見出し画像

ミュージカル『COME FROM AWAY』

ミュージカル カムフロムアウェイを見ました。
いつの話?って感じですよね。
この記事を書いている今、2024年6月10日。大千穐楽は2024年5月12日。まだ一ヶ月経ってない!わあ、新鮮!()
My楽は4月(4月…⁉︎)の愛知公演。モリクミさんと和樹さんのアフタートークがありました。よく晴れた日で、100分という短さのおかげでマチソワ間にたっぷり時間があって、お気に入りのカフェでゆったり過ごすことができて、作品の爽やかさと4月の空気感がよく合っていた。

私はこの作品を元から知っていたわけではないので、キャストが発表されたとき、主役級の役者たちが12人も集められて、いったいどんな作品になるんだ!?と驚きました。
9.11の物語と聞いて少し身構えたけど、信頼できる役者陣を揃えてくれたことに期待もした。そして、観た後に思い返してみれば、この作品は9.11の物語ではなく9.12からの5日間の物語なんだとわかる。

「ここにあなたはいます」という印象的な歌詞。この言葉通り、キャストは皆、ただここにいる。
メインの役はあるけど、全員が複数の役をこなしていて、ある時は飛行機の人に、ある時は島の人に、管制官やパイロットになったり、店員と客になったり、キャスターになったり。飛行機の人のときでも、シーンごとに違う乗客になっているし、島の人でも店員やバスの運転手やバーの客になっている。
一言発しただけで次の瞬間には違う人になってたりもするんだけど、不思議と違和感なく「あ、この人はさっきと違う人だ」とか「ちょっと前のシーンのあの人と同じ人だ!」と思えたんだよね。個性ある芝居ができる人は、個性のない芝居もできるんだと妙に納得した。
愛知アフトクでモリクミさんが「あたしのフォルムはどっからどう見ても森公美子なんだけど」とおっしゃっていたけど、衣装や立ち方や話し方で、本当に違う人に見えるんだよ。似た姿の別の人。モリクミさんに限らず、12人全員ね。すごいの。
セットもとてもシンプル。島の空気感を漂わせる木々。折れた2本は、ツインタワーを表しているとアフタートークで言及がありました。あとは少ない数の机と椅子だけ。椅子の並び方を変えればそこは飛行機になるしバスになるしダイナーになるし役場になる。椅子そのものがバーベキューグリルになったりもする。全員が次のシーンのために、あるいは次の次のシーンのために、机や椅子を動かしセットする。衣装を脱がせてもらったり着せたり、小道具を渡したりもする。主演級の人たちが、役をこなしながら、裏方的な役割を、舞台上で、違和感なく、難なくやってのける。ほんとにこの人たち全員すごいよ。

で、この「全員が飛行機の人に、全員が島の人になる」そして「全員が裏方的役を担い場面転換や役の切り替えが行われる」という構造は、そのままこの作品のテーマを体現してるんだよね。
誰しもが、助ける立場にも助けられる立場にもなり得るということ。支え合って窮地を乗り越える。支え合って作品を作り上げる。この作品、よくできすぎでは????

シーンも役柄もめまぐるしく変わるし、緊急時に起こりうるいろんな課題もたくさん盛り込まれているけど、全体を通して重苦しくなることもなく、さわやかに、そしてコンパクトに描いていて、とてもよくできた作品だなあと感じます。
そしてこの作品が事実に基づいて作られているという点も注目すべきところ。モデルとなった人がご存命。実在した人物の歴史的事実をなぞったり肉付けたりといったミュージカル作品は多いけど、カムフロムアウェイは、実在する人物の生の声・感情を描いている。とても貴重な作品だと思う。

今の世の中は、みんな余裕がなくて、他者を受け入れるのが難しい。多様性を認めろと言いながら、属性による対立が絶えない。情報が溢れ返っていて、何が正しくて間違いなのか、誰が善で悪なのか、見極めがとても難しい。
困った人がいるときに優しい心をもって手を差し伸べられる人に、差し伸べられた手に疑うことなく縋れる人に、誰もがそんな人になれたらいいのに。
この作品を観た後は、優しいことをしたくなりました。浦井くん演じるエネルギー会社社長のケビンTは作中で「毎年9月11日は会社を休みにし、社員に100ドルを渡し、誰かに優しくする日としている」とインタビューで答えている。モデルであるKevin Tuerff氏もSNSで同様のことを述べていて、この尊い取り組みが今も現実の世界で続いて、支え合いの輪が広がっているのだと思うととても温かい気持ちになります。


