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『Modern Goose』今を生きる鳥

季節問わず様々な植物に触れることができるアラン・ガーデンには、もう一つ変わらないものがある。公園内には先住民の人々が暮らすテント型の住居が建てられており、その中では市の保護下にあるSacred Fire(神聖なる火)が一年中もくもくと煙を上げている。
稀にテントの隙間から赤い炎が見えることもあるが、基本的にはプライベートな空間であり、私の関わり方といえば通りすがりに甘い薪木の匂いを嗅ぐくらいだ。

公園の芝生にカナダガン(雁)が降り立つようになると、ようやく時の移ろいを感じる。遠いところから春を連れてやってくる優美な渡り鳥だ。
ミルクをたっぷり使ったコーヒーのような羽毛に包まれた胴。コントラストの利いたモダンアートのような白黒の顔。都会のあらゆるプリズムを反射させた小さな目を光らせ、ホッケースティックを思わせるしなやかな首で地面をつつきまわっている姿は愛嬌すら感じる。
それでいて街中で見るときはいつも広い公園にぽつんと立っていて、なんだか物悲しくも思える不思議な生き物だ。

エッセイ的ドキュメンタリー映画『Modern Goose』を制作した人々もその姿に引き寄せられたのだろう。風に揺れる羽毛の一枚や、凸凹した水掻きの先端までじっくりと撮影した映像だけでも、ガンに対する想いが伝わってくる。
テレビシリーズ『The Seven Wonders of Manitoba』で壮大なマニトバ州の情景を捉えたKarsten Wall監督。監督二作目にあたる本作ではウィニペグ州の街中や湿地に生きるガンたちを七ヶ月かけて撮影した。
都会の残酷さを抉り出す冒頭から、自然への回帰を促すラストシーンまで、細部までこだわった映像美に魅せられる作品だ。特に高速道路やゴミ捨て場といった、空を自由に羽ばたける鳥には全くそぐわない場所にひっそりと佇むガンの姿は一度見たら忘れることができないだろう。
その様子は私にアラン・ガーデンに住む人々を思い起こさせた。否、公園に住んでいるのではない。住んでいるところに公園ができたのだ。ガンたちもまたゴミ溜めに住んでいるわけではない。住んでいるところにゴミが捨てられていくだけだ。

現代社会を生きるカナダガンを撮った映画『Modern Goose』が本当に見せるもの。それはガンではなくガンの目に映った私たち人間であった。
美味しいものや、お洒落なものを手に入れるために、一体どれだけの生物をないがしろにできるのだろう。
それでも監督自身「例え現代社会の未来が不確かなものであったとしても自然には自然の予定がある」と言うように、都会の隙間にはいつも美しい生命が暮らしを続けている。

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