見出し画像

高校生が企業に事業提携の提案! 企業担当者に白熱のプレゼン

高校生向けのアプリを企画し、コクヨに事業提携を提案せよーー。そんな“ミッション”に、32人のクラーク国際生が挑んだ。ターゲットは? 市場規模は? 競合アプリとの差別化戦略は? プロジェクトの集大成となる成果発表会を取材した。

2021年に開講した、クラーク記念国際高等学校のスマートスタディコース。オンラインと通信を組み合わせた学習形式や、生徒の目標達成をサポートする「コーチング」とならび同コースの特徴となっているのが、グループワーク形式の「PBL(Project Based Learning)」だ。

 PBLの目的は、仲間と協力してさまざまな課題に取り組みながら、コミュニケーション力や問題解決力を身につけることにある。企業との連携により行う「産学協同プログラム」も、PBLの一環としてクラーク国際が実施する学びのひとつ。2020年には楽天株式会社の協力を得て、英語学習アプリの開発をテーマにしたプロジェクトを行った。

2021年の産学協同プログラム テーマは「起業力育成」 

 2021年9月末にスタートした産学協同プログラムのテーマは、「起業力育成講座〜自ら学ぶ力を実践する〜」。東京、横浜、埼玉、千葉の4キャンパスから32名の生徒が参加し、講師には勉強ノート共有アプリ、「Clearnote」共同創業者の白石由己さんを招いた。今回のプロジェクトの内容は、高校生をターゲットにしたアプリを企画するとともに、そのアプリを使った業務提携プランを文房具やオフィス家具の製造・販売を行うコクヨ株式会社に提案するというもの。株式会社CLEARNOTEが2021年からコクヨグループに参加したことから、このような企画が実現した。

このプロジェクトを企画した「Clearnote」共同創業者の白石由己さん(前列右から2人目)と、授業をバックアップしたコクヨ株式会社経営企画本部イノベーションセンターの久我一成さん(前列右から3人目)。その他、コクヨグループの皆さんとスマートスタディコースの生徒たち。12月の最終発表会を終えて。

「ただ座って説明を聞くより、実際に飛び込んでみて初めてわかることは多いはず。このような機会を通じて、自分たちが将来生きていく社会とはどのような場所か、生徒に知ってほしいと考えています」

 クラーク記念国際高等学校業務推進部の山下学先生は、産学協同プログラムの企画意図をそう説明する。

「白石さんは昨年のプロジェクトにも参加してくださったご縁で、今年もお願いしました。私から依頼したのは、生徒が色々なことにチャレンジできる内容にしたいということと、グループ分けは全キャンパスの生徒が混ざるようにしたいということ。授業は毎週水曜日の3、4時間目だけなので時間は限られていますが、自分のキャンパス以外の生徒とも関わりを持って、思いを伝えたり受け取ったりする経験をしてほしかったんです」(山下先生)

授業への想いを語る山下先生

緊張の発表会 大人からも「本気」の質問

 12月1日の成果発表会は、2月にリニューアルされたばかりのコクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」で行われた。生徒は4人ずつ8つのチームに分かれて発表を行い、終了後にはコクヨの新規事業企画担当社員から質問やフィードバックを受ける。発表の持ち時間は9分間。終了2分前と30秒前に正面に立つ山下先生から合図が送られるとは言え、時間内に内容をすべておさめるのは決して簡単なことではない。

コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」。イノベーションのアイデアが詰まったオフィスで、課題告知と最終発表会が行われた。

 トップバッターを務めたのは、Bチーム。発表は、自分たちの“会社名”紹介からスタートした。
「これより、『ビューティースキン』のアプリ開発の成果を発表させていただきます。私たちは、“美しさ”をテーマにアプリ開発を行いました」
 このアプリの開発目的は、ユーザーが「シンデレラの靴のように」フィットする化粧品を探し出し、それぞれの美しさである「シンデレラビューティー」を追求できるようにすることだという。発表の中では、肌タイプ診断、ユーザーに合った化粧品の提案といったアプリの具体的な機能のほか、想定競合アプリとの違い、マネタイズプラン(収益計画)、プロモーション案なども紹介された。

Bチームの発表の様子

 生徒の表情、声からは緊張感と、自分たちが考案したアプリの良さをアピールしたいという熱意が伝わってくる。生徒が真剣ならば、受け手の大人も真剣そのもの。発表後にはコクヨ社員から「会員費以外で利益を出せる手段はありますか?」「ターゲットの広がりはどのくらい可能性があると思いますか?」「肌タイプ診断は、毎月するものですか?」と、質問が相次いだ。

