ストロベリーウィークとフレンチトースト
ふと、食パンを買ったことを思い出した。
卵と牛乳、たくさんの砂糖があればいいので楽だ。
私がふやかしたドッグフードを食べていた小さな飼い犬は、
いつの間にか、1歳を越して体が大きくなっていたし、
冷凍ボロネーゼにツナを入れて食べることしかできなかった私は、
いつの間にか、フレンチトーストを作れるようになっていた。
ストロベリーウィーク。世間ではそう呼ぶらしい。
私のストロベリーウィークは名前ほど可愛いものではない。
頭痛に悩まされるし、長時間の睡眠が必要になる。
きっと世の女性たちも似たように悩んでいるだろうけど、
それでも私のストロベリーウィークはとにかく辛いのだ。
あまり話したことのない人と話すのは新鮮な気持ちになる。
彼女は、入国審査どころか、丁寧に招待状をくれた。
沈黙が苦手な人は一定数いると思う。
でも彼女は「ゆったりしていていいね」と声に出してくれた。
私もそう思っていた。彼女との沈黙は苦痛でもなんでもなかった。
どうやらボロネーゼの話を気に入ってくれたようだった。
コンプレックスを認められたような気がした。彼女にも、私にも。
どこか似ているようで似ていない。
恋をすると盲目になるのは一緒だけれど、彼女は物書きをしないし、
私は普段からよく質問をしたりするけれど、彼女は無闇に何も聞いてこない。
月曜は映画に行こうかな、と独り言のように呟いた彼女に
「私も連れて行って」と言いかけて、やめた。
理由は3つ。
彼女の観たい映画が私とは一致しないこと。
もしかしたら、1人で観るのが好きかもしれないこと。
何より、彼女と私は会える距離にいないこと。
最後の理由だけ見れば簡単に分かることだが、それでも私は言いかけた。
どうやら私は、しばしば物事を深く考えずに言葉を発してしまいそうになる癖があるようだ。例えば今みたいに。
あまり悪いことだとは思っていない。夢の話をしたっていいのだ。
言葉は麻薬だ。
夢にもなるし、現実にもなる。
言い方を変えれば、叶うことも叶わないことも言葉として発していい。
「近くに住んでたら一緒に行きたかったな」と言ってもいいけれど、シンプルに
「私も一緒に行きたい」と言った方が可愛げがある気もする。
ストロベリーウィーク中の私はそんなあざといことを考えるんだな、と思いつつ、
これからフレンチトーストの下ごしらえをしようと思う。
深夜1時、フレンチトーストを食べながら君と映画を観たいな。