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ノスタルジア ―記憶のなかの景色@東京都美術館
「懐かしさ」って過去の思い出にふけいることだと思っていたけど、ちがうのかもしれない。
その感情を否定することこそ、むしろ過去への固執で、本当の「懐かしさ」は、実は過去ではなく未来を向いている…?
東京都美術館のギャラリーBで開催中の「ノスタルジア ―記憶のなかの景色」を見終わった私は、そんなことを思いながら、胸にほっこり熱く高揚するものを持って帰った。
レビューというより感じたことをツラツラ書いた乱文。ご参考まで。展覧会のことだけ読みたい方は3に飛んでください。
1. 喧騒を逃れてたどりついたアートの泉
その日はそもそも、会期終了が間近に迫っていた田中一村展を見るために久しぶりに上野駅に降り立った。じつに半年ぶりぐらいだったからか、着いてすぐにその人の多さにたじろいだ。
詳しくはのちに田中一村展のレビューで書く予定だが、上野公園の人の多さに負けず劣らず凄かったのが、田中一村展の会場内だった。人混みが苦手なわたしは、それでもせっかくここまで来たからにはなにかを得たいと必死にメモをとりながら、田中一村の人生を高速に体感し、ポストカードを大量に買って会場をあとにした。
田中一村の人生については、noteを書きながらあらためてゆっくり振り返ることにしたので、でそれはそれでいい。が、その一方で、はるばる上野までやってきて消化不良だったのは「美術館ですごす珠玉の時間」への期待だった。
ああ。今日はゆっくり、アートと対峙して内省できると思ったのに。。。
そんなことを思いながらロッカーの反対側の壁側にふと目をやると「ノスタルジア」というポスターが目に飛び込んできた。
ノスタルジア。2020年代、激動のスマホ&動画時代には埋もれていた過去の記憶や記録が蘇ることも多くなり、世界はいっそう「レトロ」「郷愁」に興味をもち、より多くの人々の心を動かすようになっている。
かくいう自分も、年を重ねるごとに見る風景も耳にする音楽もそのすべてにノスタルジーを感じるようになっている気さえしている。(そしてその感情はそんなに好きではない)いずれにしても今この言葉に関心を持たないわけにはいかないという本能的ななにかを感じた。
それからこの「上野アーティストプロジェクト2024」は現役アーティストの作品展示ということもあり、現代アートに関心が大きい今のわたしにもってこいの企画展だった。一村展のチケットがあると無料入場できるとのことで、見ない手はない。
一村展の影に隠れて、そっとポスターが置いてあるだけの入口で密かに胸を躍らせながら、わたしはさっそうと自動ドアをあけた。
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階段を降りて会場に向かうと、そこには求めていたアートの泉があった。
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これだ。これなんです。わたしの求めていた空気。いやそれ以上だったかもしれない。こんな素敵なギャラリーがあっただなんて初めて知った。大きな空間を仕切ることなく贅沢につかった石造りの素敵な展示室で、素敵なアートと向き合う静かな時間。上野まではるばる来たのは、この展示を見るためだったのか。
ガランとした展示会場の真ん中に贅沢に設置された大きな休憩スペースに腰かけ、歴史ある建物と現代アート作品が混じり合う珠玉の空間に溶け込もうと一息ついたわたしは、天を仰いで今日に感謝した。
2. 「ノスタルジア:懐かしさ」の意味するところ。
「懐かしさ」とは、結局どんな感情なのだろう。
「過去の思い出を振り返ったときの感情」であることは分かる気がするが、過去の記憶を思い起こして愛おしく思う気持ちなのか、それともそんな過去と比べて今を寂しく嘆かわしく思うことなのか。よくよく考えてみるとそれがどんな感情なのか、正確にはよくわかってないことにきづく。
今回この「ノスタルジア」展がよかったのは、作家さんの「ノスタルジア」というテーマに対するコメントが掲載されていたこと。そのなかでわたしは、大きな発見をすることになる。「懐かしさ」とは過去への感情を示すだけのものではないのだと。
印象に残った二人の作家さんのコメントを引用する。
過去に対してノスタルジーを感じて絵を描くというよりも、後になってノスタルジーを思い出すために描いている、という方が私の感覚に近い
実は私自身は意図してノスタルジアを表現しているわけではないのです。自分の好きな光の具合や色の加減があって、 絵の着地が霞がかった風合いになることが多いのでそういった印象なのだと思います。
