【ブルックナーと向き合う5】ブルックナー 交響曲第5番 変ロ長調 解説
(ボツになった方の解説です。加筆修正して掲載します)本日の演奏はシャルク版ではございません。ハース版でございます。はい、ノヴァーク版でもなく、ハース版でございます。
ブルックナーオタク(ブルヲタ)の方々ですとお分かりかとは思いますが、多くのクラシック音楽ファンからすると、違和感を感じた方もいらっしゃるかもしれません。これぞブルックナー!と力説すればするほど、ブルヲタ以外の多くのクラシック音楽ファンを苦手にさせることもある、不思議な魅力を持つ作曲家です。
ベートーヴェンの第九が喝采のうちに初演された1824年の秋に、オーストリア第3の都市リンツ近郊のアンスフェルデンで、ブルックナーは生まれました。地元リンツでは即興演奏が得意なオルガンの名手として、また和声や対位法の権威として名を上げ、音楽の都ウィーンに上京。教師として演奏家としての音楽稼業に物足りなかったのか、40代になってから交響曲を書き始めました。そんな時ワーグナーの音楽に触発され、かのウィーンにおける世紀の音楽派閥抗争、ワーグナー派対ブラームス派の争いに巻き込まれていきます。以降ワーグナー派の代表選手として、ブラームス派からの激しい攻撃を生涯受け続けることになります。
ワーグナーとブルックナーの関係は、シューマンとブラームスのような美しい師弟関係ではなく、アイドルとその熱狂的なファンのような関係であったようです。ブルックナーは生涯ワーグナーを敬愛していましたし、ちょうどこの交響曲5番を作曲中だった1876年、「ニーベルングの指環」初演の年にはバイロイトに詣でております。ワーグナーにとっては、個性的な交響曲を書く自分の取り巻きの一人ぐらいにしか思っていなかったのかも。それでもワーグナーは、「ベートーヴェンと並ぶ者をひとりだけ知っている。その名はブルックナーである」という言葉を残しています。
交響曲第5番はブルックナーの交響曲の中でも、ファンにはとりわけ人気の高い曲です。ブルックナー「らしさ」が凝縮された名曲。よく問題視される版・稿の問題も少ないので(冒頭の話はそういうことです)、ブルックナーの本来の姿をよく表しているともいえます。1875年、ウィーンに上京してすぐ作曲を始め、1878年に完成。弟子のシャルクが1893年に大幅な改訂をした版で初演しましたが、ブルックナーは死の間際。演奏会には立ち会えず、翌年に息を引き取りました。
第一楽章 Introduction. Adagio/Allegro (B-dur)
低弦のピッツィカートから導入部が静かに始まりますが、急にオーケストラの強奏があり、オーケストラの強い音楽がUrsprünglich(はじめの、元々の)まで続きます。その後、美しいヴィオラとチェロによる第1主題が始まります。ピッツィカートの上で不気味な第2主題をヴァイオリンが奏でたあと、木管楽器による流れるような第3主題が表れます。ブルックナーのソナタ形式の特徴として、3つの主題が出てくることが多いのですが、この第一楽章も3つの主題が変化していきます。ホルンとフルートの対話から始まる展開部、特にその後の木管の下降音形の中でのヴァイオリンの動きの部分は特に美しい部分です。
第二楽章 Adagio. Sehr langsam (D-moll)
もの悲しいメロディが、オーボエから始まり木管楽器によって奏でられます。弦のピッツィカートの伴奏は6拍子なのに、メロディは4拍子という変わった構成。不思議な浮遊感を漂わせながら音楽が進みます。第1主題とは対照的に第2主題は弦楽器のみによって「力強く、はっきりと」提示されます。悲しいメロディに対して明るく少し切ないメロディ。大きなクライマックスの後、また木管が現れ、2つの主題が変化していきます。ティンパニのトレモロを経て、静かに終わります。
第三楽章 Scherzo/Trio. Molto vivace (D-moll → B-dur)
ブルックナーの交響曲の中で最も聴きやすいのが、このスケルツォ楽章。ブルックナーのスケルツォは世俗的過ぎる面も大いにありますが、聴きやすい。どこまでも突き進んでいくような推進力のある第1主題と、第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンの対話で始まるのどかな第2主題、そしてホルンが活躍する田園風景のような中間部(トリオ)が美しい。
第四楽章 Finale. Adagio/Allegro moderato(B-dur)
あれ1楽章と同じかな?という回想がありますが、クラリネットやトランペットによって断ち切られます。オーボエによって2楽章も回想されますが、同じく断ち切られ、その断ち切る断片が第1主題として現れます。弦5部によるフーガにより力強く提示された後、3楽章を基にした優しい第2主題(ここも3楽章かな?と思わせる効果を狙っているのだと思います)も提示され、また金管の強奏による強い第3主題とコラールも提示され、全ての素材が揃います。
こういった前の楽章を思い起こさせる作曲手法は、ベートーヴェンの第九の第4楽章をオマージュしているのは明らかですが、ブルックナーらしい取り入れ方が特徴的です。
その後展開部に入り、第3主題と第1主題が複雑に絡み合う二重フーガが現れます。この二重フーガはさながらゴシック建築のようともいわれます。音楽は進みます。対位法的な美しさとトゥッティの壮大な音楽はブルックナーそのもの。この第4楽章を聴かずしてブルックナーは語れません。最後は作曲家自身により「コラール」と名付けられた荘厳な響きをクライマックスに、大団円を迎えます。
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