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2024年のマーケットからの教訓

2024年もマーケットでは、色々なことが起こった。24年の最後に、今年のマーケットからの教訓を紹介しておきたい。25年のマーケットでも役立つはずだ。

2024年も6月頃から、米国景気後退の話が盛んだった。特に失業率が上昇し、「直近3カ月間の平均失業率が過去1年間の最低値を0.5ポイント上回れば、景気後退に陥る可能性が高い」というサームルールの条件を8月ヒットした際には、「いよいよ景気後退か」という議論が飛び交っていた。
逆イールドも同様だ。過去の景気後退時には、その1年から1年半程度前に逆イールドが発生していたことから、逆イールドの出現は景気後退の予兆とされる。しかし、こういう過去の経験則は絶対的なものではなく、そういうアノマリーを踏まえて、過去と今回の事象の何が異なるのかを検討していく作業が必要だ。経済指標などは、色々な指標を眺めながら、そこに強弱をつけて複合的に判断するものだ。それらしい過去のアノマリーは、それを信じるのではなく、過去と現在の分析の1つの手段として考えるべきだろう。

米国株の「割高」という指摘は、25年も色々な場面で耳にすることだろう。この「割高」というからには、何か基準があり、その基準に対して「割高」だという議論になる。市場で「割高」と指摘される際には、だいたいはバリュエーション指標である「PER」について、過去の平均や過去に著しくPERが高くなった時期と比較して使われることが多い。面白いことにS&P500などの指数については、ほとんど「PBRからの割高、割安」の議論はされない。成長企業はPBRで捉えることが難しいからだ。従って割高、割安の議論は、PERが使われるのだが、これも時代環境に変化がなく、昨日、今日、明日にほとんど変化がない環境でないと、あまり意味がない。産業革命みたいな大きな変化が生じている市場環境では、「今」が重要であり、過去との単純な比較は無意味などころか弊害になる。例えば、米国株はずっと割高と言われ続けながら、今年も素晴らしい上昇を記録した。過去と比べて割高だから、S&P500をショートにしていたら、どれだけの痛みを負うことになったか。

もう一つ「債券市場の金利との対比で割高、割安」という指摘もよくされる。先ほどのPERよりは、こちらのほうが説得力はある。例えばPERが22倍だとすると、逆数である益利回りは4.5%程度になる。その株式市場の益利回りと、米国長期金利を比較したものが、「イールドスプレッド」と呼ばれるものだ。一般的に債券は満期まで保有していれば元本が棄損することは少ないため、特に米国の債券は「リスクフリー資産」的に捉えられる。一方で株式市場は債券市場に比べると、リスクが大きいので株式市場の益利回りは、債券市場の金利よりも高いはずである。投資家は、リスクがフリーの米国債の4.5%を買えるのに、リスクがある株式市場の益利回りも4.5%では、債券市場に対して株式市場は割高過ぎて買えない。むしろ、株式市場から債券市場に資金がシフトして、株式市場が崩れるという理屈だ。何となく説得力があるように思える。しかし、これも盲信するのは非常に危険である。まず、株式市場のPERの逆数を取って益利回りとして、債券市場の金利と同じように比較することに無理がある。何故なら株式市場のプレイヤーの多くは、その時点の株価の収益性で判断するよりも、長期的な値上がりを期待して購入するからだ。益利回りには株式市場の値上がり益という重要なファクターが抜けている。また、実際のマーケットでは債券市場と株式市場尾プレイヤーは、全く同じわけではなく、経済合理性に基づいて株式市場から債券市場に、債券市場から株式市場に資金をシフトしているわけではない。株式市場のプレイヤーは、S&P500が割高だとしたら、割安な別の株に資金をシフトするもので、債券市場に資金を移動させるわけではないだろう。
また、この債券市場と株式市場の比較は、「債券市場は安全でリスクフリーである」という前提で成立している。それはデフレ時代の発想だ。昨今のようにインフレ環境下では、米国債投資が非常にリスキーになっており、プロ投資家は債券投資で大きく損を出してきた。満期まで保有できるのは個人投資家であり、債券市場の中心であるプロ投資家は時価評価に晒される中で、満期まで保有できるわけではない。そうなると、インフレ環境下では、プロの債券投資家にとっては、米国債はリスクフリー資産どころか、リスキーな資産になってきたわけで、インフレに強い米国株式に対して、債券市場にリスクプレミアムが要求されても不思議ではないのだ。やや極端に説明しているが、申し上げたいことは金融環境が2010年代とは大きく変化している中では、色々なマーケットの過去のものさしや尺度もまた変化しているということだ。ゆえに、米国株は「割高」という声には、それが「今の環境」で許容できる範囲内にあるのか、さすがに許容できない水準に達しているのか、そこを常に考える必要があるだろう。

