バレンタインデーになるとチョコレート工場で働いたことを思い出す
数年前、バレンタインデー当日
友だち『あれっ、今日バイトは? バレンタイン当日だから一番ひと必要なんじゃないの?』
私「えっ? 私、売るほうじゃなくて、作るほうだから」
友だち『……へ?』
「バレンタインのバイトをする」とだけ伝えていた友だちは、私が販売員ではなくてまさかのチョコ工場で働いていることに驚いていた。
チョコレート工場での短期バイト
大学生のとき、ちょうど真冬のいまぐらい(厳密にいうと1月ぐらい)は、講義が終わるとダッシュでチョコレート工場のバイトに向かっていました。
短期バイトだったので本当に数えられるほどの出勤日数だったのですが、華やかなバレンタインの裏側? 裏方? を垣間見たので、そのエピソードを書いてみようと思います。
※本記事は私が働いていた工場の話であり、工程や方法などは他のチョコ工場と同一に当てはまるわけではありませんので、その点をご了承ください
※エピソード内に真っ白の箱という描写がありますが、現在はデザインが変わっているため今はその商品は存在していません
友だち「普通はさ、バレンタインのバイトっていったら売る方だと思うじゃん」
バレンタインデーが近くなると、デパートや百貨店などでも特設コーナーみたいなものが設置されて、いろんな制服に身を包んだ店員さんが華やかなチョコレートを売っている。
そんなバレンタインデーの増員バイト募集も多いなか、私はなぜか作るほう(詰めるほう)を選んだ。理由は単純で、そっちの方が時給が良かったから。
そんなこんなで、真冬の時期は大学が終わるとチョコレート工場に直行する日々を過ごしていた。
チョコレート工場での業務内容
どうせチョコレートをただひたすら詰めるんでしょ、なんて呑気に考えていた私。けれど、バイト初日に覚えないといけないことが多くてとても驚いた。
チョコの名称、化粧箱の種類、商品名、どの箱にどのチョコレートを詰めるか、箱入れのレイアウト(右上に○○チョコ、その左には○○チョコといったふうに全ての位置が決まっていた)、チョコレートを詰める順番(トリュフチョコのココアパウダーなどで化粧箱を汚さないため)、入れ違いがないか個数のチェック、どの箱にはどのリボンでラッピング、シール…etc
チョコレートの種類ってこんなにあったっけ……? と思わずにはいられないほど、莫大な種類のチョコレートが複雑に組み合わされて、それぞれが化粧箱に詰められていく。
何百個、何千個のチョコが入ったダンボールは、中身がチョコと思えないほどにズッシリと重たい。
絶対に落とさないように、傾けないように、腰を入れて運ぶ。
その重たさで手先が震えるほどだった。
出荷を目前に控えて綺麗にラッピングされた、完成形の何千個というチョコたちをザッと眺めて冷静にこう思ったのを覚えている。
人間って、こんなにいっぱいチョコ食べるの……?
