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もはや組織開発!!コミュニケーションのハブとなるファクトブックで、組織にデータサイエンスを[LIFULL×薬王堂イベントレポート]

こんにちは!シンギュレイトnote編集部です。

データドリブンな施策立案ができていますか?これまで経験をもとに意思決定をしていた企業にとって、データサイエンスを普及させることは大変なこと。

しかし、その壁を乗り越え、社員全体でデータで話せるようにした企業があります。それが、シンギュレイトがデータ活用支援をしている薬王堂とLIFULLです。

2024年5月28日に、この2社が集まり、データ活用の取り組みを共有するイベントをLIFULL主催で開催。シンギュレイト代表の鹿内がモデレーターとして切り込みました。2社はどのようにして、データサイエンスを社内に普及させていったのでしょうか?

その鍵が「ファクトブック」です。今回は、ファクトブックを社内で活用し、データサイエンスを広める活動の秘訣について迫ります。

※この記事は2024年5月28日に行われたLIFULL AI Hub 100 ミニッツ #2 「ファクトブック」「データの民主化とAI開発の新しいカタチ LIFULL×薬王堂」の模様を記事化したものです。

2024年8月8日(木)にLIFULL AI HUB 100ミニッツ #3を開催!今回のテーマは「心理学×データサイエンス」。データサイエンスに心理学を活用する方法に迫ります。

モデレーター:鹿内 学|SHIKAUCHI, Manabu.

データをみんなで使えるようにするための「ファクトブック」

鹿内:データを会社のみんなで使えるようにする「ファクトブック」について、LIFULLさんと薬王堂さんの事例を紹介していきたいと思います。

はじめに、データにまつわる課題から見ていきましょう。総務省が2020年に行った「データの流通環境等に関する消費者の意識に関する調査研究」を見ていきます。

「特に課題がない」としている企業割合が最も多いですが、ここを除くと最も多いのが「データの収集・管理に係るコストの増大」です。いわゆるデータのサイロ化・縦割りといわれますね。これは技術的には、データレイクやデータウェアハウスを作り、整備することで解決できると言われますが、そんなことはありません。データを使う人が、共通認識を持たなければいけないのです。

今日はこのデータを整備した一歩、半歩先の運用構築、さらには組織開発にかかわる話をしてけたらと思っています。

そこで、まずは僕の方でデータにまつわる技術・研究開発/組織開発のステップを整理してみました。
多くの企業では課題解決型のデータ分析であるアドホック分析を実施されていると思います。仮説を立てて短期的な成果を上げるファーストステップです。このステップをクリアできると、その分析を自動化・システム化します。そして、売上向上など新しい価値を作るためにプロダクト開発や研究開発するといった最終段階へとつながっていきます。

では、このステップの中で「ファクトブック」はいったいなんなのか。今回はそこに迫っていきましょう。

ファクトブック・プロジェクトは、3つのマテリアルと1つのアクティビティで構成されています。3つのマテリアルとは、

  • ファクトブック 計算仕様書

  • プログラムコード

  • プレゼン仕様書・運用概要書

の3つです。そして、1つのアクティビティがメンバーで行う「読み会」です。

ファクトブックの概要をお伝えしたところで、企業におけるファクトブックの取り組みをLIFULLの羽賀さんと薬王堂の西郷さんにお聞きしていきたいと思います。まずは、羽賀さん、よろしくお願いします。

[LIFULL] 熱意のある参加者をいかに増やせるかがカギ

羽賀 崇史|HAGA, Takafumi. (株式会社LIFULL LIFULL HOME’S事業本部 事業統括部 事業戦略Unit BI推進G グループ長)

2014年、総合研究大学院大学物理科学研究科博士課程修了。電波観測による巨大ブラックホールの研究にて、博士(理学)の学位を取得後、同年にLIFULL(旧NEXT)に新卒入社。LIFULLでは、不動産会社向けのコンサルティング営業で新卒初の年間トップセールスを達成。その後、事業データの分析に基づく戦略立案や、営業DXを推進。2020年よりデータアナリストとして、退会予測モデルの開発や因果推論分析、事業データ基盤開発や、社員のデータリテラシー向上など、データを駆使したビジネス改革を推進中。趣味はクイズや脱出ゲーム。
話し手:羽賀 崇史|HAGA, Takafumi.

LIFULLの羽賀です。よろしくお願いいたします。LIFULLのファクトブックの事例紹介をさせていただきますね。

LIFULLの主力サービスは、不動産住宅サイトの運営です。家探しをするユーザーさんと、物件情報を持つ不動産会社さんを、サイト内でマッチングさせるビジネスになっています。サービスには、ユーザーの行動データや物件情報データがあり、それらを分析して成果につなげることがミッションです。

いま「事業を革進するために、データを最大限に活用したい」という課題を、多くの社員が感じています。一方で「業界のドメイン知識」は人の経験に依るモノです。そのため、属人化しやすいという特徴があります。しかし、良質なドメイン知識がなければ、良質な仮説は生まれてきません。

