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金融教育と投資教育②

1.投資は難しい?

「どんな仕事をしているのか?」と聞かれると、その返答に躊躇してしまう。マーケット関連の仕事をしていますと答えると、スーパーマーケットと思われる。市場で取引していますと回答すると、「市場??」という困惑が見てとれる。そこで、「金融市場で株とか債券とかを取引する仕事です」と少し踏み込んで説明すると、いつも同じ反応が返ってくる。「なんか難しそうですね」「株とか全然分からないんですよ」こういう反応は特に若い人から多く受ける。私はその反応に違和感を感じてきた。株式市場の仕組みは、決して難しいものではない。勝つことは難しい?それはその通りだが、そもそも勝つという考え方が、株式市場への「投資」を歪曲している。ましてや、株式取引を開始することは、何の難しさもない。まずは、そのあたりの誤解から解いていきたい。

2.人間が1人で達成できることなんて、たかが知れている

「人間が1人で達成できることなんて、たかが知れている。だから協力しましょう!」あるいは、「人類は厳しい生存競争の中で、単独ではなく集団で協力することで繁栄してきた」
恐らく、多くの人はこうした主張に違和感はないだろう。実際にその通りだ。そして、「人生は1度きり」ということにも、とりあえず反論はないだろう。株式投資とは、まさにこうした人類の繁栄の歴史の法則に則ったものであり、個人の限界を突破し、資本主義のアドバンテージを最大限に活かすことなのだ。
どういうことか?あなたが、例えば米国のゴールドマン・サックスの株価を購入したとする。そのことの意味は、ゴールドマン・サックスの優秀な何万人の社員が、あなたのために働いてくれていると考えて差し支えない。彼らの努力で会社の業績が向上すれば、それが配当となってあなたに還元されるし、株価が上昇することで、あなたの株価は売却すれば益をもたらすからだ。ゴールドマン・サックスに入社するのは、東京大学卒業生でも簡単ではない。しかし、その仲間になるのは実に簡単なのだ。単に株を買えばいいだけなのだ。また、あなたが、医療機関の株を買えば、あなたは医師免許も取得していないのに、医者になったに等しい。直接に患者を治療しているわけではないものの、広義で言えば医療チームの1員として、間接的に医療に携わることになる。弁護士やコンサルの会社に投資すれば、超優秀な人々があなたの人生のパートナーになるということだ。これは実はすごいことなのだ。株式市場以外にこんなことは実現できない。しかも、株式市場は超フェアで寛大だ。あなたが、誰で、どんな人種で、どんな政治的な信条を持とうが、どんな性格だろうが受け入れてくれる。人間には限界がある。体が一つしかないという限界と、1日に時間は24時間しかないという限界である。また、我々は疲れて眠らねばならない。実は投資というのは、そういう限界をも突破する行為でもある。100社の企業に投資したら、100社の企業、そこで働く何万人の社員があなたのために働いてくれているとことだ。外国企業に投資するなら、あなたが寝ている間に必死にあなたのために働いてくれている。株式投資とは、個人の力を無限に増殖する分身の術なのだ。従って、この分身の術を知り、活用しないというのは、資本主義社会では実にもったいないことなのだ。自分に自信がない、自分の会社で活躍できない、明るい未来が描けないという人は多いだろう。資本主義社会では、そういうことが起こる。しかし、そういう厳しい境遇を変えられるのが、株式投資である。米国でロナルド・リードさんのケースは、よく語られる実例だ。彼はガソリンスタンドの店員や、デパートの掃除夫として生涯を終えた人だ。いわゆる典型的なブルーワーカーであり、給料も恵まれていなかったはずだ。しかし、少ない資金をこつこつと米国株(優良な約100銘柄弱)に長期投資し、1度も売却しなかったのだろう。92歳で亡くなるころには日本円で10億円近い資産に積み上げたのである。誰も彼がそんな資産を築いているとは知らず、その資産は遺言で子供たちや地元の図書館に寄付されたという話だ。まさに、彼は自分の仕事では稼げなかったが、分身の術として投資した約100銘柄(JPモルガンやダウ・ケミカル)の企業の小さなオーナーとなることで、富を築いたのである。これが分身の術の力だ。
最近話題のメタバースの本質も、分身の術である。メタバースは体が一つという限界を超える可能性を秘めているから、これほど注目されているのだ。しかし、株式投資という究極のメタバースは既に存在しているのだから、私は株式投資でとりあえず十分とも考えている。

3.でも株式投資って、企業の研究とか決算書の分析とか、なんか難しいでしょ?


株式投資には、そういうイメージがついている。私はいつもこう言っている。「何に興味ありますか?」そこで「ゲームが好きです」との返事だったら、「いいですねー。自分が好きなゲーム会社の株を買えばいいんですよ」と答える。「家でネットフリックで韓国ドラマを見るのが好きなんです」という返事がくれば、「もう購入する株の具体名が出ましたねー。ネットフリックスの株を買ったらいいですよ。あるいは韓国ドラマの制作会社の株価もいいんじゃないですか?」と奨める。なんと、適当な回答だろうか。しかし、本音である。株式投資をスタートするにあたって、難しい企業研究なんて必要ない。自分の生活のなかで、好きと感じるものには、自分が好きな何かがある。それを頭ではなくても、ハートで感じている。そして、好きだからこそ、自然と企業研究はできているのだ。ゲームが好きで、毎日プレイしている人は、アナリストよりもそのゲームの本質を理解しているのだ。だから、興味があるものの株を買うのが一番よい。まずは、そこからだ。あるいは、自分が素敵だなと感じる企業の株でもいい。素敵の対象は何でもいい。私がお薦めしたいのは、CMである。例えばコカ・コーラのCMはその完成度の高さで有名だ。あのCMを見ると、なんかコーラーのシュワーという感じを味わいたくなる。また、岩谷産業は水素関連の企業だが、CMを見れば岩谷=水素であることがよく分かるし、三和シャッターの優しい感じのCMは企業文化が感じられる。視聴者に届くCMを作成できるということは、マーケティングが優れているということであるし、そもそもCMを出せる資金力もあるということだ。そういう企業に関心を持って、少し調べてまずは投資してみたらいいだろう。そして、こういう感覚で自分の周囲を見渡すことが重要なのだ。実際に株式に投資をしなくとも、もう今日から世界は変わり始める。人間は見ているようで、何も見ていない。しかし、周囲の全てのものが投資対象の可能性であることを意識し始めると、石鹸一つ、歯磨き粉一つ、食卓のパンや調味料でさえ、昨日までとは全く違う角度で見るようになる。これが人間の凄い能力である。人間は、その瞬間から少し変化できるのである。「でも、お金を損するかもしれないですよね?」次回は、そこからスタートしよう。(続く)

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