そうした中で、実質金利の動向は注目するべきだ。下のチャートは、実質金利だが、短期間で大きく上昇した局面と、それまでの高値を更新した時期を、丸や四角で網枠している。そして、その下のS&P500のチャートは、実質金利の上昇局面に応じた株価の推移だ。

(米国実質金利推移)
(S&P500推移)

このように実質金利が短期間に大きく上昇したり、それまでの実質金利の高値を抜けて上昇する際には、株式市場は大きく動揺していることが分かるだろう。従って23年に記録した実質金利の250bpを超えていくような局面では、株式市場はいったん調整局面に入る可能性は高いだろう。
但し、注意が必要なことは、それでも株式市場は「その新たな実質金利の水準に時間をかけて適応する」ということだ。実質金利の上昇でいったんは調整局面になっても、やがて高い実質金利の水準に市場の目線は慣れていくのだ。

24年はトランプリスクが大きく語られた。また米国の財政状態の悪化も指摘され、米国債のタームプレミアム上昇を促した。米国債格下げの噂も絶えない。もちろん、色々な問題はあるのだろうが、そこまで深刻だろうか?米国の国債の格付けはムーディーズでAAA、S&PでAA+である。米国の財政は持続不能・・・どのくらいの時間軸の話だろう。2100年とかなら反対はしないが、我々マーケットプレイヤーには関係ないものだ。そして、少なくともマーケット参加者で米国の信用力を真剣に危ぶんでいる人はいない。

2025年のリスクとしては、金利上昇による「バリュエーション調整」が想定される。しかし、バリュエーション調整とは、その名前の通り、いったんバリュエーションが健全な水準に戻るということだ。すなわち、本来は定期的に発生する市場の自浄作用だ。米国株式市場では1年に3回は5%の下落、1年に1回程度は10%超の調整局面あるとか、2年~3年に1回は20%超の下落があると指摘されるが、そういう下落は市場の自浄作用であり、健全化だ。
しかし、いざ下落局面がやって来ると、人々はそれを「健全化」とは受け止めずに、「この世の終わり」みたいに悲観的になり、その結果、マーケットがオーバーシュートして売られたりするものだ。

もちろん、相場急落の局面では、バリュエーション調整ではなく、本格的なリスクオフの局面もある。その見極めは非常に重要となるが、1つの教訓としては本格的なリスクオフの場合、株式市場だけが下落する展開にはならない。あらゆる市場が連動して壊れていく。一例としては下のような状況になる。逆に言えば、他の市場は平穏な中で、株式市場だけが売られているのなら、それはバリュエーション調整であり、健全化ということになる。つまりは、「買い場」だということだ。

時代の象徴銘柄の動向には注目したい、現在で言えば「エヌビディア」のような企業であり、そのCEOがどんなことに注目し、どんな発言をするのか。こうした企業にしか分からない時代の変化や未来があるものであり、その言動の中には、いろいろなヒントが眠っている。
ウクライナ戦争や中東の戦争は、戦争というものが「どんどんエスカレート」することを改めて痛感させられた。24年は北朝鮮がロシアに派兵するという、ちょっと戦後の世界観では考えられないようなことも起こった。イランとイスラエルが一触即発状態になる場面もあった。「まさか」のハードルが壊れている。戦後初の「核兵器の使用」であるとか、「ホルムズ海峡の閉鎖」、「中国の侵攻」など、これまでの常識では発生する可能性が小さいリスクが起こり得る国際情勢になっている。地政学リスクを常に気にすることはできないが、色々なシミュレーションは想定しておくべきだろう。

24年も世界各地の選挙、トランプ氏の大統領選勝利、日本でもまさかの少数与党政権の誕生など、いろいろなことがあった。株式市場は「想定外」「不透明性」を何より嫌うため、大きなイベントを警戒する。足元では、25年1月のトランプ氏の就任日における「DAY1」リスクを警戒している。しかし、イベントは時間の経過で全て過ぎ去っていく。その過程で株式市場は全てを織り込んでいく。現実をリアルに受け入れるということに関しては、マーケットほど優れたものはない。もしも世界の事象が想定したよりも、常に悪い結果になるのなら、株式市場は上昇しないだろう。しかし、実際には「心配事の9割は起こらない」と言われるのが我々の社会だ。というよりも、事前に心配し過ぎるのが人間社会なのであろう。ゆえに株式市場も「最悪を織り込むが、実際にはそれほど悪くない」という修正の繰り返しで株価は上昇していく。そういうものなのだ。ということで、25年もポジティブにリアルに取り組んでいきましょう!!

皆さま、良いお年をお迎えください。

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