『おいハンサム!!』 めんどくさい娘たちと父の愛
全8話ということでもう終わってしまった『おいハンサム!!』、期待以上に良い作品でした。
伊藤理佐氏の漫画を原作としているものの、通常と違って、複数の傑作のミクスチャーということで、公式サイトには“伊藤理佐ワールド全開”のドラマ、と謳われています。まだ読んだことがないのでどれか読んでみたいです。
良い点、色々あるのですが、まず挙げたいのはキャスティングです。
もともと吉田鋼太郎さんと佐久間由衣さんが好きなので見ることにしたのですが、伊藤源太郎を父とする伊藤家の面々、役のキャラクター設定もいいし、それを演じる俳優たちもそれぞれ良かった。
源太郎を演じる吉田鋼太郎さんは、持ち前の“シリアスもコミカルもいける”演技力と、めちゃくちゃいい声(好きです)で、まさに「ハンサムで何言ってんの」という言葉を導き出すのにぴったり。
長女・由香(木南晴夏)、次女・里香(佐久間由衣)、三女・美香(武田玲奈)は、それぞれめんどくさい部分を持つ“年頃の”娘たちで、それぞれパートナーに関する問題を抱えています。女性はこの中の誰かしらに自分のめんどくささや抱えている問題を見ることができそうな気がします。
母・千鶴(MEGUMI)は、まともそうに見えて実は内面がぶっ飛んでいます。だからこそ何事も受け止めて軽く受け流すことができるのですよね。母親って、これくらいの感じで生きていけたら、自分も周りも楽です。もしかしたら理想の母親像かも。
三人の娘たちに絡む男たちもおもしろい。
長女・由香に絡むのは、無骨だけれど“わかってる(がゆえに源太郎に気に入られる)”元彼・大森利夫(浜野謙太)、イケてるけど平然と既婚者な竜也(久保田悠来)、一瞬心を動かされる売れないミュージシャン・リョータ(青柳塁斗)、年下イケメンの青山(奥野壮)。
次女・里香に絡むのは、エリートだが浮気にモラハラ、離婚したくなる夫の典型・浅利大輔(桐山漣)と、行きずりで『アフリカの夜』という小説を持っていた男。
三女・美香に絡むのは、漫画家志望のダメ(だけど居心地のいい)男・ユウジ(須藤蓮)と、ハイスペック(だけど色々難ありな)男・大倉学(高杉真宙)。
こうしてキャラクターだけを見てみても、全8話の中に多彩な要素が組み込まれていることがわかります。
ストーリーの主軸は、娘たちそれぞれの最良のパートナー選び、ということになるかと思いますが、それは突き詰めればそれぞれが“どのように生きるか”を考えるということにつながります。
娘たちがそれぞれ、自分の人生と悪戦苦闘するのを見守りながら、ここぞという時には(ステテコにコートを羽織りゴルフクラブを握りしめて)駆けつけ、あるいは家族会議を招集して押し付けがましくなくアドバイスする父。源太郎がハンサムで言う言葉は、どれも娘たちへの愛に溢れていて、心にじんわり沁みてきます。
こういうコメディって、下手すると演出が過剰で逆におかしみを殺してしまう場合があると思うのですが、本作はそれがなく、クスッと笑わせてくれる感じがちょうど良かった。
もちろん笑えるコメディでありつつ、時にじんわり感動させ、さらに考えさせてもくれる、愛の本質をついた(は大げさか笑)本作は、総合的に言ってもしかしたら今期一番の作品かも。
結局私たちはドラマの中に人間を見たいので、大きな事件なんかなくたっていいんです。(もちろんパートナー選びは当事者にとっては大きな事件ですけれども)