CHAPTER3 Acadeic Creer
第三章も3部構成です。クラウディア・ゴールディンの研究者としてキャリアについて書かれた章です。訳というよりも、わからなかった内容について調べたことは「+α」としてまとめました。
Graduate studies and early research
研究に対して厳しく、熱心に従事する姿勢を大学院の早期に身に着けていたからこそ、シカゴ大学に進学し、ゲーリー・ベッカーやジェイコブ・ミンサーといった著名な経済学者の指導の下、経済学の博士課程を修了することができました。
博士課程の学位論文「米国教師の経済的地位:調査と実例研究」が、彼女の、教育と人的資本の経済学に関するその後の研究の出発点となりました。
クラウディア・ゴールディンの研究者としてのキャリアは、経済の発展と知識への探求に対する彼女の揺るぎない献身的な姿勢の典型だ。
彼女が大学院生のときから、厳格な研究基準、画期的な研究、そして、労働市場やジェンダーダイナミックス、教育に影響を与える経済に内在する原因について学ぶことへの熱意は、経済学者としての彼女のキャリアを特徴づけてきた。
彼女は、ゲーリー・ベッカーやジェイコブ・ミンサーといった重要な指導者の指導の下、研究技術を向上させ、経済学の分野で特徴となる分析の正確性に対する深い尊敬の念を抱いた。
彼女はこの頃に教育経済学の研究を始め、後に、彼女の長きにわたる専門分野の1つとなった。
初期の研究で、経済的報酬と授業の状況を探求し、教育がどのように労働市場の結果に影響を与えるかという調査のための基礎を築いた。
彼女のテニュア・トラック雇用(任期を付さない雇用)はこの初期の研究者としてのポジションで始まり、後に、経済学の課題に対して多大な貢献をすることになる。
Key academic positions
1979年、ハーバード大学で助教授になり、彼女の研究者としてのキャリアにおいて重要な転換点は、1990年にハーバード大学でヘンリー・リー教授職*に就いたことでした。その後、全米経済研究所(NBER)の米国経済発展プログラムディレクターに就任し、学生や教員の良き指導者となっていきました。
*原文は”Henry Lee Professorship”。「ヘンリー・リー教授職」という訳語が妥当かどうかわからないですが、現在はクラウディア・ゴールディン以外に2名の方が同教授職に就いているようです。日本でもそういう教授職の名称があるのでしょうか…謎です。
学術分野におけるクラウディア・ゴールディングの台頭は、名誉ある組織での一連の学術的な重要な任命により特徴づけられた。
ハーバード大学では活気ある知的なコミュニティや潤沢な資金に恵まれ、彼女は研究の範囲を広げることができた。
ゴールディンの人並外れた経済学者としての地位の証であるヘンリー・リー教授職は、ハーバード大学で最も高く評価される学術的任命の1つだ。
彼女は、経済学、とりわけ教育と労働市場の分野における経済学研究の向上に明確な責任をもってNBERを指揮した。
彼女は、数多くの学生や若い教員の指導者として成長し、彼らの研究活動を支援し、次世代の経済学者を育成した。
Notable research contributions
いよいよ、教育と経済的成果の関係性の話になります。彼女の特筆すべき貢献として5つを挙げています。
①人的資本と教育における経済学
②女性の雇用と労働経済
③職場における女性の「静かな革命」
④学歴と労働市場の成果
⑤退役軍人援助法(GIビル、GI法)の遺産
彼女の研究は、教育と経済的成果の関係に明らかにし、労働市場が進む方向を決定するうえで教育が果たす重要な役割を浮き彫りにした。
ゴールディンの研究は、給与格差の一因となる複雑な側面への理解を深め、職場における男女格差に関する議論に変化をもたらした。
彼女は歴史上のデータを綿密に調査し、職場での男女の役割の発展とこれらの変化が社会に与えた影響を明らかにした。
ゴールディンは、研究のなかで、労働市場における成果が学歴とどのように相互作用するか調査した。
彼女の研究は、GI法の条項のとてつもなく大きな影響を明らかにし、GI法のおかげで何百万もの退役軍人が教育の機会を得ることができ、GI法は個人の生活だけでなく、経済全体に影響を与えた。
最終的に、クラウディア・ゴールディンの研究者としてのキャリアは、徹底した調査と知的活力が変革する可能性をもっている証拠となっている。
