営業目線のWeb小説売り込み研究 第6回「自身の強みを自覚する」
「強みを活かして作品を売り込もう」
よく聞く言葉だ。至極当たり前の事であるし、なにより耳触りが良い。確かに、営業手法としても当たり前にやるべきことである。
創作者であれば、自分の強みはなんとなく分かっている事と思う。独特の比喩表現、臨場感あるバトルシーン、目に浮かぶ様な情景描写……
しかし、それは本当に「強み」なのだろうか? 他より優れていると言い切れるだろうか? そう考えた途端、あなたの足元は崩れ去り、「強みなんてない……」と思ってしまわないだろうか。
まずはそれでも良い。しかし、強みがゼロということはないはずだ。今回は自分の伸ばすべき強みを自覚する方法を、営業手法を使って実戦していく。
・バリュー・チェーン分析で自分を知る
経済学者マイケル・ポーターが著書『競争優位の戦略』の中で用いた言葉に「バリューチェーン」というものがある。企業活動を個々の工程の集合体ではなく、一連の価値の流れと捉える考え方だ。それを活用した分析法を「バリュー・チェーン分析」という。
あなたの創作活動を分解して一連の価値の流れとして配置してみよう。「設定」「アウトライン」「プロット」から始まり、「情景描写」「セリフ回し」「動きのあるシーン」と本文の書き方に繋がり、そして「飽きさせない展開」「伏線回収」「驚きの結末」などと、あなたの作品の書き方の要素が、連なる価値の連鎖として分解されていく。本当はもう少し細かく分解しても良いが、今回はこの程度にしておく。
ここまで洗い出して、自分の強みが他にある事に気づく方もいることだろう。そう。なにも執筆そのものだけが強みではない。バリューチェーンの考え方では、その企業活動の生産から消費までの流れを「主活動」、それを支える活動を「支援活動」と分けることができ、Web小説の創作活動においても執筆そのものを主活動、それを支える活動を支援活動に当てはめることができるはずだ。
執筆のために入念な取材や資料集めをしたなら「取材力」、絵が描けるなら「挿絵」、演技力に自信があるなら「自作朗読」、トークに自信があるなら「宣伝ライブ放送」など、作品の外側にも、強みを見出すことが出来るかもしれない。
これであなたの活動は分解され、何が強みなのかが見えてきたはずだ。
これでもなにも見えてこない方は、他の並み居る作家と自分を、比べすぎていることと思う。ベストセラー作家と自分を比べて、強みが見いだせるわけがない。それは立ち上げたばかりの洗剤会社と花王を比べる様なものだ。
この分析で重要なのは、「自分の中だけ」に当てはめること。まずは他の作家の事は気にせず、自分の実力の中で、強みを洗い出して欲しい。
・他と比べてみる
自分の強みが見えてきたところで、今度はそれが他の作家と比べても強みなのかを考えていく。
経営コンサルタントゲイリー・ハメルと経済学者C.K.プラハラードが共著により提唱した「コアコンピタンス」という概念がある。これは、競合他社に真似の出来ない、企業の中核となる強みのことを指す。
あなたの強みをコアコンピタンスの考え方に当てはめてみてほしい。コアコンピタンスを考えるにあたり、本来は3つの要素と5つの視点があるが、今回は割愛し、この様に考えて欲しい。
その強みは「他者を圧倒するほどの力を持ち、他者に真似できないユニークさを持ち、追随しようとする者が現れても真似しきれない、読者に喜びを与える」ものであるか?
創作者としての筆者がこれを考えたとき、はっきり言うと「無い!」と、なってしまう。ではどうすべきか。
・コアコンピタンスを確立する
多くの方は筆者と同じく、「コアコンピタンスに当てはめて考えたら、強みが無くなった」と思うことだろう。では、あなたの作品はそれまでだ……というわけではない。
今や超大企業となったソニーも、かつてはコアコンピタンスを持っていなかった。テープレコーダーを小型化させたいという当時の社長の想いにより、小型化技術を推進、ソニーはウォークマンを発表するに至り、コアコンピタンスを確立したのだ。
コアコンピタンスは育てることができる。これが創作論でも何度も言われる「強みを伸ばす」ということに繋がってくる。
あまりにもあたりまえの帰結に、肩透かしを食らっただろうか。しかしよく考えてみて欲しい。あなたは既に、バリュー・チェーン分析によってきれいに整理された創作活動の要素が手元にあり、育てるべき強みが見えているはずだ。
その伸ばし方については残念ながら営業手法の枠を出てしまうため、ここでお伝えすることはできないが、例えば自身の強みを「設定」と考えたのであれば、プロ作家やよく読まれているWeb作家の作品の設定を確認し、真似するのも良い。
もし、あなたに目指すべき同ジャンルの作家がいるのならば、その作家の強みをバリュー・チェーン分析でチェックしてみて欲しい。そうすることで、あなたは自分が伸ばすべき強みを、より強く自覚する事ができる。
あなたのコアコンピタンスが発揮された創作活動により、最高の作品が生まれる事を望む。
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