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僕はまだ『怪盗フラヌールの巡回』しか知らない。


「あの子は○○できないから」
「(私もできるもん!)」



♧西尾維新NEXT20、始動

 ♤怪盗フラヌールの巡回・書籍情報♧

筆:西尾維新
講談社 1600¥

※2022年9月5日発行
2年経ってんじゃねーか!!

2冊目『怪人デスマーチの退転』出版中☆
アマゾンこっち☆
なんと ようつべPVはこっち☆


♧独自あらすじ

 僕の名前は「あるき野道足(みちたり)」! 令和の世を取材する新人ルポライターさ! 父と同じ誇りある仕事なんだ!
…しかし、不幸な事故によって、父の本職は平成の世を騒がせた【大怪盗・フラヌール】だと判明!
弟は行方不明になるし、妹はおかしくなっちゃうし、乳母はずっと喪服を着ているし…
乳母のお艶と弟妹のため、父への復讐のため、僕は【怪盗フラヌール】を二代目として襲名することを決断した。
「盗む?違うね、返すのさ。これが僕の犯行理由(レゾン・デートル)」
 僕は2年の(ホンモノの)ブランクを経て“二代目”と気付かれないよう『返却怪盗』活動を開始。そして2度目の大仕事において、初めて『犯行予告』を出した。
だけど、僕には名(ウルトラ)探偵「涙沢虎春花(うるさわとらはるか)」がなぜかベッタリだし、元怪盗対策部のベテラン警部「東尋坊(とうじんぼう)おじさん」の手を借りることになっちゃったし…
 返すは“玉手箱”、目指すは“竜宮城”もとい海底大学!
だけど目的地のトンデモ立地のトンデモ研究者の居場所に警部や名探偵まで合流しちゃって、更には殺人事件まで発生!
このままだと『殺人事件の冤罪』と『不法侵入の罪』で捕まっちゃう!乳母を悲しませないためにも、謎を解いて帰らなきゃ!
僕の怪盗任務、一体どうなっちゃうの〜!?

※帯より一部引用


♤帰ってきてみた西尾維新オタク

 夢旅団チロルです…ども。

私の青春を騒がせた西尾維新が帰ってきた。じゃなくて、帰ってきたのは私の方だ。忙しいし買うアテもなかった間、西尾維新さんはバリバリ書き続けていたのだ。
 年号が平和の時にできた友達が、引っ越すということでいくつか本を分けてもらった。そこでもらったのがこの『怪盗フラヌールの巡回』。
むぐぐ、うらやましい。私がゲームにウツケを抜かしている間にも友達はアナログ・ブックスにウツツを抜かしていたのか。私とら電子・ブックスにも手を出していないというのに…

 というわけで令和の怪盗です。
 令和の怪盗は返却怪盗です。

西尾維新さんと言えば、
 初代は大学生いーちゃん平成の高校生阿良々木暦江戸っぽい鑢七花
とキャラを生み出して、他にもなんかいっぱい魅力的なキャラクターに会う前に私の方がワールドに顔を出す機会をなくしてしまった。

 今回の主人公は社会人だ。ルポライターだ。ほどよくチートな主人公が、そのチートじゃ解決できない事態に直面するし、
登場人物も(※大先生を敬称略させてもらいます)例に漏れず、西尾維新すぎるほど西尾維新すぎるので、こんな事を言っていいのかわからないけれど好ましくもウルトラ強烈で個性的なキャラの持ち主で、彼らが「非常に微小な確率で起こり得るチートを維持し続けてる」ただの人間たちなことを忘れそうになる。
 しかし竜宮城、海の底で行われる孤島ミステリー、今風に言うなら一種の因習村である乙姫島海底大学の住人たちは、語り口やちょっとした仕草からは想像もつかない事情を多く抱えている。まず事件、それから記者への自白を元に、事件への糸口を掴んでいく。
令和の怪盗は、記者に扮して謎を解くのも犯行(シゴト)のうちだ。

 感想文を書こうとするとほとんどご本人の後書きみたいな言葉しか出てこねえ。どうするべきか。

そうすっか


Q:人生を捻じ曲げられるほど刺激的だった本が、十年後に読んでみればそれほどでもなかったとか
錆びた刃物の方が危険というか、本の中の記述と摩擦が生じちゃって
A:時代と私が変わったってことですかね

Q:法律が変わったりとかね、価値観のアップグレードやグレードダウンする場合もあるでしょ?純粋さを失った大人
A:穿った見方を覚えちゃうと難しいよね、まあそういう、考え方のグラフのアゲサゲと複雑化みたいなのが、大人になったってことなのかなー

Q:本というのは当時の価値観を知るための歴史書でもあるかも

A:それな

Q:今日読める本は、本日中に。
A:ぐわーーーーーーッ!!!



