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レインボーシール

2024年5月25日、産業衛生学会のシンポジウム「LGBTQ+労働者に産業保健はどう向き合うべきか」に参加しました。こうしたテーマが産業保健分野でも取り上げられるのは、いい傾向だと思います。

産業医活動の中では全くLGBTQ+に取り組んでなかったので、これを機会に実務との接点を考えてみることにしました。


ジェンダー問題:みんな当事者

日本のジェンダー主流化政策は男女共同参画がメインです。たしかに日本のジェンダーギャップは深刻ですが(2024年は146か国中118位)「男女」を強調することで、ジェンダーのマイノリティであるLGBTQ+の存在が見えなくなったり、ジェンダーとは別の問題と思われがちです。

実は、昔は漠然と、ジェンダーは「性別による社会的役割」だと思ってました。男とか女とかいう以前に「人間」であることのほうが大事だと思うし、産業医になった頃も「なんか面倒だしうぜぇな」ぐらいの認識でした。

でも、人文社会学を専攻すると何につけても容赦なくジェンダー問題が出てきます。国際関係分野でジェンダーを学ぶうちに、これはスルーできない重要な社会問題だと分かってきました。

そして、今回のシンポジウムを機に、ふと「面倒だしうぜぇな」が、まさに自分のジェンダー観なんだと気づかされました。
男らしさ女らしさを大事にするのも、関心がない、分からないという姿勢さえも多様なジェンダー観の一部であって、全員が当事者なんですね。

LGBTQ+:マイノリティの尊厳

LGBTQ+については不勉強で、レインボーフラッグは知ってたけど、レインボープライドとかアライ(Ally)は今回のシンポジウムで初めて知ったレベルです。ただ、医学的・生物学的にも男女の区別がはっきりしないケースがあるのは分かってるし、直接カミングアウトされてないけどLGBTQ+の知人もいます。
まあ、だからこの機会に取り組んでみようと思ったわけですが。

人文社会学にはいろんなアプローチがあるけれど、ここでは社会的少数者(マイノリティ)の尊厳という視点から考えます。
LGBTQ+に限らず、マイノリティは理不尽な差別や迫害を受けがちです。
社会の仕組みは権力者や大多数の人に都合よくできてるため、気づかないうちに(ときには故意に)マイノリティの人権や尊厳が犠牲にされちゃってます。マイノリティゆえに不利にならない、誰もが安心して暮らせる社会をつくることが大切です。前の記事の社会正義とも通じますね。

・・・なんて、超簡単にまとめてみましたが。
学術的アプローチを知らなければ、誤情報が飛び交う中から自力でこの認識までたどりつけたか怪しい気がします。

現実的な落としどころ

例えば、30人以上の事業場なら性的マイノリティがゼロって可能性は低い。
LGBTQ+の話が出なくても、問題が表面化してない、見えてないだけだと思います。

本来なら会社として方針を出すべきですが、センシティブな問題を理解するには時間がかかります。LGBTQ+の知識や理解するための土壌がない事業場で、問題を「見える化」したり、いきなり啓発するのは悪手です。
本人が居づらくなって辞めるかメンタルやられるのがオチでしょう。

産業医が、専門職として責任を負える範囲でできること。
これは、本当にケースバイケースです。

弊事務所の場合、中小規模の事業場で問題が表面化したときにアクセスしやすい環境を用意しておく、というところに落ち着きました。
LGBTQ+について勉強中だけど、何かあったら話だけでも聞くし、カミングアウトしてもしなくても大丈夫ですよ。

じゃあ、そうやって準備できてることを、どうやって発信するか。

弊事務所のアクセスポイントは、産業医面談にしました。毎回わりと気軽に面談してて、プライベートな話を聞かされることも多いので。

レインボーシール

何を使うかさんざん迷ったんですが、産業医面談に使うノートパソコンの天板にレインボーシールを貼りました。
相手側から目につきやすく、でも不自然にならないように、シールの色や形、大きさや貼る位置もあれこれ試しました。

もし、LGBTQ+について問題を抱えてる人がレインボーシールにピンときたら、話を切り出してくれるかもしれません。
話す気がなくても、レインボーシールを見て安心するかもしれません。
「そのシール何ですか?」と訊かれたら、LGBTQ+やジェンダーについて話すきっかけになるでしょう。

結局シール貼っただけ?
そうなんですけど、文献読んだり、地元のレインボー・パレードや他社の取り組みについて調べたりして、個人ではなく産業保健専門職の立場で発信する意味を考えて実務に落とし込むのに、人文社会学系のアドバンテージがあっても3か月近くかかりました・・・

大事なこと

センシティブな問題へのアプローチは、その問題を知り、思い込みや認識を改めて、同じ社会の構成員としての当事者意識を持ち、時間をかけて理解を深めていくプロセスが肝心だと思ってます。

マイノリティの尊厳を理解しないまま、形だけレインボーシール貼って終わりだとか、小手先のマニュアルつくるような対策には賛成しません。
無理に産業保健活動に落とし込まなくても、個人としてレインボーバッジやストラップを使うほうが上手く行く場合もあるかもしれませんね。

まずは知ること、そして関心を持ち続けること。
それが、誰にでもできる一番大事な取り組みだと思います。

以上、ご参考まで。

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