岡田将生研究⑪白マサキVS黒マサキ
最近世間を賑わわせているニュースのせいで、2020年に公開された映画「星の子」が密かに再注目されてる。新興宗教にのめり込む親を持つ女の子(芦田愛菜)の苦悩の物語。その中で岡田将生が演じるのはこの映画で唯一嫌な人間として描かれている教師の役。「岡田将生ってこういう役ハマる!」「嫌な奴の演技が最高」と黒マサキに対する賞賛の声が並ぶ。アカデミー賞外国語映画賞受賞で一躍脚光を浴びた「ドライブ・マイ・カー」でもカッとなって人を殺してしまう役どころを好演し、近年岡田の悪役は既定路線になりつつあり、期待を裏切らない悪役ぶりに黒マサキファンも増えているようだ。
黒マサキの代表格といえば映画「悪人」の増尾、「重力ピエロ」の春、ドラマ「リーガルハイ」の羽生、「伊藤君A to E」の伊藤など面白いことに前述の「星の子」の南や「ドライブ・マイ・カー」の高槻を含めて「顔が良い」ことが大前提の役柄が実に多い。黒マサキの魅力の裏側には「顔がいいことへの苦悩」のようなものが見え隠れする。
「星の子」の南。「顔がいい」というだけで、ちょっと生徒を送ったら変な噂を立てられたり、それが原因で教頭に怒られたり(シーンはないが台詞にある)と普通の教師であればさほど問題にならないことにも神経をすり減らす。加えて、授業中に話も聞かずにいつも自分の似顔絵を描いている生徒がいたら、それはイライラするだろう。確かに性格がいいとは言えないが、そういうイライラの積み重ねがあった上で、ある日主人公を怒鳴りつけるのだ。宗教に対する偏見を真っ向からぶつける役割は、イケメンという色眼鏡で見られ続けた南にこそふさわしいことに異論を与えない圧巻の演技。
「悪人」の増尾にしても「顔がいい」(加えて金持ち)というだけですり寄って来る女性は佳乃(満島ひかり)だけではなかったはずだ。どうせ顔に釣られて寄って来てるんだから何をしてもいいだろう、というのは傲慢だが、彼の性格を構築する一因に「良すぎる顔」は外せないピースである。
「重力ピエロ」の1シーンにも、通りすがりの女性たちが「写真を撮ってもいいですか?」と寄って来る場面がある。春はそれを無視するのだが、外見目当てで寄って来る人に対する嫌悪感があらわで、春の孤独を際立たせている。この映画のクライマックス、放火のシーンでは狂気を孕んだ美しさに目を奪われる。
一方白マサキの代表作は、「ホノカアボーイ」のレオ、「花盛りの君たちへ」の関目、「オトメン」の飛鳥、「ST赤と白の捜査ファイル」の百合根、「掟上今日子の備忘録」の厄介、「ゆとりですがなにか」の坂間、「大豆田とわ子と三人の元夫」の慎森、とどこか残念なイケメン、ヘタレでモテない役が圧倒的に多いのだ。「残念なイケメンをやらせたら右に出るものはいない」「岡田君のヘタレ役好き!」とこちらの白マサキにもファンは多い。
共通しているのは、どの役も愛情深い人間味のある役柄であるということ。関目は転校してきた瑞希(堀北真希)に最初に声をかける同級生で、レオは目が見えなくなったビーさん(賠償千恵子)を見捨てておけず、百合根は相手にされなくても根気強くSTメンバーに向き合う。厄介は報われなくても今日子さん(新垣結衣)に愛情を注ぎ続けてピンチを救い、慎森はとわ子(松たか子)が不幸にならないように押し掛ける。こんなに優しかったらイケメンでなくてもモテるはず。それなのにモテない設定に素直にうなずけてしまうのだから不思議だ。
そんな白マサキは弱そうに見えて芯が強く、一見強そうでも実は脆い黒マサキの対局にある。どちらも魅力的に見えるのは、どちらも人間の持つ本質に近いからではないだろうか?
最近は「書けないッ!?」の八神や「タリオ」の黒岩など、黒いと思わせて白のような役柄も好演している岡田。2022年秋ドラマ「ザ・トラベルナース」の公開された近影の衣装は、真っ白いナース服の下に黒いインナーがキリっと映える。