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2024年2月 おすすめ新譜紹介 アルバムレビュー

今回も、2月にリリースされたアルバムを紹介していこうとおもいます。まずはおすすめの新譜30枚をまとめたプレイリストです。

まずはR&Bから、2月はUsher『COMING HOME』、Jennifer Lopez『This Is Me...Now』という1990年代後半から2000年代の超絶ビッグネーム2人のカムバックに併せて、そのY2KサウンドをリバイバルしNewJeansのプロデュースもつとめた北欧勢のSmerz『Allinna』Erika de Casier『Still』がリリースされるというとんでもない一ヶ月でした。

 スーパーボウルのパフォーマンスも話題になったUsherは、あの頃のテイストを残しながらうまくアップデートされていてとてもかっこよかったです。けっこう全曲コテコテにR&Bな感じなのですが意外と胸焼けしないのがすごいです。ハッピーでメロウなグルーヴに身を委ねたいときにはうってつけのアルバムです。
 『This Is Me...Now』はまんま2024年にJ.Loが歌っているという感じで、現代的なトラックの上で輝くJ.Loの歌声が最高に眩しい一枚でした。
 Smerzの『Allinna』は架空のディーヴァ’Allinna’についてのストーリーを描いたEPです。AllinnaというどことなくAaliyahを思わせる名前は、SmerzともコラボしているフランスのファッションブランドAll-in Studioというからとられた名前だそうです。派手めな楽曲が続く中で、ナラティブを補完するように挿入されたインタールード、スキットがとてもいいアクセントになっています。一曲ごとのパワーがすごくて、長さの割に満足感のある良作でした。

 しかしそれ以上に、Erika de Casierの衝撃がすさまじかったです。2000年あたりのR&Bのサウンドを下敷きにしてはいながらも、妙に新しさを感じる不思議な作品でした。未知なものと既知なものの間を揺れ動く、ノスタルジーともデジャヴュとも違った感覚が新鮮でした。当時のサウンドを一度バラバラに分解した上で、まったく違ったかたちに再構成しているかのような感覚をうけました。知っている音が知らない風になっているという感じでしょうか。もちろん、最近のサウンドも取り入れてはいるのですが、そことも絶妙に距離を置いていて。とにかく、オマージュでありながら芯を外している感じが、心地よくもあり少し奇妙な感じもするアルバムでした。

 それから、serpentwithfeetの『GRIP』もいちおしのR&Bアルバムです。DuckwrthEmotional Orangesのような、チルでエレクトロニックなオルタナティブR&Bなのですが、彼の場合はそこにオブスキュアな要素が見え隠れするのが面白いですね。1stアルバム『soil』はArcaの影響を感じさせるようなエクスペリメンタルな作品で、前作『DEACON』はメロウさが前面に出ている作品でした。そこから今作はダークで現代的なテクスチャーになりつつも、過去作の雰囲気もしっかりと残しています。作品ごとにスタイルを色々変えながらも進化してきていて、オルタナティブR&Bとして非常に高い完成度を感じる作品でした。
 あとは待望のKelela『Raven』リミックスアルバムがリリースされました。昨年の年間ベストでも挙げた最高のエレクトロニックR&Bアルバムですが、リミックスになることでよりオブスキュアで革新的なサウンドになり、元のアルバムとは違った意味で面白い作品でした。今のシーンを代表するプロデューサーが手がけた最高のリミックスアルバムに仕上がっています。

 ヒップホップはErick the Architectの『I’ve Never Been Here Before』が断トツでお気に入りでした。James Blakeプロデュースの影のあるビートから、RÜDE CÅTプロデュースのメロウなビートまで完璧に乗りこなしています。楽曲によって全然テイストが違うのですが、全体的にミニマルなサウンドに統一されていて、研ぎ澄まされたかっこよさを感じました。プロデューサーだけでなく客演もかなり豪華で、ともすれば空中分解してしまいそうな内容のアルバムなのですが、そこをインタールードなしできれいにまとめ上げているのが凄まじいです。
 あとはLittle Simzの『Drop 7』もいい作品でした。パーカッシブなダンスミュージックの上でラップするLittle Simzが超絶かっこいいです。Jakwobプロデュースのビートもファンキやジャージークラブを取り入れながらも、エクスペリメンタルな試みが各所で見られて面白かったですね。Infloとタッグを組んでいる作品とは違った魅力がありました。

またインディー系も、Mk.Gee『Two Stars & The Dream Police』Helado Negro『PHASOR』Quadeca『SCRAPYARD』Colouring『Love To You,
Mate』
など、良盤ぞろいで非常に豊作な一ヶ月でした。

 Mk.Geeは80年代ポップスやポストパンク、ニューウェイヴの影響を受けたインディーギターポップという印象のアルバムでした。テクスチャーがとても独特で、音が籠もっている上にモジュレーションエフェクトががっつりかかっているのが、奇抜さもありどこか懐かしさも感じるサウンドでした。Unknown Mortal OrchestraJai Paulを感じるローファイさに、ポップネス全開なソングライティングのコントラストが面白かったです。
 Helado Negroはラテンフォークトロニカといった感触で、陽だまりのような暖かな心地よさのなかに時折紛れ込んでくる緊張感のあるシンセサウンドが幻想的な雰囲気を醸し出していますね。

 Quadecaはもともとエモ系のラッパーですが、もはやその枠組みを飛び越えた音楽性をみせていて、今作はジャンレスなインディーミュージックとしてのおもしろさに溢れた作品でした。トラップやドリルのうえで、シューゲイザーやポストロック、インディーフォークなどをコラージュし、エモラップ的な感性でまとめ上げた傑作だと思います。
 ColouringはJames BlakeやBon Iverの影響を内包しつつ、RhyeやThe Japanese Houseのような穏やかなインディーポップに仕上げています。『KID A』のRadioheadやSufjan Stevensのようなフォークネスが心地よく、静けさのなかにどことなく哀しみを帯びているアルバムです。

 それから、先月はThe Last Dinner Party『Prelude to Ecstasy』Brittany Howard『What New』Frico『Where we’ve been, Where we go from here』など、ロックの話題作がとても多かったですが、個人的には、Brittany Howardがとくにお気に入りでした。
 Alabama Shakesの作品含め、彼女はトラディショナルな音楽のおもしろさを追求していると思うのですが、今作はそれがさらに一歩進んで新しい境地に達した感じがします。スモーキーなテイストで現代的な試みをしているかっこよさにも磨きがかかっている上に、そこに80年代のテイストも加わり、ポップミュージックとしての快楽が感じられる作品に仕上がっています。彼女はファンク、ソウル、ジャズなんかの取り入れ方がうまいアーティストなのですが、今作はとくにジャズの要素をものすごくうまくロックのなかに昇華させていて、そこも魅力的に感じました。

 というわけで2024年2月のおすすめアルバムでした。今月もよろしくおねがいします。


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