そうか。そうなんだ。ノスタルジアとは、ただ過去や過去の記憶に対する感情ではないのだ。大前提として「現在の感情」であり、その感情のベクトルが過去ではなく未来に向くこともある。
そんなこと考えたこともなかった自分には青天の霹靂だったが、このお二人が創作にあたって過去を意識していないことが、なんだかとても嬉しかった。(ちなみにノスタルジアの解は人によってさまざまで、これが全てではない)
特に未来を見ている南澤さんの言葉は今の自分に滝のように流れ込んだ。自分がこれから音楽を中心に創作をしていくにあたり、この言葉を忘れることはないと思う。現在を未来に残す。起点は「今ここ」にあるのだ。
ちなみにデジタル大辞林が言うところの「懐かしい」とは、こういうことらしい。
1 心がひかれて離れがたい。
2 かつて慣れ親しんだ人や事物を思い出して、昔にもどったようで楽しい。
3 引き寄せたいほどかわいい。いとおしい。
4 衣服などがなじんで着ごこちがよい。
なるほどこれまた少し理解が深くなった。「離れがたい」という表現。それが過去であれ未来であれ、モノであれ人であれ、「何かに(どこか、いつか)にグーッと引っぱられるような感情」なのかもしれない。
3. 上野アーティストプロジェクト2024「ノスタルジア」―記憶のなかの景色
どれも素晴らしい作品ばかりだったが、詳細がきになる方はぜひ現地で楽しんでいただくとして、各章で印象に残った作品を少しだけ記録しておく。
(展覧会には計8名の作品が展示されている。詳細は公式HPにてご確認を)
第一章 街と風景:南澤愛美
上記でコメントを引用した南澤さんの作品は、淡い色合いと細い線ながらもどこかエッジも効いていてどれも好みだった。ご本人は未来を意識しているということで、あとで見たときにもっとも美しくその光景を思い出せる色合いなのかもしれない。
水のブルーと、柵や帽子の赤色のコントラストが優しく水面に反射する「波残り」
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夜の遊園地でメリーゴーランド「ひと廻り」したら、きっと帰りたくなくなる。
夜になると、人はみんな現実を忘れて本能のままに遊んでしまうのかもしれない。(超夜型人間による個人的な所感)
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第二章 子ども:芝康弘
木の温かさというのは、それが生きていた木であるから、絶対だし永遠だと思う。古くなると色があせたり、ひび割れしたりするのも、やはりもとが生命体だからで、そういったものが普遍的な懐かしさにつながっているのかもしれない。
そんなことを考えもしてなさそうに「彼方」を見つめる子どもの表情や仕草が、その光景をいっそう「当たり前のもの」として美しく描写されている。
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第三章 道:近藤オリガ、玉虫良次
卵のカラのようなものが割れた中は空っぽだが、新しい生命が生まれた瞬間を思わせる。タイトルが「一日の始まり」であるところからも、また見ぬ未来への希望を感じさせてくれる。
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無造作に連なった街の風景なのに、すべてつながっているかのように自然に並んでいる。今このとき、この時代(またはあのとき、あの時代)を切り取ってコラージュした連作「epoch」は、5年の歳月をかけてつくられた連作10点を連結した16メートルに及ぶ玉虫さんの大作。(永遠に見てられる)
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まとめ
上野の東京都美術館ギャラリーBで開催中の小さな展覧会は、ほんの30分もあれば十分に楽しめるコンパクトさとは裏腹に、あまりに感じることが多く長々と書いてしまった。人によって受け取り方は様々だと思うが、自分の内面を見つめるいい機会になることは間違いない。
メイン会場の田中一村展が12/1で閉幕するので、この週末はより混雑していると思うが、この展示は年明けまで開催されているので、機会があったらぜひ、あなたにとっての「ノスタルジア」と対峙できるとっておきの時間を体験しにいってほしい。
ちなみに最後の展示室が「懐かしさの系譜」というコレクション展になっていて、川瀬巴水などの所蔵品も無料で鑑賞することができる。
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