来週の相場見通し(10/18~10/22)
マーケットのテーマは、インフレの長期化の可能性と企業業績への影響に集中している。原油価格は2014年以来の1バレル=80ドル台へと上昇、石炭価格は史上最高値を更新している。天然ガス価格は、プーチン大統領が欧州の天然ガス需要に応える姿勢を示したことで、一時はピークから25%急落したが、その後は再びじりじりと上昇している。(下図)市場は、本当にロシアからの供給増が確認できるまで疑心暗鬼なのだろう。
中国でも電力不足により、複数の地域で電力制限措置が取られている。但し、中国の場合はこれまでも大規模な電力不足は何度も発生してきた。直近では昨年末も浙江省を中心に電力制限措置は発動されたし、2011年や2008年にも大規模な電力不足が起こっている。つまりは、慣れているということだ。こうした中、中国政府は「エネルギー安全保障とサプライチェーン安定のための6つの確保」を発表し、国内石炭生産の加速や、電力料金の引き上げなどの対応を図っている。国内石炭生産に関しては、内モンゴル地区の72の炭坑にただちに1億トンの即時生産を命じたと報じられている。石炭1億トン・・・日本の年間の石炭使用料は2019年で1億4千万トンだった。また、中国が20年にインドネシアから輸入した石炭が1億3千万トンだった。つまりは、相当な生産量である。中国の恐ろしいところは、そうした命令は何が何でも実行されるということだ。そうでないと責任問題が浮上してしまう。中国については、電力不足問題は力技でなんとかするだろう。但し、当面は中国の海外からの爆買いが継続することから、国際的なエネルギー価格は高止まる展開が想定される。
それにしても、11月よりCOP26が開催されるが、最悪のタイミングと言える。今回のCOP26で各国は、「国が決定する貢献(NDC:Nationally Determined Contribution)」を提出し、排出量削減への取り組みを示さなくてはいけないため、注目度が高かった。しかし、中国は当面の電力需要のため化石燃料を増やしており、習近平主席も会議に出席しないようだ。欧州の電力不足も性急に脱炭素目標を推し進めたことの副作用と見られており、少なくとも足元では気候変動問題よりも、この冬場のエネルギー確保が各国の最優先課題となっている。つまりは、COP26はどこか盛り上がりに欠けそうだ。
さて、日経平均株価は、10/6に先物ベースで2万7千円割れまで下落したが、岸田総理が金融所得課税見直しについて当面は検討しない姿勢を示したこと、「分配ありきの成長」ではなく、成長戦略の重要性を表明したこと、海外のリスク要因の後退により、日経平均株価は2万9千円台を回復した。岸田政権については、財務省寄りの姿勢、改革マインドの弱さを市場は嫌気した。岸田総理の所信表明演説では、「改革」という言葉が一度も使われなかったことも大きな話題になった。しかし、この政権の真の姿は、甘利幹事長を中心とした経産省寄りの政権である。そのことが徐々に判明しつつある。株価が回復していることや、為替市場で円安が進行しているのも、そのためであると考える。
例えば、自民党の党公約にそれは顕著である。自民党の政策BANKには詳細な政策が掲げられているが、岸田政権肝いりの「新しい資本主義で分厚い中間層を再構築する」という大きな目標があるが、その具体策として掲げられている順番と項目は以下の通りだ。
そして、この政策BANKの中で私がカウントしたところ、「技術開発」というワードが23回使用されていたほか、「規制改革」が7回、「イノベーション」が8回、そして「分配」は2回であった。岸田政権の分配政策とは、かなり実際の政策集の内容は異なるのである。私は最初にこの政策集を見た時の印象は「サナエノミクス」である。成長戦略、国家安全保障戦略、先端技術分野への集中投資が網羅されている。総裁選挙において、高市さんが勝利した場合は、海外投資家は株高、円安で反応するというのが、市場の一般的な見方であった。岸田総裁誕生後は、株安、円高となったが、自民党の公約が出てきてからは、株高、円安に転じている。海外投資家にも、公約が英訳され、少しずつこの政権の本質が広がりつつあるのではないだろうか。