♧『親の子』の話

 というテーマの話を、私は怪盗フラヌールを読んで語る。ミステリーのネタバレは好ましくないから、しかし、これがネタバレになるかは、読者の洞察力次第ではドウニカなってしまうかもしれない。
もしくは、『そういうことを言っていたんだなぁ』と読後に考えたい人に、私のレビューで興味を惹かれた人が本を手に取ってくれたら幸いである。


♤よくできた子

 みなさんは『褒められて育った子』?
 『叱られて育った子』?

 『できる子』だった?
 『できない子』だった?

 『幸せな子』?
 『不幸な子』?

 お父さんお母さんのことは好き?嫌い?

 私は、自分は『できる子』だと思っていたし、解けない問題から身を引けば『できない子』を内心見下していた。『誰かよりできる子』と考えて心を保った。クソガキ
私はたくさんの人にかわいがられて育った。今も“そういうところ”があるらしい。
お母さんに褒められ、なだめられて育った。そしてお母さんが時々お叱り役を兼任するので、お父さんがやることと言えば、私を罵ることだった。私の父は真正面から真実で詰る人。
突然自分の家庭事情を話すな。


 フラヌールは、親子と兄弟と家族の絆の物語だ。
あるき野家族のソレは、えらいこじれようだ。父を中心に全員がねじれにねじれている。ただし、ご執心なのは、全員同じ。
いわゆる『小関心』はいなかった、ってコトだ。

 全ては父の✝突然の死✝から発覚する。
父『あるき野散歩』 長男『道足』 次男『軍靴』 妹『ふらの』 乳母『閨閥 艶子』…、
異母兄妹ながら、資産と努力の賜物で世界レベルに育ったこどもたちは、『怪盗稼業で得た資金』で自分たちが育てられた事に、様々なショックを受けた。引用するに「健全に育成された三兄妹の立派な姿がこれ以上なく不健全な犯罪の成果」。

軍靴は家と芸能界から失踪。 ふらのは入水自殺を試みて5歳の誕生日を毎日繰り返す。 お艶は喪服を着たまま盗品博物館に引き籠もった。 そして道足は己が身を作った父を憎み、父の所業を憎み、弟妹の「幸せな人生」をぶち壊す事実を隠し持っていたことを憎み、憎み、また憎み、大怪盗の成り代わり『フラヌール(二代目・返却怪盗)』を始めたのだ。

憎むというまたとない心のエネルギーを向けながら、父の二の足を踏んでいる道足くんは『散歩(フラヌール)の息子(二代目)』という立場に苦しんでいる。
芸能界最大手を取ろうという時にフラヌールが父と知り出奔した軍靴は、『敬愛する父の跡を追った』。
フラヌールの正体を忘れようとしたふらのが繰り返す『父に迎えに来てもらえる日』は結局『表向きの父は愛していた』証左だ。
お艶は、あるき野散歩のためずっと喪に服し、フラヌールの博物館を管理している、何があっても彼のために働いている。

『幸せな家族に、できた子供たち』父の死でこれ以上ないほど大転落の空中分解したということは。
 父の影はあまりに大きかった。
 父の血肉はあまりに滋養ある劇薬だった。
心を依せて存り続けることを選ばざるを得ないほどに。


 今の時代、『毒親』という言葉は聞くが、『毒子』のような表現を見かけないのは気のせいだろうか。
 うちのはほんとよくできた子でねえ━━。

親がいかに裕福で有能かで、その子が良く育つか決まるとまで言われている。でなければ、上限があるとでも言うように。統計学的で、世論的で、与太話的だが、妙に納得する話。例外があると言われても、それは私のことじゃないですねと返しそうな話。
 いい教育受けて、いい大学入って、いい会社入って、
なんかそういう話お父さんから聞いた気がするな。
時代は巡るってやつですか?

 ……まあ、

そんな良環境に恵まれて育った人だ。ぜひ世の中を良くしてほしい。悪い人なわけがない。マナーがよくて道徳ができてて、成績優秀で学業以外にも造詣が深い人ともなれば。
 本当にぃ?
さぞ良い人に見えるに違いない。そんな若者は。
だって、融資者である親族の機嫌を損ねれば、あっという間に零落して元の居場所には決して戻れないのだ。その場が好ましければ、彼らの期待通りの“顔”を見せ続ける必要がある。独立できるか場所を確保できるまでは、少なからず。そして人に理想とされる彼らはだいたい同じ顔をしているのではないかと思う。
(冠詞:場合によるが)

 型抜きクッキー。

型に嵌められている状態は居心地が悪くて仕方ないだろう。本当に望み通りの人生を歩めるはずだった、あるき野兄妹がいかに異例なことか。
そして、“顔”が過剰に作られた物であるということに、融資者の親は気付かない。
 あるところ曰く、

