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2023年8月 アルバムレビュー Cautious Clay, Victoria Monét

今月からプレイリストを作っていこうと思います。そこからピックアップして、今回は2枚のアルバムについてレビューを書きました。


Cautious Clay 『KARPEH』

 クリーヴランド出身のシンガー、マルチプレイヤーであるCautious Clayの2ndアルバムにして、Blue Noteでの第一作。
以前までは、インディーソウル、R&B系のアーティストという印象が強かったが、今作では一気にジャズに接近した。それも、ジャジーなR&Bになったというよりも、ジャズとR&Bが並行して一枚のアルバムのなかで奏でられるという、独特の作品に仕上がっている。

 Cautious ClayはTaylor SwiftやBillie Eilish 、John Mayerにも起用された経験のあるポップセンスの持ち主だ。前作『Deadpan Love』では、それが遺憾なく発揮されていた。そして今作は、その確かなセンスに裏打ちされたジャズアルバムになっている。『KARPEH』がインディージャズシーンの他の作品と異なる点はそこにあるだろう。

 とくに前半の「Fishtown」「Ohio」「The Tide Is My Witness」では、絶妙なバランス感覚でジャズとR&Bを共存させている。心地よい浮遊感がありながらも、R&Bとしての足腰をしっかりと備えた楽曲はとても新鮮で、新しいスタイルのネオソウルとして非常に聴きごたえのある作品に仕上がっている。
 後半の「Blue Lips」「Tears of Fate」「Yesterday‘s Price」は、よりジャズの文法に則った構成になっており、Cautiousのルーツをよりダイレクトに感じられる。彼がBlue Noteというレベールの伝統の上に立つアーティストだと改めて認識させられる。

また、ローリング・ストーンジャパンのWEB版に掲載されている柳樂光隆さんによるインタビューも非常に興味深かったので、そちらもぜひ。

Victoria Monét 『JAGUAR Ⅱ』

 Ariana Grandeにも起用されている、サクラメント出身のR&Bシンガー、ソングライターVictoria Monétの「Jaguar」プロジェクトの第2弾。「Jaguar」プロジェクトは彼女のデビュー・アルバムという位置づけの三部作だ。
今作は、コンテンポラリーなR&Bの立場から、ブラックミュージックを広い射程で捉えた一枚になっている。単にノスタルジックなサウンドに頼るのではなく、あくまで現代的なサウンドのなかでソウルやファンクのエッセンスを取り入れていくアプローチは見事だ。

 その点について大きく貢献しているのが前作『Jaguar』に続き、ほぼすべての楽曲でプロデューサーを務めるD’Mileだ。Ty Dolla $ignやLucky Dayeのプロデュースも手掛けるD’Mileは、もはや現代のR&Bシーンに欠かせない存在だ。そのなかでも、近年最も注目を集めたのがSilk Sonicによる『An Evening with Silk Sonic』の共同プロデュースだ。

 『Jaguar Ⅱ』ではSilk Sonicとの共作で培われたであろう、彼のレトロスペクティブなソウル、ファンクに対するセンスが現代的なサウンドへと見事に昇華されている。とくにアルバム後半の、メロウでソウルフルになっていく楽曲には目を見張るものがある。
昨年リリースされたLucky Daye『Candydrip』と併せて、D’Mileというプロデューサーが見せるコンテンポラリーR&Bの一つの到達点だと言える。


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