学生や意欲的な経済学者も同様に、クラウディア・ゴールディンの研究者キャリアから刺激を得ており、彼女のキャリアは、献身的な研究姿勢が社会全体に重要な影響を与えるであろうことを実証した。
+α
ジェンダー・ダイナミックス
文中に”gender dynamics”という言葉が出てきましたが、日本語にうまく訳せませんでした。端的にこの言葉が意味するところを理解できていませんでした。
ジェンダー・ダイナミックスの分析に関する研究論文によると、「ジェンダー・ダイナミクスの4つの指標」として以下が挙げられていました。
ダイナミックスは「力学」という訳で良いと思いますが、こちらの文章を読んで、差し詰め、「物事が女性と男性に対して与えるインパクト、影響」という理解が近そうかな…と思いました。(正確な定義を知りたいです…)
テニュア・トラック制度
初めて知りましたが、大学教員や研究者の終身雇用の制度とのことでした。
昨年、理研の雇止めの話が大きくニュースで取り上げられた記憶がありますが、日本の研究界で、研究者の雇用や賃金(加えて、キャリアパス)が手厚く整えられているとは考えにくそうです。
こういう記事を見ると果たして…実態としては、どのくらいの割合の方がテニュア・トラック制度を活用できて、十分な研究と生活を送れているのか、気になりました。
経済的流動性
これも初めて知りました。明確に定義しているものを見つけられなかったのですが、「経済的な優劣が、ある世代から次の世代へと引き継がれる頻度」といったことかと思います。「経済的流動性が低い」とは、「経済的な優劣が世代間を通じて引き継がれる頻度が高い」ことを意味します。
ゴールディンも、学歴と経済的流動性の関係を調査していましたが、人種と経済的流動性についても、高等教育政策研究所とビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団により調査が行われていました。
日本で聞かれる「親ガチャ」も、「経済的流動性が低い」状況といえるでしょう。
隠れた差別
公然の差別(overt discrimination)の対義語として位置づけられている隠された差別(convert discrimination)。
クラウディア・ゴールディンが、男女の賃金格差の原因の1つは、この「隠れた差別」と指摘しています。それが具体的にどのようなことかというと、
・雇用主が、多様性の要件を満たすために、宗教や性別、人種を不当に扱う
・男性の同僚が、女性の同僚に対して、礼儀正しさや騎士道精神*を誇張する
・管理職が、能力があるにも関わらず、一見合理的な理由引き合いに出して、中年社員の昇格を見落とす
というようなことが例として挙げられていました。
*騎士道精神:勇敢で、名誉を重んじ、レディファーストを守る、などの要素が特徴的。
「先入観や偏見による、わずかな、微妙な行動」と言われているように、恐らく、アクションを起こす側が悪気があってしているわけでもなく、単純に気づいていない場合もすごく多そうだし、同時に、受け取る側も同様の状況はあり得そうです。
会社や組織が新規にメンバーを受け入れる場合は、いわゆる「試験」や「審査」があるので、より、こういう状況は純化されていきそうです。1人1人が、組織外と接しておくことの重要性はこういうところにあるのかなと思いました。
GIビル(GI法)
これも初耳でした。「1944年復員兵援護法」や「退役軍人援助法」と呼ばれている法律です。戦時中の全ての退役軍人に報酬を与えたいという願いから、1944年に法案が提出され、可決・成立した法律でした。今日では、法律のみならず、退役軍人を支援するプログラム全体を指す言葉です。
この法律のなかに「教育恩典(education benefits)」が含まれており、1956年までに、780万人の退役軍人がGI法による教育給付を利用し、約220万人が大学に進学し、560万人が何らかの訓練プログラムを受けたという実績があるそうで、大学大衆化の一因とも言われています。
さらに、9.11後の2008年に成立した「ポスト9/11退役軍人教育支援法(Post-9/11 Veterans Educational Assistance Act of 2008)」により、退役軍人に対し、州の公立大学の学費を国が全額負担することとなっていました。
「教育」に価値を見出し、その重要性を認め、投資の意思決定をする、という米国の考え方が端々に表れていることを感じました。