見出し画像

第1回 Λ(1405)の質量を調べたい

研究者が「ここが一番面白い」と思う部分だけ、スライド1枚で楽しむ科学記事。あくまでも入り口だけど、出口が見える。そんなおいしい記事をよんでみたい。じゃあ書いてみよう。近しい方々の研究インタビューを、スライド1枚に書き起こす全5回の連載です。世界観が知りたい人は後書きコラムをお先にどうぞ。 

今回、京都大学理学研究科原子核・ハドロン物理学研究室、博士課程3年の渡邊憲さん。原子の真ん中の原子核たちについて。
「陽子と反K中間子からなるΛ(1405)の質量を調べたい。」

研究紹介

画像1

左上:Λ(1405)の概念図、右上:Λ(1405)の生成と崩壊の反応ダイアグラム
左下:データのヒストグラム、右下:実験設備写真

いま現在、物理学は宇宙を「4つの相互作用(重力・電磁気力・強い力・弱い力)」からなると考えている。それぞれ研究されている中、もっとも複雑でよくわからないのが「強い力」であり、これを明らかにしたいと志す物理学者は数多く、彼もまたそのひとり。

素粒子の世界では、2つの粒子間で強い力がどんな相互作用するのかは、2つの粒子間の束縛エネルギーに表れる。E=mc²に表されるようにエネルギー=質量を測ることで、強い力を明らかにする。彼がターゲットに選んだのは、陽子と反K中間子が一時的にくっ付いた粒子、それこそが「Λ(1405)」。Λ(1405)の質量を測ることで束縛エネルギーを解明したいという、ビッグイシューへのつながる大研究だ。

①Λ(1405)とは?(左上図)
Λ(1405)というのは、左下図のような陽子と反K中間子が弱くくっ付いた状態で、素粒子5個からなる粒子(ハドロン)である。この質量を測る“だけ”のことが実は途方も無い大実験なのである。

②Λ(1405)をどう作り、なにを図るのか?(右上・左下図)
Λ(1405)は非常に不安定。壊れるのも一瞬なら作るのも難しい。材料のひとつ陽子は安定だが、ペアとなる反K中間子はたまーに生まれる“偶然の産物”にすぎない。陽子にγ線を当てて、Λ(1405)に変化する確率は1/10³¹。この確率でできたΛ(1405)が崩壊して放出される3つのγ線を測り、質量のヒストグラム(左下図)を作成するのが目標だが、1年間かけて実験をしてやっとデータが集まるのだとか。

③彼らの実際の研究の姿(右下図)
では、今どこまで達成しているのかというと、この実験を行うための装置を作っている段階。なんとこの装置は彼らのチームの手作り!3年間にわたり、1 fm(1000兆分の1m) の粒子のエネルギーを測るために、数mの大きさの装置を作り続けている。未だ多くの謎に包まれる素粒子の世界に光を当てる、小さな手がかりを手にするために。

後書きコラム

装置作りが好きなのか、を問うと、そうではないと彼は断言した。この実験の背景にある物理学が好きなのだという。素粒子やハドロンの分野を包括する、本質を理解したいというのが彼の望み。

実験家が手を動かしてデータを得て、理論家がそれを元に予測する。それらが積み重なって、統一的な理論が構築される。長い歴史の中で人類が紡いできた物理の本流の中に彼の研究がある。途方もない作業をしながら、その目に輝くものを見ている研究者のひとりだ。

この研究をデザインした「着るサイエンスTシャツ」を販売しています。
サイエンスを着るという形で応援する、新しい提案です。

この他にも、研究をデザインした究をデザインした「着るサイエンスTシャツ」を販売しています。面白い!と思った方はぜひ、のぞいてみてください。

この記事へのスキやコメントが研究者の応援になります!研究が面白いと感じた方はスキを、質問・感想はコメントまで、ぜひお願いいたします。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集