コクヨの久我さんからも鋭い質問が寄せられた。

当たり前をひっくり返す 高校生の発想に注目

 発表の中で、生徒ひとりひとりの工夫が感じられたのが、冒頭のメンバー紹介だ。

「大阪に住んでいましたが、関西弁はあまり話せません」
「趣味は料理。でも丁寧すぎて、一つの野菜の千切りに1時間かかります」「今日は、過去一自信のある服を着てきました!」

 個性豊かな自己PRが、会場全体の雰囲気を和ませ、明るくする。その背景には、「初めに笑わせて相手を引き込めば、プレゼンは成功する」という白石さんの指導があったという。

 アプリの内容は「勉強」や「進路選び」に関するものが大半をしめたが、中には「高校生が自分で作るお弁当のレシピを共有する」といったユニークなものも。発表後には、コクヨ社員から「当たり前をひっくり返すことに意味がある。『親が作るものでしょ』っていうお弁当を、自分たちで作るという発想が面白い」「月数百円でお弁当作りから解放されるなら、親御さんも喜んで会員費を払うんじゃない?」といったポジティブなフィードバックが寄せられた。

好きなお弁当の具と最近の悩みを発表し、会場を和ませたチーム。自己紹介から、悩みを解決するためのお弁当のレシピ共有アプリの提案という内容につなげていった。

 今回、初の試みとなった業務提携案については、生徒たちもやや苦戦した模様。だが、「コクヨのノートに印刷されたQRコードを読み込んで参加するコラボ企画を実施する」「コクヨの付箋を貼った写真をインスタグラムに投稿するイベントを行う」など、高校生が日常的に使用するスマホやSNSを活用したアイディアが多く見受けられた。

企業にいても重要な「主体性」 自分にできることを考える

 司会進行を務めたコクヨ株式会社経営企画本部イノベーションセンターの久我一成さんは、発表に臨む生徒たちの様子を、驚きとともに見守っていたと話す。

「どのチームも時間内におさめていたし、PowerPoint(パワーポイント)やSlack(スラック)といったビジネス向けツールも使いこなしていて、今の高校生はすごいな、と。『大学の学部名が似ていてわかりづらいから、なんとかしたい』という着眼点も、現役高校生ならではで面白かった。ぼくも高校生だったころは工業化学だとか応用化学だとかどこがどう違うんだと思っていましたけど、社会人になるとそういう視点は忘れてしまうんですよね」(久我さん)

生徒の発表を見守った久我さん。

 コクヨのような大企業の中にいても、「自分は何ができるか」を常に考えること、主体性や自律性をもって仕事に取り組むことは大切だと久我さんは語る。

「社会人に求められるスキルは何かという問いにも結局明確な答えはないので、自分で見つけていくしかない。今回のようなプロジェクトは、答えのない問いに向き合う力を身につけるきっかけにもなるのではないでしょうか」(久我さん)

投票1位は進路選びアプリ 自身の悩みが発想の源に  

 各チームの発表は、生徒、コクヨ社員により採点され、その結果、生徒が選ぶ第一位には「ビューティースキン」が、コクヨ社員が選ぶ1位には、高校生の進路選びをサポートする「パスマップ」が選出された。

 パスマップというアプリ名は、進路探しの“旅” に出た高校生に、行くべき道(=パス)をわかりやすく示す地図(=マップ)を与える、というコンセプトに由来する。自分が知りたい進路情報になかなかたどり着けないという悩みは、金子さん(2年生)や小原さん(2年生)を始めとするチームのメンバー全員が抱えていたこと、さらにGoogleフォームを使ったアンケートをプロジェクトメンバーに実施したところ、「進路に関する情報の集め方がわからない」という声が上がったことが、この開発コンセプトにつながったという。

パスマップについて発表する小原さん。生徒たちはアプリの使用画面のプロトタイプを作り、その仕組みを説明する。

「ぼくは将来、義肢装具士として義手や義足の開発に携わりたいのですが、どこの大学へ行けば必要なスキルや知識を身につけられるのかがわかりません。自分の知りたい情報にもっと簡単にアクセスしたいという思いは、以前からありました」(金子さん)