軸は人と人との温かい支え合いや繋がりというテーマだけど、非常事態に起こりうるあやゆる問題についても散りばめられている。
ざっと思い出してもこのくらいある。
・避難場所の確保
・避難場所への移動手段
・情報の伝達
・言語の違い
・ベビー用品や生理用品の調達
・電話やインターネットの整備(つながりの確保)
・物資の確保と保管場所
・食事の問題(ベジタリアン・宗教による食のタブー)
・避難所の衛生環境
・後回しにされるペット
・ゲイであることを公言しない(できない)カップル
・貴重品の管理
・人種や宗教(お祈りの場所、作法、周囲の偏見)
・価値観のぶつかり
近年起こった災害でも上記のような問題はたびたび話題になる。非常事態というのはそう頻繁に起こるわけじゃないし、現場は目の前の対応に追われて手いっぱいだから、なかなかその場で起こった問題や課題を”次どうするか”というところまでいたらなというのが現実なのだろうなあ。


好きだったシーン(多すぎる) ※シーンは前後してます。
・冒頭『Welcome to the Rock』の「港が欲しけりゃドアは開いてる」
・KSDB クソみてえなスピード出すなバカ!
・柚希ビューラ、濱田アネット、シルビアボニーの「「「ラジオをつける」」」
・島のダイナーから管制塔に、島民から管制官に
・石川ニックが前を通るのを妨害する橋本乗客
・石川ニックの病気の話を聞いて、自分のアレルギーの話をする安蘭ダイアン
・回転ヘドバンする咲妃乗客と、その乱れた髪を直してあげる友達っぽい濱田乗客カワイイ
・パーティガール……………………(ほんとすみません)
・吉原乗客「アフゥー↑↑」
・ヘラジカさ~
・浦井ガースと加藤ムフムザが聖書で通じ合ったシーン
・濱田ビバリーが夫に電話をし「ガンダーにピンを刺して」と言うシーン
・田代ケビンJの「声が聞きたかったんだ」
・全員が空を見上げて黙祷を捧げるシーン
・Prayer(聖フランシスコの平和の祈り)を歌いだすのがゲイであるケビンTであること
・お祈りの場所を探す田代アリに濱田アネット(と柚希ビューラ)が図書室を案内するシーン
・赤子を抱える柚希乗客に、シルビア島民が「旦那が気が早くて子供部屋作っちゃったの」と言って家に招き入れるシーン
・いろいろな町長
・アップルトンの町長
・ケビンT「1杯だけ🙏」、ケビンJ「1杯だけぇ!😫」
・濱田ビバリーの『Me and the Sky』
・吉原ラビに橋本老人がユダヤ人であることを告白するシーン
・バーベキューグリルを盗む加藤ボブにお茶を勧める石川島民
・電話を待ち続ける森ハンナ
・動物たちに優しく語りかけるシルビアボニー
・Stop the World終わりに椅子から降りる安蘭ダイアンにあまりにもスマートに手を差し伸べる石川ニック
・シルビアボニー「私が知ってる中であなたが一番感じがいいボノボよ」
・「君も同じことをしただろう?」
・「ガンダーの人に奨学金を!」と言ったのが若い加藤ボブであること
・咲妃CA「熱いタオル、熱いタオル、……冷たいタオル」
・ティムホートンの「おーはーよー」にジャニスが」加わっていること
・飛行機の人たちが去ったあと、床や壁にメッセージが残っていたこと
・10年後が描かれていたこと
・ロビン!
・田代リポーターのインタビューの時のポーズ
・「港が欲しけりゃドアは開いてる」

そういえばビバリーのカバーがシルビアさんだっととのことで、シルビアさんのMe and the Skyもめちゃくちゃ聴きたいです。CDのボーナストラックにでもいかがですか。(CD出してください)
あと、この作品は今回4名のスウィングキャストがいて、皆さんが裏で何をやっているか、どんな準備をしているかをたくさん発信してくれていて頼もしかった。これだけキューの多い作品で、いつ何があっても舞台に立てるように、舞台に立つことはないかもしれないけど、準備していてくれる。それだけでもメインキャストの方々は安心して舞台に立てたんじゃないでしょうか。
スウィングが出ないことが何よりのことだと理解しつつ、スウィングの方が一回ずつでも舞台に立てたらよかったのに、とも思う。単純に、皆さん知ってる人だったので彼らの演じるあの役この役が見たかった!というのもある笑。
メインキャストの皆さんもスウィングの皆さんのことをいつも心の側に置いてくださっていて、本当に素敵なカンパニーだったなと思う。この素晴らしい人たちが集まって、この作品がより一層素晴らしいものになったんだなあと思います。

関わった全ての方に感謝を。この作品に出会えたことに感謝を。
再演があったとして、きっと今回のキャスト全員が揃うことはないだろう。だからこそ、今回このキャストで日本初演を見届けられてよかった。
でも、本当に愛に溢れた素晴らしい作品なので、キャストを変えても上演し続けていってもらいたいなと思います。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?