目指す方の、夢

夢の実現まであと一歩。


私が教師を志すようになって、かなりの月日が経った。きっかけは他からしたら些細なこと。「クラスに馴染めなかった私に居場所をくれた先生」にただひたすらに憧れた。

今でも鮮明に覚えているのは、自己紹介シート(新学期に記入するもの)を記入した時のことだ。
私は歌うことが好きだった。音楽家だった母の影響で幼い頃からジャンルを問わず様々な楽曲に触れていた。音楽は私を安心させ、居心地の悪かった他者との空間も、居場所へと変化させた。


【好きな食べ物は?】
ない。
【好きな教科は?】
ない。
【自分はどんな性格?】
ない。(どういうことだ)


我ながらひねくれ女児だった。名前と誕生日、自分を修飾する確定した事実のみ記入していた。迷わず「ない。」と記入する様子を机間巡視していた先生は見つめていた。どんな表情をしていたのかは分からない。興味もなかった。怒られるのかな、と思いながら手を進めた。



【このクラスで頑張りたいことは?】


迷いがあった。「合唱」その言葉が頭の端に浮かんだ。クラスで、ひとりでは出来ないこと、「合唱」。


【このクラスで頑張りたいことは?】
合唱。
【このクラスで頑張りたいことは?】
合唱 なし。


無理だと思った。すぐに消した。そもそもクラスで頑張りたいことは、勉強とか運動会とかを普通は書くものだ。普通、か。普通も出来ないのか、私は。クラスメイトが談笑しながら書き進める中で、ひとり絶望を感じていたことを覚えている。


1週間程後のことだ。外で学級会をやってみようと先生。心の中で毒づきながら、列に並ぶ。

「先生とみんなが並ぶのどっちが早いかな?静かに移動美しく整列!健闘を祈る!」

桜の散り終えた校庭に出ると、先生はいた。
職員室から続く継ぎ接ぎのケーブルの先に、先生はいた。先生と、オルガンがいた。

「美しく整列」することを忘れ、クラスメイトはオルガンに駆け寄った。
「これから何が起こるのだろう?」疑問符や高揚感を輪の外で感じながら、ゆっくりと近づいた時、聞き馴染みのあるメロディーが耳に飛び込んだ。



『翼をください』


知ってる。少し顔を上げた。
みんなも知っていた。自然と声が集まる。


今 私の願いごとが
かなうならば 翼がほしい
この背中に 鳥のように
白い翼 つけてください

この大空に 翼をひろげ
飛んで行きたいよ
悲しみのない 自由な空へ
翼 はためかせ 行きたい

子供のとき 夢見たこと
今も同じ夢に 見ている

この大空に 翼をひろげ
飛んで行きたいよ
悲しみのない 自由な空へ
翼 はためかせ

この大空に 翼をひろげ
飛んで行きたいよ
悲しみのない 自由な空へ
翼 はためかせ

この大空に 翼をひろげ
飛んで行きたいよ
悲しみのない 自由な空へ
翼 はためかせ 

この大空に翼をひろげ
飛んで行きたいよ
悲しみのない 自由な空へ

翼 はためかせ 行きたい


「居心地がいい」温かな感情だった。演奏を終えた私たちと先生はお互い見つめ合い、笑いあった。

「これ、合唱頑張ってみたいんだけど!今すごかった!みんな翼見えたよ!見てご覧?」

合唱頑張ってみたい、聞き覚えがあった。見覚えがあったの方が正しいのか。

「合唱ってみんなでひとつになれるんだ。僕は合唱が大好きなんだ。1年間いろんな曲を楽しんでみない?」

先生と目が合った。勘違いだったかもしれない。本当に偶然だったと思う。先生は私が本当は合唱を頑張ってみたいことに気がついていたのかもしれない。怖い存在の大人が自分のことを見てくれて、考えを肯定してくれた。些細な事実が私を楽にさせた。





私は教師に憧れを持っているのか、「クラスに馴染めなかった私に居場所をくれた先生」に憧れているのか、時々分からなくなる時がある。
恐らく後者だ。でも決してその人になりたい訳では無い。「ひとりひとりと向き合い続ける姿勢を大切に出来る教師」に憧れている。



なぜこんな話をしたのか。
それは、

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