「専門学校がいいのか大学がいいのか、東京がいいのか千葉がいいのか、進路選びって本当に難しいです。私の夢は看護師でできれば女子大に行きたいので、男女比のような細かい情報まで調べられるアプリがあればいいな、と感じたのが始まりです」(小原さん)

金子さん(写真左)と小原さん(写真右)。キャンパスが違うことで最初はコミュニケーションに不安があったが、今や冗談を言い合える間柄に。

発表会前週は 毎日Slackでやりとり

 ストリートビュー機能を使って校内を探索できるバーチャルオープンキャンパスや、質問に「はい」「いいえ」で答えることで自分に合う学校を探し出せるチャート、卒業生に直接コンタクトが取れる質問ツールなど、オリジナリティのある機能を備えたパスマップ。発表会はプレゼンも質疑応答もスムーズでチームワークの良さが感じられたが、「始めのころはZOOM会議を開催しても沈黙が続くなど、思うように話し合いが進まないこともありました」と小原さん。

 だが次第にチームメイト同士が打ち解け、発表会の前週はほぼ毎日のようにSlackや仮想オフィス空間サービスの FAMoffice (ファムオフィス)を使用して打ち合わせを行ったという。

Slackでのコミュニケーションの様子。

「私は9月にクラークに転校してきたばかりで、PBLも友だちが欲しくて参加しました。大勢の前でプレゼンなんて自分にできるか心配でしたが、みんな真剣に聞いてくれて、嬉しかった。グループワークに参加することで、人の意見を聞いたり、みんなの意見をまとめたり自分自身も成長できたように思います」(小原さん)

「ぼくは反対に、もっとITの知識を身につける必要があると感じました。チーム内にパソコンに詳しい子がいたので助けられましたが、自分としてはもう少し勉強して、スキルを身につけたいです」(金子さん)

全チームが時間内にプレゼン完了 生徒が見せた成長

 企画立ち上げから半年以上に渡りプロジェクトに携わった講師の白石さんは、発表会終了後、「どのチームもわかりやすいスライドを用意して、9分という時間内に発表をやり遂げました。予想以上のできです」とほっとした表情を見せた。 

「初めは宿題の回収率も良くなかったし、正直、これはまずいぞ! と思ったことも(笑)。でも生徒間の人間関係が出来上がるにつれ、みんなの意識も変わったようです。大半のチームが授業時間外にも追加で作業をしていましたし、発表の内容もアプリを使い慣れている彼ららしい視点が取り入れられていて良かった。ここまでできるならもう少し授業で掘り下げられたかも……という僕自身の反省を込めても、90点はあげられると思います」(白石さん)

プレゼン発表後、ほっとした表情で話す白石さん。

起業家とは「自分で決めて動ける人」 高校生でもここまでできる!

 生徒のプレゼンテーションでは、「TAM(獲得できる可能性のある最大の市場規模の意味) 」や「マネタイズプラン(収益化計画)」、「保守的な価格設定」といった専門的な言葉も多く聞かれた。「起業を想定した最低限のビジネスプランを作れるよう、スタートアップの基礎知識は教えました」と白石さん。会社員を経て2010年に起業し、Clearnoteを国内外に展開してきた経験を持つ白石さんは、このプロジェクトのテーマでもある「起業力」をどのように捉えているのだろうか。

普段のzoomを使った授業の様子。

「よく言われる起業家精神の定義は、リスクをとって困難なことにチャレンジすることでしょうが、ぼくはもっと拡大解釈をして、起業力の定義をセルフスターターになることだと思っています。セルフスターターというのは、自分で考えて、決めて、動ける人。他人の解決策を待たずに、行動できる人です」(白石さん)

授業を通して、生徒たちはセルフスターターになる術を学んだ。

 例えば、今回生徒がアプリ開発のニーズ調査のために利用したGoogleフォームを使ったアンケートも、セルフスターターになるための一つの方法になり得ると、白石さんは語る。

「例えば、チームの中で出た仮説をアンケートにかけると、また違った視点が見えてきます。以前は調査会社に頼まないとできなかったアンケート調査が、今は一人でできる時代。今回のアンケート対象はプロジェクト参加者だけでしたが、同じやり方でtwitterなどと連動させれば、サンプルの100や200は取れます。今回のプロジェクトを経て、生徒のみなさんが『自分たちはここまでできるんだ』と自信を持ってくれたら、嬉しい。本気で取り組んでくれた生徒のみなさんに、感謝したいです」(白石さん)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?