ひとつのチョコを完成させるのに、一体どれだけ多くの人が関わっているんだろう
お店で売っている完成品を一度、そういう目で見てみてほしい。
すると、いろんな種類のチョコがひとつの箱に綺麗に詰められて、チョコの向きまで統一されていて、さらにパッケージには包装紙やリボン、裏面には成分表など、その一つを完成させるのに結構な工数を踏んでいるのが分かるはず(チョコそのものを作るパティシエやパッケージのデザイナーなども含めていくと想像の範疇を超える)。
人気店などで年間を通して売られているグランドメニューのチョコレートなどであれば、それ専用の製造ラインみたいなものが工場にあったりするだろうから、もしかしたら機械化されていて、それプラス最低限の人間の手による作業があるぐらいかもしれない。
でもバレンタインデーは特別のようだった。
なんていったって種類は多く、最近ではパケ買いや、映えが重要視されているためか、パッケージやチョコレートそのものですら綺麗さや派手さを競って、手に取ってもらえるように繊細なラインをどんどん攻めてゆく。
それに比例して、チョコレートも化粧箱も繊細さを極めてゆく。
ということは、それ相応の繊細な作業が求められる。
莫大なチョコレートのなかから、みんな何かしら「これ!」とビビッ! っときたものを購入する。
そう思ってもらえるためには、やっぱり多くの人の手が介入しないと完成品は作れないのかもしれない。逆の言い方をするならば、完成品にはそれだけ多くの人の手がかけられているということだろう。
特に神経を使ったチョコ、それはトリュフ
トリュフチョコ。
私もチョコのなかで1、2を争うほど好きな種類。
クリーミィで滑らかに口のなかでゆるりとほどけて美味しい。
でも写真を見てもらったら分かるように、粉だらけなのだ。
これを完全防備のおぼつかない姿(食品工場などでよく見るあの髪の毛まですっぽりの真っ白な作業着)で、手袋をキッチリはめてこのトリュフチョコを詰めていく。
それも真っ白な化粧箱に。
手元が ありゃっ となると
真っ白な箱に、ひっくり返ったトリュフチョコが落ちる。
ということは、粉もいっぱい落ちる。
真っ白な箱に、茶色い粉が舞う。
舞うというか、もはやココアを振りかけたみたいになる。
ンンンナァァアアァァアァア!!
って内心なる。
でも声など一切出してはいけない。
冷静に、一つも表情に出さず、焦らずまた綺麗に丁寧に詰めていく。
これの繰り返しだった。
このチョコ工場でのバイト経験をしてから、チョコレートを買って開けるたびに「あぁ、これもどこかの誰かが、もしかしたらあの作業を……拝」みたいな気持ちになる。
チョコレート工場、寒すぎ問題
チョコレートの大敵、それは温度。
少しでも溶けてしまったら品質も味も劣るため、商品にならなくなってしまう。
だから工場は寒い。チョコレートの品質を保つため、チョコレートにとって最適な温度にしないといけないのだ。
売り物であるチョコレート様にとって最適で快適な環境にするため、働く人間には激さむの環境となる。
そんななかで黙々と、チョコレートを華やかな商品へと綺麗に変身させていく。
バイトからの帰り道、足先まで冷え切って感覚がなくて電車の乗り換えエスカレーターで盛大に転んだのを覚えいている。転んで痛いはずなのに、それも冷たさで感じなかった(帰宅後に見たら血も出てアザになっていた)。
だから夜遅くにバイトから帰宅して、速攻向かう先はまずお風呂。足先が冷えすぎてお湯の温度もよく分からず、ただジーンと徐々に感覚が戻ってくるのを待つばかりだった。
甘くて美味しい、人をホッとさせるチョコレート。それを多くの人に届ける側は、寒さとの戦いだったりもするのも知った。
このバイト経験をしてから、バレンタインデーにちょこんと綺麗にガラスケースに陳列されているチョコレートたちを見ると、そんな包んだであろう人たちを思うようになった。
顔も知らないどこかの誰かに感謝しながら、綺麗にラッピングされた姿に心惹かれて、チョコを買う。
色んな人が丁寧に手をかけて、溶けないように、割れないように、崩れないように、ひっくり返らないように、美味しいままで、そんな細心の注意が払われてやっと各地の店舗に届く。
それがまた「お持ち帰りの際は、水平にお持ちくださいね」なんて声が添えられて、大切にお客様の元へとひとつひとつ届けられるチョコレートたち。
そして、最終地点である誰かの元へとプレゼントされていく。
とっても特別な思いが込められて。
こんなふうに、バレンタインデーのチョコひとつを取ってみても、色んな想いが繋がっているんだなと実感できるバイト体験でした。
綺麗に陳列されているチョコレートの一つを見て、そのウラに広がるストーリーを想像してみると、そのチョコがさらに特別なものに感じられるから不思議です。
あぁー、私もチョコほしいなぁ。
自分で自分にご褒美チョコでも買おうかなぁ。
Happy バレンタイン