(怖い話/by処刑スタジオ)100万円のフェラーリ・呪われたスポーツカー
「暗い話だが」
卓也は言った。
深夜。疾走するイタリア製のスポーツカー。この車でドライブに行くことも多い。
断崖絶壁。蛇のようにのたうつ道路を走る。
暗い話って。
(別れ話?)
嫌な予感。マンネリ的な雰囲気が出始めているのは否めない。車の中で別れ話を切り出す恋人同士も少なくない。
別れたくない。ライバルたちを蹴落として手に入れた恋。
「車好きの先生がいた。男子校の担任。そいつがある時、こんな話をした」
「呪われたスポーツカーの話だ」
別れ話ではなさそうで少し安心する。だが卓也の表情は全く晴れていない。
「どんな車なの」
「中古のフェラーリ。担任が車好きだったんだ。それでフェラーリを手に入れたというので俺たちは、ガレージまで見に行った」
「そして、そのフェラーリの値段を聞いて驚いた」
「いくら」
「100万円だ」
「なぜ安いか謎。事故車の可能性もあったが、破格の値段は魅力だった。庶民はフェラーリなんて一生乗れない」
「高校卒業後、すぐに俺たちはフェラーリのオーナーになった。担任が譲ってくれたんだ。全員で金を出して買ったよ。共同オーナーになったわけ」
「だが最近、奇妙な話を聞いた」
「どんな話」
「あのフェラーリに乗った連中が、不審死を遂げているらしいんだ」
「担任も死んだらしい」
「死因は」
「不明だ。自殺かもしれない。ノイローゼに悩まされていたというのは家族から聞いている」
「他の仲間たちも死んでいる。そして残るは俺だけになった」
「嘘」
私は、ある不安に苛まれた。
「まさか。ソレってこの車なの? イタリアの車だって聞いたわ。これが、その呪われたスポーツカーってこと。冗談じゃないわ。おろしてよ。すぐに売ってしまなさいよ。こんな車」
私は叫ぶ。
「違う、安心しろ。これは、あのフェラーリと同じでイタリア製だがマセラティ。全く違う車だ」
「その車はどこにあるの?」
「不明だ。廃車になっていない限りカーマニアの間で秘密裏に売り買いされていると思う」
話が終わる。良かった。どうやら悩みを打ち明けたかっただけらしい。
この時、前からヘッドライトが見えた。対向車は珍しかった。
だが、すぐに異常事態に気づく。対向車は逆走していた。
「うわっ」
ハンドルを切り損る卓也。
その時、暗闇に対向車の姿が浮かび上がった。
イタリア製の高級車。
「ぐわ。あれが呪われたフェラーリだ」
私たちの乗った車は、崖下に転落していった。