そこでLIFULLのファクトブックの取り組みでは、ファクトを中心に「良質なドメイン知識を獲得し、それを共通化」することを目的にしています。

社内でのファクトブック読み会は、月2回、1回1時間で実施しています。これまで15回開催し、約200名の方に参加してもらいました。参加者によるアンケート回答によると、「これまでの施策やデータに対して思い込みやイメージが間違ってそう」という気づきも生まれています。

具体的な改善提案が出た例を1つ。物件検索フィルタの「築年数の検索範囲の拡大」です。築年数と問い合わせ件数のデータから、築年数が古い物件でもかなり問い合わせがあることがわかってきました。そんなデータから、物件検索フィルターの改善を検討したほうがいいというアイデアが出て、事業にインパクトがあるアイデア創出につながったのです。

アイデア創出にもつながるファクトブック読み会のポイントは、「熱意のある参加者をいかに増やせるか」にあると思っています。熱意が伝われば同じものを見て、その熱をより大きく事業部に発展させることができる。もっと、参加者を増やすことで、ファクトブックが活用できる余地が、まだまだあると考えています。

[薬王堂]経験と勘からデータのマーケティングへ

西郷 孝一|SAIGO, Takahito (株式会社薬王堂 代表取締役)
大学卒業後、花王に入社。その後、2012年に株式会社薬王堂に入社。営業企画部部長、商品部部長、業務改革部部長、経営企画部長を経て、この2024年3月に株式会社薬王堂の代表取締役に就任。「東北から世界の健康をデザインする」をかかげ、薬王堂の中長期的な戦略立案と実行をするために、他業界の人材・企業とのコラボレーションも積極的に推進。データ活用では、ファクトブックでつちかったデータ分析基盤・組織基盤が「薬王堂PBMA」へと発展。データによる実店舗での効果検証と新しい購買体験を目指す。
話し手:西郷 孝一|SAIGO, Takahito.

薬王堂の西郷といいます。薬王堂は、東北6県で約400店舗を運営するドラックストアチェーンです。

薬王堂では、PBMA(Proposal Behavior Modification Analytics)という取り組みを行っています。PBMAは、お客様の購買行動における行動変容を分析し、小売の施策介入の効果検証を行うものです。

PBMAで活用するデータには、売り場、1時間毎の在庫、支払方法、健康情報(血糖値・中性脂肪、肌の状態など)など多岐にわたります。さらには、どの店舗が、どんな売り場で、どんなコーナーを作ったのか、などもデータ化して、分析できるデータベースを構築しています。

こうして集めたデータを用いて、店舗現場で働くメンバーも巻き込みファクトブック読み会を行っています。実際に、介入アクションもいくつも考え実行しました。たとえば、クーポンの配布です。事前に購入意欲が高まりそうなタイミングをデータから予測して、そのタイミングでクーポン配布をして販促を行いました。これが薬王堂のファクトブックの取り組みです。

特徴は、きれいな状態でデータを保持できていることです。それは「活用」しているからこそ実現できていると思っています。活用している中でデータ不備を見つけたら、データベース管理チームに伝え、すぐに直す。このように、データに不備があってもすぐ直せる運用にしているんです。

このようにして作ったデータを読み合うファクトブック読み会は、当たり前の数字をただ見ているだけとも言えます。実際に、はじめはデータサイエンスに慣れること、同じ数字を見慣れることを目的にしていました。それを続けていき、数字に慣れることで、変化や違いに気がつけるようになり、考察やアクションにまでつながるようになったのです。最近では、ファクトブック・プロジェクトの運用はメンバーに任せられるようになっています。

薬王堂のファクトブック・プロジェクトがうまく機能しているポイントは3つあると考えています。1つは、組織にもとからあった数値を見る習慣です。データサイエンスが入る前から、数値で仮説検証をする習慣がありました。2つ目が、現場が楽しんでいること。そして、3つ目に経営も楽しんで参加しているということです。互いに意見を言い合って、議論ができる組織文化があることが大きいですね。

[cross talk]ファクトブックを境界をつなぐ「バウンダリーオブジェクト」に

鹿内:ここからはクロストークで「ファクトブックをより深めるには」をテーマに、対話を通して聞いていきましょう。まずは、苦労した点をお伺いできますか?

羽賀:データの比較ですね。データに「ユーザー情報」と「物件情報」があり、物件情報を先に可視化していました。ただ、この比較がなかなか難しい。両者のデータを出したとき「軸をどうするべきか」「分布図をどうするのか」などは試行錯誤しました。

西郷:データを見ることですね。僕自身は「データが見づらい」とは感じませんでしたが、メンバーは初めてみるデータにちょっと苦労していたように思います。2~3か月やってみて、段々慣れていったと記憶していますね。

鹿内:ファクトブックの「キーマン」についても聞かせて下さい。薬王堂さんの場合、最初は西郷さんがキーマンだったと思いますけれど、どんなメンバーを担当者としてアサインしたのでしょうか?