さて、衆院選挙は10/31に迫っている。ちなみに公示日の19日も、投開票日の31日も政治的には本来はタブーの「仏滅」である。岸田総理は、そんな政治の縁起よりも、早期の選挙を望んだということだ。恐らく、その戦略は功を奏しそうだ。最大野党の立憲民主党の政党支持率が一向に上がらない。未だに5%~10%程度だ。海外の選挙なら20%以下は泡沫政党である。野党共闘については、289の小選挙区の内、220程度で共産党との調整が成功したと言われているが、時間がもっとあれば、更に20議席以上の積み上げはできたとも言われている。こうした中、新たに連合の会長に就任した芳野氏は「共産党との閣外協力はあり得ない」と発言しており、立憲民主党の立場の難しさが鮮明になっている。岸田政権の支持率は低いとはいえ、自民党総裁選によって自民党の政党支持率は大きく上昇しており、衆院選では現行の議席数は多少減らしても、しっかりと勝利するだろう。与党での過半数獲得という勝敗ラインなら、余裕と言っていい。但し、10/24には岸田政権での初の参院議員の補欠選挙が静岡と山口で予定されている。これは一応衆院選の前哨戦として注目しておきたい。
欧米金利がじりじり上昇している。米長期金利もドイツ金利も8月末から約30bp上昇しているが、期待インフレ率についてはドイツが30bp上昇したのに対して、米国は15bpに留まっており、市場はFRBのインフレは一過性との見解をリスペクトしている。そのリスペクトの象徴でもあるパウエルFRB議長の再任人事が遅れている。任期は来年の2月であるが、本当なら9月には再任が見込まれていたが、FRBメンバーの不適切な株式取引等もあり、民主党左派からは再任に反対の意見も出ている。最終的に再任が決定すれば、米金利は低下し、株式市場には安心材料となる。ちなみに、クオールズFRB副議長の任期が13日に到来し、金融監督等の権限はなくなったが、後任は決まっていない。
マーケットのインフレ長期化への懸念は強いものの、先週の10年債と30年債の入札は極めて堅調な結果となり、債券市場のプレイヤーにおいては、米国債には旺盛な需要が継続していることが示された。ロンガーランが2.5%で維持されている間は、30年金利は大きく崩れにくく、長期金利の上昇を抑制すると思われる。インフレとかスタグフレーションという言葉が飛び交う中での入札で、これだけの需要を集めたことは、米国債券市場にとっては朗報であり、当面の金利の安定に繋がるだろう。
為替市場でドル高円安基調が進んでいる。112円を明確に上抜けて114円台に突入したことで、2018年10月の114.55銭も視野に入る。その水準も抜ける場合には、心理的な115円、2016年の118円台が見えてくる。日銀短観の想定為替レートは107円台であり、製造業の決算には上方修正の可能性が高まる。
バイデン政権の支持率が低迷している。カマラ・ハリス副大統領の評価も冴えない。インフラ投資法案は成立しても即効性に乏しいため、支持率回復に繋がるか不明だ。10月のG20での最低法人税導入とデジタル課税の共通ルール策定、COP26などの外交問題も国民の関心は低い。ガソリン価格の上昇や移民問題、国内の犯罪件数増加など難しい問題を抱えており、来年の中間選挙はリスクイベントになりつつある。そういう中で、11/2にバージニア州で知事選挙が行われる。バージニア州は近年では民主党が強い地域だが、直近の世論調査では民主党のテリー・マコーリフ氏と、共和党のグレン・ヤンキン氏は超接戦の様相を呈している。バイデン大統領になってから初の選挙であり、民主党は負けられない。バイデン大統領自身もバージニア州に乗り込み応援している。ここで共和党知事が誕生するようだと、ますますバイデン大統領の支持率は下がりそうだ。
来週については、徐々に本格化する日米の決算発表が注目される。足元の業績はもちろん、サプライチェーンや材料価格高騰のコストの見通しと通期ガイダンスへの影響度合いを確認したい。また、中国の経済指標も注目されるほか、恒大集団のデフォルト問題もポイントとなるだろう。このところ3週目の金曜日に崩れていた米国株が先週は大きく上昇しており、足元の地合いは強い。日経平均株価の予想レンジは28,700円から29,700円を想定する。