親の心子知らず。
子の心親知らず。


━━あんなことをするような人には見えませんでした。



♧できるわけない子

 なんでもできるサイキョーの子。
やってみせれば人が褒め、 言って聞かせば人が褒め、 褒めてみせれば人が動く。
自分も愛する家族もサイキョーでできないことなんてないと思っていた、それが『フラヌールの巡回』の物語だと思っている。

気付いてしまったのだ、できないことがあることに。
机上論ではできても、倫理的に無理。
『「作られた」いい子』でも、『「進んで」いい子』でも、難しいだろう。そして、今まで“何でもできる”と言われてきた子が、“それはできない”ことに全幅の信頼を寄せられていることに気付いてしまう━━。

 先述。
『悪い人なわけがない。マナーがよくて道徳ができてて、成績優秀で学業以外にも造詣が深い』
世間からもきっとそんなレッテルが貼られている。
そこに書面、じゃなくて額縁の中に入る上での合意をして、ずっと優秀な子であっても、簡単に崩れてしまう。
自ら崩す。
どうやって崩す?
それはもちろん、『机上論ではできても倫理的に無理』なことでだ……。

「うちの子に悪いことなんて“できるはずありません”」

 可能、できる、と言われ続けてきた子が、初めてその言葉を聞く時、どんな心持ちだろう。絶対できません、やりません、と続く。もちろん親はそれを第三者に向かって訴え善意で庇っているなりしているシチュエーションだろうけれど、子供は“できるはずない”と言われたことにショックを受ける。
ただ、可能だと認められなかったことが頭に響く。そして、前提として憚るべき“悪い”こと、“善悪”の区別が頭から飛んでしまう…そして自分にも“できる”ことだと顕に示そうとする。

としたら?

 あんないい子が?休み休み言え。なんなら口を閉じてくれ。ただ、何でも可能なできる、証明をしただけだ。できなかっただけだ。させてもらえなかっただけだ。魔が差したんだ。フラストレーションだ。

 …もちろん、悪いことは、やってはいけない。
そこは責めるところだ。
だけど、ほんの少しくらい許容したり、小さなワルイことへの抜け道を残しておかなければ、深夜にカップラーメン食べるくらいの罪も犯せないようでは、その反動は大きくなってしまう。

反抗期に犯行に及んでしまう。

 どんなにレシピ通りに作っても、型に嵌めて綺麗に切り抜いたクッキーが、オーブンで熱にさらす刺激を与えた途端、ひび割れて砕けてしまうことがある。
普通の人なら、クッキーが砕けようが変わらず食べるだけなのだけども。
菓子職人は、砕けたクッキーの破片が他に飛び散ることを嫌う。



♤西尾維新379ページスペシャル!

 哲学の時間終了ー!!

そういう深いことを考えるのは何周も何周もした後に置いておくとして、純粋に『西尾維新』を楽しんでほしい。

言葉選び、個性的な登場人物、謎解き、ロジカル。

ちなみに1ページにつき1列であり、物語シリーズのようにタテにふたつ行が並んではいない形式なので、安心してのんびり読了できるだろう。
 怪盗の解答を見守ってほしい。
なんて、誰が上手いこと言えと、で埋め尽くされてるのがフラヌール。どうやったらそんなに言い換えができるんだ、さすが20年筆を執ってるだけはありますね…。

 道足くんも大概狂人だと思うよ!
『返却怪盗』を始めようと思い立つことじたいなんかズレてるし。 乳母のお艶さん大好きだし。そのお艶さん、30年以上前からお父さんの相棒してるんですけどね。なんで20代にしか見えなくて、そして自分を育てた母親的存在を、そんなに好きなんですかね。 無音で動くのが特技超えて生態なんですかね。 あと生業×2のせいでまったく存在感が薄れてるんだけども、彼すんなり高学歴取ってるっぽいんですよね。

やっぱ西尾家の主人公はこうでないとな……!


 さあ、西尾維新さんも20周年ということで、やはり初期と今とで筆が違うのでしょうか。安定したところもあるのでしょうか。
見比べるためにね、西尾維新さんの小説をね、全部買うとするじゃないですか。

数えたくなぁい!
何冊出てるの!?
「○○シリーズ」
外伝を除いていくつあるの!?
全部読むのに何日かかるのっ!?

 というわけで、今なら怪盗フラヌールが、シリーズ化希望で次作「デスマーチの退転」が発売中であり、「女傑フラヌール」の予告状が出ています!
買うなら今ァ!
 あっそうだ。あの「クビキリサイクル」の『世代交代』とも言える「キドナプキディング」も発売中だよ! 買うならこっち!
もうお腹いっぱいだよぉ!


 財布泥棒…いや、財布怪盗です。
いやどうでしょうか。
散歩フラヌールの怪盗行為には、何かしら言葉にしがたいロマンがあったようですから。でも、まだそこへの理解は足りないんですよね。


何しろ、私は『怪盗フラヌールの巡回』しか知りませんから。



#読書感想文 #小説レビュー #怪盗フラヌールの巡回 #西尾維新

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