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リペアの提言と未来シナリオ『リペア社会をデザインする』をつくりました
日立製作所研究開発グループは、武蔵野美術大学岩嵜研究室とサーキュラー・エコノミーに関する共同研究を進めています。昨年度からリペアに注目して活動をしており、リペアが生活に根付くための観点をまとめた提言および未来シナリオをまとめた冊子「リペア社会をデザインする」をつくったので紹介します。
(文責 デザイナー 神崎将一)
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冊子のデータはこちらからダウンロード!
一緒にリペアに関して議論や実験ができる仲間をつくっていきたいと思っています。ご感想、ご質問、お誘いなど頂けたら幸いです。
手渡しを通じた対話も意図して冊子をつくりました。ご興味のある方はnoteのコメント機能やクリエイターへの問い合わせ機能などを通して、お気軽にご連絡ください。
なぜ今リペアが注目されているのか?
7月1日よりカリフォルニア州とミネソタ州で電子製品を対象とする「修理する権利」が適用され、この日をリペアの独立記念日としました。米国民の20%がメーカーから交換用部品、修理マニュアル、ソフトウェアの提供を受けることができます。メーカーからの高額な修理を待つ必要はありません。 pic.twitter.com/wtijsHrLZR
— iFixit Japan (@iFixit_Japan) July 6, 2024
米国では2024年7月1日をリペアの独立記念日に制定するなど、Right to Repair(修理する権利)の運動、そしてそれに伴った法制度の改正が活発になっています。米国のテック系メディアのThe Vergeではリペアに関するニュースをまとめるコラムができていたり、2023年にはホワイトハウスで連邦・州政府関係者や各業界のステークホルダを招待して修理する権利についての円卓会議を実施していたり、リペアはメディアや行政から非常に注目されているトピックです。欧州でも同様に注目され、法改正が活発です。日本でもリペアに関する法制度が改正され、欧州や米国のように考えや仕組みの検討が進むのは時間の問題だと考えています。
提言にまとめる
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文献調査と並行しながら、2023年度から修理の担い手へのインタビュー、リペア・リメイクサービスの利用を通したケーススタディ、循環型社会の生活者を描くワークショップ、リペアラブルな製品のプロトタイピングなど複数の調査・制作を実施しました。その結果、マインドセット・製品・社会の3つの観点に着目をしました。
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リペア社会を実現するための提言を5つにまとめました。
1. 大きな系と小さな系が共存する世界
2. リペアラブルな製品
3. ポスト購入体験
4. 機能よりもエモさで人を動かす
5. リペアを起点に人がつながる
一つひとつの提言の詳しい内容はぜひ冒頭のPDFデータからご覧ください。この提言は向かうべき指針を示すという側面もありますが、さまざまな人と望ましい未来について議論をするための呼び水だと個人的には捉えています。自分たちの思考をたどってもらえるように、一つひとつの提言を支える妄想や事例や実践を添えています。
また、提言を作成する上での調査のひとつとなったリペア・リメイクサービスのケーススタディに関しては、2023年の日本マーケティング学会で武蔵野美術大学岩嵜先生と一緒に発表をしています。予稿が公開されているのでこちらもご興味があればご覧ください。
リペアが根付いた未来の生活のシーンを描く
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どんな場が身近ににあるとリペアが根付いていくのか?、5つの提言を踏まえて、イラスト制作が得意な社内のデザイナーと議論をしていきました。
人と人のつながりを中心に据えながら、そこに弊社が強みとするデジタルテクノロジーとプロダクトを掛け合わせたシーンにするよう工夫を重ねて、これまで検討してきたことを上記の一枚のイラストに凝縮させました。検討の上でリペアカフェやおもちゃドクターの活動からインスパイアも受けています。
未来のシーンを描いて生活者の価値観を探索したり未来のサービス・プロダクトを発想したりする方法として、ビジョナリーな動画や小説などを作成して、人々から意見を引き出す手法があります。手前味噌ですが、私の所属するデザインセンタではSFプロトタイピングの取り組みを行ってきました。
今回は1枚絵のイラスト。その利点としては、①読み手が能動的に解釈できる余地と時間がある、②聞き手が自分事化して他者に伝えやすい、の2点があると考えます。
①に関していえば、この子どもは何に興味を持っているのだろう?おじさんは誰だろう?2人の関係性は?など、絵を眺めながら、想像が膨らむ時間と余地があると思っています。
②に関しては、冊子を受け取った方がイラストをハイライトシーンとして他者へ共有しやすいと考えました。どこかへ出かけた時に印象に映える写真を選んでSNSで共有する感覚に近いかもしれません。その過程で受け取った方がその方なりの解釈を加えて共有してくださることで、更なる解釈や議論が広まり育まれるとも思っています。
リソグラフ印刷でつくってみたかった
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リソグラフ印刷という印刷方法で今回の冊子は制作をしました。特有のざらつき、かすれ、色味があります。データではなかなか伝わりづらいので、ぜひとも実物の冊子を見てほしいと思っています…!リソグラフ印刷の説明に関してはレトロ印刷さんが詳しく解説されています。
リソグラフ印刷にした理由としては、半分は私の趣味ともう半分はリペアとの相性です。
インデペンデント出版の本やzineが好きでよく購入をしていたり、文学フリマなどのブックフェアに足を運んだりするのが私は大好きです。そこでリソグラフ印刷で作成された出版物を手に取る機会が増え、温かさを感じる表現であり魅せられていきました。フィルムカメラの持つ不可逆性と粒上の表現から生まれるエモーショナルな感情に近いかもしれません。
そんな個人の趣味趣向もありますが、リソグラフ印刷で必ず生じる「ズレる」や「かすれ」は、壊れたものや不完全なものを受け入れていくリペアと表現も合っていると思って選定しました。
冊子の今後
この冊子を皮切りに、社内外のリペアに関心ある方と議論を進める機会が増えています。ただ議論をして終わりではなく、頂いた意見やアイデアをもとに、事業機会を創出し、検証項目を見据えたプロトタイピングや実証実験を行っていきたいと思っています。その際、リペアといったサーキュラー・エコノミーを実現する取り組みは一社では取り組めない領域ですので、ケイパビリティを補完しながら、社外のパートナーとぜひ連携していきたいです。
謝辞
本冊子の制作においては多くの方に協力をいただきました!編集は株式会社ディーランドさん、装丁・デザインはラボラトリーズさん、印刷はHand Saw Pressさん、製本は株式会社アトミさん。この場を借りて改めて感謝申し上げます。