などを起こす。突然死の原因の一つ。緊急心臓カテーテル検査が必須。
ごく軽い急性心筋梗塞を除けば、通常1週間以上の入院が必要であり、2,3日で退院できることはあり得ない。または入院直後に点滴や酸素が不要になることも通常では考えられない

2.「不安定狭心症」・・・心筋梗塞の一歩手前。迅速でかつ適切な治療で早期退院も見込める。緊急で心臓カテーテル検査をやることもあるし、入院直後は薬物治療で凌ぎながら翌日などに準緊急で心臓カテーテル検査を行うこともある。

3.「急性大動脈解離」・・・高血圧が原因で心臓から出るホースの様な大動脈の中膜と呼ばれる部分が突然裂けてしまう病気。手術が必要な場合もあるが、しない場合もある。厳しい安静と血圧管理をしながらの入院が必要で、通常2,3日で退院することは考えられない

4.「急性肺血栓塞栓症」・・・足の静脈にできた血栓(血の塊)が、肺の動脈に飛んできて詰まる病気。血栓量が大きいとショックや心停止になることがある。いわゆるエコノミークラス症候群ってやつ。2,3日で退院は通常考えられない

5.「気胸」・・・肺が破れてしぼむ病気。重症だと緊張性気胸と言って、心停止に至る可能性がある。これも2,3日で退院は通常考えられない
予防医Haruくん まとめ

他にもいくつかありますが、読みたくなくなると思うのでひとまずこれだけ。


これらの情報から、安西先生の病気に最も近いものは「不安定狭心症」または「軽い急性心筋梗塞」であると考えました。
ちなみに、安西夫人が発言していた検査に関してですが、「心臓カテーテル」のことを指しているものと考えられます。


※こちらも参考までに。不安定狭心症の病態については慶應義塾大学KOMPASの図が非常にわかりやすいです。

慶應義塾大学KOMPASより


○急性冠症候群を起こしうる動脈硬化のリスクファクターの代表を以下に記載します

・加齢
・高血圧
・糖尿病
・脂質異常症
肥満(BMI25以上が肥満です。計算は簡単です。体重を身長(m)の2乗で割ってください。BMI22が理想体重です。)
・家族歴
・喫煙
・腎機能障害
      など
動脈硬化リスクファクター 要チェックや!by ひこいち


オヤジ(安西先生)と私からのメッセージ

Haruくん:先生、読者の皆さんに何か一言!

オヤジ(安西先生):希望を捨てたらいかん、あきらめたら試合終了ですよ。ホーッホッホ!

Haruくん:・・・。先生は多くを語りませんが、指導者としての先生の言葉ひとつひとつには重みがあります。

オヤジ(安西先生):ホーッホッホ!

Haruくん:一度心筋梗塞など重大な病気を発症した患者さんの中には生き地獄とおっしゃる方もいます。「薬の量が多い」「担当医の生活指導が厳しい」「好きなものが食べられない」「ゴルフができない」「入退院を繰り返している」。この様にストレスまみれの余生となる人も多いそうです。

そうなりたくない人はとにかくリスクは一つでも減らすよう努力しましょう。加齢や家族歴はともかく、血圧、糖尿病、脂質異常症(家族性は除く)は自分で避けることが可能です。

また、自分は健康と思っていても、検査せずに気づかれていないだけで実は隠れた病気があるかもしれません。ですので「健康診断」「人間ドック」などを蔑ろにしないようにしましょう。

現実にはテキトーな医師もいます。自分の健康を大事にしたい人は丁寧に向き合ってくれる信頼のある医師をぜひ見つけましょう!患者も医師を選ぶ権利があります!

余談ですが、Haruくんも実はコレステロール高いです!自分も注意しつつ、患者に共感しながらアドバイスして一緒に取り組んでいます!


画像 『スラムダンク』井上雄彦 より

※今は映画『THE FIRST SLAM DUNK』も上映しているみたいなので注目です!今度私も見に行きます!



次回予告

次回はフランスの画家ルノワールです。彼が関節リウマチと戦っていた話は有名です。ルノワールをベースにしながら関節リウマチについて勉強して行きましょう!(専門家ではありませんが、、、)

お楽しみに!

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