コロナ感染後の世界 経済学者はどう考える

〇2020年5月30日の日本経済新聞「経済論壇から」で、慶応大学の土居丈朗教授は、「コロナ後を見据えた論考が出始めた」として、3人の経済学者、岩井克人氏(東大名誉教授、週刊エコノミスト5月26日号)、伊藤元重氏(学習院大学教授、日経ヴェリタス5月3日号)、池尾和人氏(立正大学教授、週刊金融財政事情5月4-11日号)の論考を紹介しています。経済学には全くの素人の私でも、名前だけはよく知っている人たちであり、その話の運びも極めてわかりやすい内容なので、この時点で経済学者たちが何を考えているか、私から改めて紹介してみましょう。

〇3人の内、岩井氏と伊藤氏は、コロナ感染対策で政府による大規模な財政出動が行われる結果、通貨(日本円)の信頼が崩れることを心配しています。岩井氏は、「人々の間におカネがジャブジャブに広がれば、貨幣に対する信頼が失われて流動性が崩れて、資本主義の最も恐ろしい不安定性が表面化する」としています。「ハイパーインフレーション(急激な物価高騰)が起きる可能性も否定できない」とまで警告しています。

〇次に伊藤氏は、日本の公的債務は世界でも突出して高い水準にあるのに、財政が安定していたのは名目でゼロ、実質でマイナスの水準を付けている国債の超低金利だ、と説明しています。そのうえで、「こうした安定状況がいつまでも続くのは不可能だ」としています。

〇伊藤氏は「高い名目物価上昇率が暫らく続き、名目GDPが大幅に増えていかない限り、公的債務の対GDP比を適正と思われているところまで下げていくのは難しい」といいます。伊藤流の適正インフレによるソフトランディングの勧めのようですが、そんなにうまくいくものでしょうか。

〇現在の日本では、コロナ禍によるデフレを警戒する声が強い傾向にあります。例えば、週刊エコノミスト6月16日号は表紙いっぱいに“コロナデフレの恐怖”をうたっています。デフレは不景気のもとだからです。しかし、実際に起きれば怖いのはインフレであることは、第1次大戦後のドイツや第2次大戦後の日本を想起すれば自明でしょう。インフレに備えるには、税の在り方を考える必要がありますし(今でも、金持からはもっと取るべき!)、今表面化しつつある、持続化給付金の委託問題のような国のお金の無駄使いが、許される余地がなくなります。

〇最後に、池尾氏。感染学者でなく経済学者なのに(本人は「経済学者だからこそ」と言いそう)、これまでの二人とは違い新型コロナウイルスによる感染拡大への対処法について、真っ向から取り組む論考です。コロナの感染はいくら活動を自粛しても解決せず、活動を再開して人と人の接触を復活すれば、感染拡大が再び始まる。なので解決はワクチンが見つかるか(残念ながら、まだ)、日本人の一定割合が感染して免疫を獲得するしかない、と主張しています。

〇「感染抑制策が長引けば、経済は取り返しのつかない状態になりかねない。『感染の最終的終息には一定の感染拡大が必要』という政治的に不都合な真実を直視すべきだ」とズバリ言っています。池尾氏は「こんなことを言うから、経済学者は世間から嫌われる」と自信満々です。

〇しかしイギリスでは集団感染を模索し、3月下旬までは封鎖に踏み切れなかった結果、感染者、死亡者とも急増。2020年6月17日の朝日新聞によると、イギリスは感染者数で世界で5番目、死亡者は4万1800人余り(日本は927人)で、世界で3番目に多いのです。集団感染で解決とは、簡単に言えそうでそうでないのでは……。

〇3人の経済学の碩学の意見を聞くと、成程と感心することばかりですが、それを日本のためにどう活かすか、みんなで議論し、知恵を絞る必要があります。

〇わが日本の通常国会は、2020年6月17日を持って閉会しました。安倍首相が、国会でうるさく追及されるのが嫌だ、ということらしいのです。しかしコロナ対策の基本方針は立っておらず、私が紹介したことから考えても、議論すべきことは山ほどあります。ここで国会を休むとは、狂気の沙汰というしかありません。

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