西郷:ポジティブにアクションを起こせる人がファクトブックに適任ですね。役職や年齢性別などは関係ないと思います。小売業はなかなか忙しいのでとにかく、アクションを起こせる人を置きました。周囲から「あれ面白そうだな、いいな」と思ってもらえることが大事かなと思います。

羽賀:私も関わる方の多様な専門性が大事かなと思います。私はデータアナリストとして携わっていますが、ファクトブックの取り組みには、エンジニアやサイト改修を行うサービス企画職、事業戦略の方などが関わっていました。LIFULLには「キャリフル」という自身の業務時間の10%を、所属部署以外での仕事に使えるという社内兼業制度があります。キャリフルで分析の時間を取ってもらって一緒にやっていたりします。

鹿内:どんなメンバーに関わってもらうかも取り組みを大きくしていくうえで大事ですね。このファクトブックの取り組みをはじめる際のノウハウに関しても聞かせて下さい。

西郷:小売業の場合には店舗の売上しか見たことがない方も多いので、見たことがないデータを見るのは多少慣れるまで時間かかる部分は正直ありました。ただ、実際にファクトブック読み会をするなかで見慣れてきて、売上予測モデルの開発をするなかで積極的に聞いてくれるようになりましたね。数字を見慣れることが大事だと思います。

さらに、データを見慣れていけば、間違ったデータを見つけることができるようになります。そして、見つけたらすぐに修正すること。このようにしてデータベースを綺麗な状態に保てていることも大事なポイントですね。

羽賀:LIFULLでは課題解決的なアプローチから入りましたが、やはりドメイン知識をちゃんと得たほうが良い仮説が出ると思います。データを読み込んで教材にして仮説を立ててみる。それを繰り返すことがいいと思います。

鹿内:確かにある種、経験学習でこんな課題解決で失敗したからファクトブックに戻って……というパターンもあると思います。その意味ではデータクリーニングが重要で、データベースがしっかりしていることが大事ですね。

鹿内:次にファクトブックのプロジェクトを行う際の組織体制についてです。薬王堂さんは段々とデータサイエンスのメンバーからインターン、営業と増えていきましたが、どのような展開にしていったのでしょうか。

西郷:最初は乗り気な人たちでスタートしました。行っていくなかで「アウトプットに満足せずアウトカム、成果につなげる道具にしていこう」と強く言っていましたね。やっぱり、お客さんに来てもらう、売上を上げるのがメインのテーマです。ですから、AIを使った売上予測モデルもそれを理解したうえでの施策で、アウトカムに繋げて成果検証すると楽しくなっていくと思います。ちょっとくらい失敗してもやってみよう、という勢いで上手く馴染んでいった感じがしますね。

ある程度プロジェクトが大きくなってきたら、1つの部署だけではなく複数部署にまたがる形で定着させたほうがいい。それは経営者次第なのかなと思います。どんどん「仕事を減らして18時には帰ろう」というのを合言葉にしてこの取り組みは行っています。今の薬王堂は自分の仕事が減れば経るほど、売上が上がるというサイクルに入っており、よい循環だと思っています。

鹿内:羽賀さんも、試行錯誤しながらファクトブックを進めていると思います。何を考えて人を巻き込んでいますか?

羽賀:ファクトブックの効果やメリットを感じてもらうためにどうしたらいいかを考えながら、メンバーの巻き込み方を考えています。いまメインターゲットとして考えているのは、営業職の方々ですね。営業職の方に価値のあるコンテンツを作っていきたいと考えています。さらには営業職に限らず多様なメンバーに参加してもらって、それぞれの立場で自分の想いを話せる場になると、ファクトブックが組織を動かす力になっていくと考えています。

鹿内:ありがとうございます。ファクトブックは、技術的なデータベースを揃えるだけではうまくいかないことがわかりますね。組織の人を巻き込み、組織文化をつくっていくような取り組みが大切。ファクトブックを、組織の人と人をつなぐ「バウンダリーオブジェクト(境界をつなぐもの)」にすること。ディスカッションの文化を生み、コミュニティとして育てていくことが大事だということをお二人の話からも実感することができました。今日はありがとうございました。


編集後記

LIUFLL、薬王堂のデータサイエンスの取り組み「ファクトブック」。この取り組みは、人事領域にも応用できます。例えば、エンゲージメントサーベイのデータを読む会を行い、「社内コミュニケーションを活性化させる方法」や「ミッション・ビジョン・バリューが浸透しているか」を議論することもできるはず。組織がどこに向かって何をするのかを考えるとき、データというバウンダリーオブジェクトを置くことでみなが議論をしやすくなるのです。

シンギュレイトは、データサイエンスの技術を活用し組織開発を支援していきます。組織開発で手詰まり感に陥ったとき、一度データを客観的に見てみると糸口が見つかるかもしれません。


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本記事は、※この記事は2024年5月28日に行われたLIFULL AI Hub 100 ミニッツ #2 「ファクトブック」「データの民主化とAI開発の新しいカタチ LIFULL×薬王堂」の模様を記事化したものです。

2024年8月8日(木)にLIFULL AI HUB 100ミニッツ #3を開催!今回のテーマは「心理学×データサイエンス」。データサイエンスに心理学を活用する方法に迫ります。