『中国文学 曹雪芹の紅楼夢』
作者の曹雪芹(1715頃~1763)、名は霧といい、雪芹は別号の一つ。 清の康煕帝の頃には、四度も聖駕をあおいだ南京の名家であったが、雍正帝の時に父親が権力闘争に巻き込まれて失脚し、罷免・家財没収という憂き目に遭って北京に移る。幼い時は大官僚の裕福な家庭で育ち、その後没落という人生は、彼の唯一の作品である「紅楼夢』に、よく生かされている。又、主人公の賈宝玉と林黛玉、等の恋も、彼の実体験がもとになっていると言われている。晩年は、北京の西郊外で絵や詩を売って貧しい生活を支える一方、二十年余りをかけて『石頭記』(『紅楼夢』の原題。
当時人気のあった「水滸伝」と対にしたもの)を書いた。乾隆二十八年(一七六三)、息子の死を嘆き悲しむあまりに急逝。その為物語は、八十回の未完のままで放置されてたが、のちに高鶚の手によって後半四十回が書き加えられ、全百二十回として完成した 。大貴族の御曹司として生まれた賈宝玉が、十二金釵の少女たちと栄耀栄華の優雅な暮らしを繰り広げ、やがて没落していくさまを描いたストーリーは、出版後たびたび「淫書」として、発禁処分に遭う反面、熱烈な読者を持ち続けた。天子に嫁いだ貴妃のたった一日の里帰りのために作られた、贅を尽くした大観園のありさま、誕生日や詩会、折々の花見や、芝居見物といった遊興のさま、 少女たちの衣装や部屋の調度品の数々、口にする料理やお菓子などなど、当時の貴族の豪奢な生活を描いてた『紅楼夢』は、日本の「源氏物語」に比べられる、中国古典の傑作である。
曹雪芹の『紅楼夢』が世に出ると、その影響を受けた文学作品が、数多く書かれた。有名なところでは、『紅楼夢』の退廃する貴族の悲劇に対抗する形で、アットホームな家族物語を描いてみせた文康の『児女英雄伝』や、則天武后の女科挙と百花の生まれ変わりの物語を書いた李汝珍の『鏡花縁』、さらには十二金釵の女性たちを遊女に置きかえた韓邦慶の「海上花列伝』などがある。『紅楼夢』は、美貌と才智ともにすぐれた主人公の若い貴公子と、彼を取り囲む個性的な大勢の美しい女性たちとのロマンを追いつつ、貴公子が悟りへと至る道程をたどって終焉を迎えている。一大悲劇だけにとどまらない、奥深い印象を持つことができる。
それは、人生観や家族観、死生観 宗 教観、宇宙観まで、中国社会の伝統や習俗もきめ細かく描写していることからくるものである。紅楼の夢物語は儒教と道教が重要なベクトルになっている。 天上界に戻った主人公・買宝玉の才を惜しみ、地上界の皇帝が「文妙真人」の道号を賜ったことに象徴されるように、仙人へのあこがれが、始皇帝以ることを知るのである。また、『紅楼夢』は中国人のアイデンティティを小説化し中国人の世界観が作品を貫いている。 成立から二世紀半、古典とは言っても、現代人も問題なく理解できる中国語によって書かれている。若い世代にも『紅楼夢』 ファン がおり、北京や上海郊外には 「紅楼夢』のテーマパーク「大観園」がある。 買宝玉や才女・林黛玉、薛宝釵が誘う世界に、今も老若男女問 わず惹きつけられている。
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