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先住民による管理がアマゾンの炭素吸収力を守るカギである

アマゾンの熱帯雨林は、“生態系の宝石”と呼ばれています。そこには、約4,000億本の樹木と、絶滅の危機にある1万種の生物が生息しています。またアマゾンは陸域で世界最大級の炭素吸収源であり、光合成の働きによって地球温暖化の原因となる大量の二酸化炭素を吸収・蓄積しています。

しかし、このようなアマゾンが持つ気候変動抑制の機能は、均一に存在するわけではありません。世界資源研究所(WRI)の研究者は、2001年から2021年の間にアマゾンの全域で「どれだけの炭素が吸収され」、「排出されたか」を評価しました。その結果、先住民や地域コミュニティが管理する場所では、年間3億4,000万トンの炭素が吸収されていることがわかったのです。 (これは、イギリス全土の年間二酸化炭素排出量に相当します。)しかし、政府や個人所有者によって管理されているその他の地域は逆に、温室効果ガスの純排出源となっており、主に森林の減少によって、毎年2億7000万トンが大気中に放出されていました。


なぜ管理者の違いで炭素の排出、吸収力に違いがあるのか

先住民の管理する場所と、政府や個人所有者が管理する場所で、二酸化炭素の排出および吸収量に大きな違いがある理由は、先住民や地域コミュニティが森林の減少や劣化から土地を守ることに長けているからだと考えられています。ここ数十年、世界的な需要の高まりの中で、アマゾンの5分の一が農業や牧場、鉱業、石油採掘のために燃やされ、切り開かれました。この行為は気候変動を加速させるとともに、熱帯雨林が急速にサバンナに変わってしまうという、環境崩壊の半永久的な負のサイクルである「ティッピングポイント」に限りなく近づけることになります。

WRIの調査によると、先住民の土地の権利を強化することが、重要な炭素吸収源を保護するためのカギとなると言います。先住民やその他のコミュニティにとって、彼らの土地は、食料をもたらす場所というだけなく、薬や、薪、住まいの資材、雇用、収入、福祉、安全、文化、精神性の主要な源であるという、場所に対する深い理解があるからです。この相互依存に加え、何千年にもわたる実践的な経験により、先住民コミュニティはアマゾンの守護者としてのユニークな立場にもあるのです。

ブラジル先住民カヤポ族


土地の所有権を巡る問題

しかし土地の所有権は、効果的なアマゾンの管理に対する障壁となりえます。例えばブラジルでは、ボルソナロ前大統領が先住民の土地の公認を停止し、先住民の権利を行使する政府機関を解体しました。このころにアマゾンの重工業は加速し、ベルギーを上回る面積の森林を占有するようになりました。しかし、その後、ルラ大統領は、森林の保護と回復を優先し、先住民の土地所有権を拡大するという公約通り、先住民の権利を取り戻しています。

世界のリーダーたちは、土地の管理が気候変動パズルの重要なピースの一つであることを認めるようになってきました。しかし、たとえ今すぐに化石燃料の使用を廃止したとしても、地球の気温は上昇し続けます。なぜなら、植物と土壌は知られている化石燃料の2倍もの炭素を蓄えており、これらの炭素吸収源となっている生態系を守ることができない限り、気温は安定しないからです。

自然の力を活用して、気候対策を加速度的に進めるためのアイデア


コンサベーション・インターナショナルとポツダム気候影響研究所(PIK)は、自然の力を活用した気候対策を加速度的に進めるためのアイデアである「エクスポネンシャルロードマップ」を発表しました。2030年にネットゼロを達成するために、草原、湿地、森林などの力を活用し、土地の排出吸収量を毎年増やしていくというシンプルなロードマップです。そして特に注目されるのは、農地などの事業用地の力も最大限に活用して大気中から炭素を取り除くための包括的なアイデアが示されている点です。2030年までに自然からの排出をゼロにし、2050年までに人間が管理する土地で毎年10ギガトンの炭素を吸収できるようにする、というのがエクスポネンシャルロードマップ研究者たちの提案です。

注目すべきは、この計画では、人工降雨や海洋施肥など、実証されていないジオエンジニアリングのような、試験的な技術は求められていないことです。むしろ、マングローブや泥炭地、熱帯雨林など、大量の炭素を蓄える自然生態系の保護、劣化した生態系の回復、そして最も重要なのは、農場やその他の人間が利用している土地の持続可能な管理への移行がすべての行動の軸となります。報告書に記載された保全策の多くは、何世紀も前から続く先住民の慣習に由来するものであり、比較的低コストで容易に規模の拡大が可能です。

コンサベーション・インターナショナル CEO の M.サンジャヤン は、「ロードマップで示された対策は、気候変動の緩和に役立つだけでなく、回復力を高め、野生動物を保護し、人々の健康を促進し、農村部の雇用を創出し、地域経済を発展させるものです」と話します。
 


投稿 :Matthew Ribel  ※原文はこちら
翻訳: 井上 晃利 (CIジャパン インターン)
編集: CIジャパン
TOP画像:ブラジル、パラー州タパジョス国有林。焼畑、森林伐採、土地収奪の危機にさらされている © FLAVIO FORNER

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