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やりたいことをやる -関西シティフィル第74回定期レポ

またひとつの演奏会が終わった。感動した。この感動があるからこそ、嫌いな練習もするし、足りない時間もかけるし、干からびたアイディアをひねって広報活動に励む。演奏会の感動。音楽の魔法。

魔法といえば、魔術師が必要だ。今回、いつぞやとは違う、ヤニック・パジェ先生の魔術師ぶり。魔法は深く、濃く、広く、長い間かけられた。お客さまも、魔法にかかっていらしたのでは。演奏者の一体感(アンケートにも多く書かれていた)という観点では、それこそ魔法のようなものだったといえる。雰囲気がよかった。そう、雰囲気がよかった。

全く話は変わるが、最近は動画をよく見る。YouTubeも観るがどちらかというと、NetflixやHuluでドラマを観たり、出張先でテレビを観たり、お勉強も動画教材でやる。4K画像でお茶の間で屁こきながら映画が観られる時代。映画館に行くモチベーションも随分と減った。リアルが減り、バーチャルで楽しむ。全部観ることのできない大量の動画コンテンツの山に押しつぶされそうになる。便利が進み過ぎて、不便な気もする。

そんな時代に、オーケストラなど、本当は天然記念物指定に一歩手前ぐらいな、非効率アナログ活動だ。プロでさえ、採算を取ることの難しい世界。生産性とは程遠い活動、時間拘束の最たるもの。効率的なものも取り入れてはいるが、そもそも、時間芸術という、概念定義の時点で破綻している。

もちろん音楽全てが、非生産的という訳ではない。YouTubeで多く観られるような、音楽系の動画など、とても良いものもある。実際、今回の演奏会でやった「ダフニスとクロエ」のバレエ全曲が、英ロイヤルバレエのクオリティ高い動画で観られる時代なのだ。とてもとても参考になった。

こんな時代に、それでも毎週、電車やバス・自転車、ある人は飛行機や新幹線を駆使してまで毎週集まって練習し、一回きりの演奏会をする。生産性があるとは決して言えない。効率的とも言い切れない。我が関西シティフィルは出席率の高さが売りのひとつだが、オーケストラの練習というのはときに「ムダ」な時間を過ごすことも多い。私が今回担当したバスクラリネット。この楽器は公式3.6kgと結構な重量がある。ケースを含めると5-6㎏を担いで練習に来ても、トータル10分くらいだけ吹いて終わり、ということもある。間違いなく吹いてる時間より飲んでる時間の方が長かった演奏会。ムダと言われればその通りでしかない。とくに今回は、よく飲んだ。私と飲んだくれた皆さま、ありがとう。またぜひ飲みましょう笑

芸術に生産性を求めることが野暮なのは重々承知ながら、敢えて書いている。

なぜそこまでして、ムダともいえる時間をかけ、重い荷物をもって集まり、飲み代含めお金もかけて、一回きりの演奏会をするのか。何度も何度も同じフレーズ、同じリズムを練習して、できるまで頑張って、ときにはその頑張りすら本番でムダにしながら、オーケストラにかけるのか。パート譜やスコアをにらみつけ、楽器を手入れし、精神と肉体を捧げて音楽に向き合うのか。仕事でもないのに。

実はこれは、もう答えが出ている問題だ。答えは、「そうすると決めたから」。理由などない。そこに報いは(ほとんど)ない。ただただ、やりたいからやっている。やりたいから、集まる。それは、草野球でも、草サッカーでも、徹夜の麻雀でも、パチンコでも同じ。

そんな当たり前なことを、今回の演奏会では思い出した。非日常を得るためだったり、華やかな舞台で聴衆の喝采を受ける快感(控えめに言って最高の気分だ)に浸りたかったり、大切な仲間との貴重な想い出づくりのためだったり。そういったことも大いににあるのだが、それとは違うレイヤーで、「やりたいことをやる」実感のようなものを、あらためて思い出した。

当たり前から生まれる「非日常」や「華やかな舞台」。これぞ、音楽をやる醍醐味。「音楽こそ、人生」といったのは朝比奈隆先生だったか。直に触れ合う、力。アナログが持つ、温度。非効率が生む、エネルギー。そのひとつひとつが集い、何物にも変え難いものになり、お客さまと、世界一素敵なホールで、分かちあう。

本当は演奏の詳細の感想や、運営面とくに広報(SNSがんばった!)で取り組んだ数々についても書きたかったので、少しだけ書く。

・ダフクロ木管ブラボー!姐さんとエスクラNさんとくにブラボー!!!みんなよくやった!一体感!
・打楽器ブラボー!とくにシンバルとスネアの男性陣とは二人ともよく一緒に飲んだし、一際感慨深し
・チャイ4はトゥッティが唸っていた!チャイコの魅力を再認識。みんなダイスキ、チャイコフスキー
・私はパジェさんの英語指導が好き。刺激になるし、やはり欧米圏の音楽であるからこそ、日本語では伝えきれないものを伝えてくれている気がする

・コロナ収束の流れとはいえ難しい運営側のオペレーションが続いた。そんな中でも、多くのお客さまに囲まれて演奏できたことに、感動
・SNSは、仕事で受けたデジタルマーケティング研修が役に立った(公私混同)多少は成果にもつながり、何よりも方向性をフワッとながら持てたのは一番の収穫か
・SNSやってて気づいたことメモ
 -動画は刺さりやすい
 -ネタはひねり出すことが大事
 -キャンペーンはドキドキしたけどやって良かった
 -とりあえず乗っかる
 -ポリシーは任意団体でも必要(あいまいでも)
 -スケジュールや標準もできたらなお良い
 -結局、ビジョンに行きつく

バスクラリネットとはしばらくお別れ。そういえば、自分のバスクラリネット演奏史上、一番難しい譜面だった(ぜんぜん目立たなかったけれども)。また演奏会がやってくる。次はメイントップ!さて「運命」に、向き合おう。 

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clarinetist3D
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