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【抜歯したら読む】歯が割れるリスクが高まる、噛むバランスのはなし。

「左下の奥の歯は、割れているから、もう抜歯って言われたの」
「インプラントを勧められたけど、治療しないとダメかしら」
これは先日、母親から来たLINEです。

歯科治療は、できれば受けたくないですよね。インプラントは外科手術ですし、費用も安くありません。けれども私も歯科衛生士の端くれですから、さっさと治療せよ!と、熱く説明しました。

というのも、バランスよく噛める状態に回復しないと、残っている歯の破折のリスクが高まるからです。歯の破折は、また次の抜歯に繋がります。この記事では、噛み合わせのバランスと歯が割れるリスクについて、説明します。


歯を失うデメリットは、噛む力が集中すること

歯がそろっていると、バランスよく全体で噛める

お口の中には、永久歯が32本あります。その中で一番奥の歯は親知らずと呼ばれ、若い時に抜歯をしてしまった方も多いでしょう。一般的には、親知らずを除いた28本で、成人の歯はひとそろい、と考えます。
 
私の母親の例では、左下の奥歯の抜歯を勧められました。左下を失うと、次は右側で噛めばよいでしょうか。それとも本数の少ない左側も使って、左右両方で噛むようになるのでしょうか。

いずれにしても、今まで28本の歯で噛む力を支えていたのに、27本で支えることになるため、残っている歯に加わる力が大きくなります。
 
歯を失う場所によっては、食事や生活で不便がない場合もあるでしょう。けれども本当に怖いのは、残った歯に、力が集中することです。

歯が割れたら、抜歯になる

歯の破折:歯が割れたり、ヒビが入ること

噛む力が一部の歯に集中すると、歯が割れてしまうリスクが高まります。なぜ歯が割れることを心配するかというと、歯の根が割れたり、ヒビが入ったりすると、抜歯になってしまうからです。

割れた隙間で細菌が繁殖して、歯茎に炎症が起こし、噛むと痛みが出るようになります。しかし、歯の根の割れ目をつなげる方法はないため、抜歯を行うしかありません。
 
ですから、私の母親の例でも、「歯の根が割れているから、体調を崩したりして、免疫が下がった時に痛みが出ますよ」と、言われていました。

割れやすい歯の特長

力が集中すること以外にも、割れやすい歯の特長があります。次の要素が複数重なる部分が合ったら、特に注意が必要です。

①歯の神経がない(失活歯)

重度の虫歯になると、歯髄の除去を行う

健康な歯の内部には、歯髄(しずい)と呼ばれる神経があります。しかし、重度の虫歯によって歯髄に細菌感染が起こると、治療で感染した歯髄を除去します。その状態を失活歯と呼び、神経がない歯になってしまいます。
 
神経のない失活歯は、健康な歯に比べて、「枯れ木のような状態」です。歯の根の表面は、組織がはがれやすくなったり、割れやすくなったりするのです。

②ブリッジの支台になっている(少ない本数で力を支えている)

2本の歯で3本分の力を支えている

前後の歯に橋渡しをする、被せ物があります。これをブリッジと呼びます。この画像では、以前は3本の歯で支えていた部分を、2本の歯で支えることになるので、支台になった歯の割れるリスクが高まります。

③入れ歯のバネがかかっている(揺さぶられる力がかかる)

バネがかかる歯が、揺さぶられる

入れ歯は軟らかい粘膜の上に装着するため、使い心地が良くても、わずかに沈み込んだり、揺れたりしています。その義歯の動きは、バネをかけている歯に伝わるため、割れてしまうリスクを高めます。

④噛む力が強い(エラが張っている、歯茎に力こぶがある)

強く力がかかる所の、骨が厚くなっている

噛む力が強すぎると、歯が割れてしまうリスクが高まります。例えば力仕事をしている方は、毎日食いしばって、過剰な力がかかっているでしょう。顔の輪郭が四角い人やエラが張っている方も、食いしばる力が大きいと予想されます。

また、歯茎や上あごに、盛り上がっている部分はありませんか?力に対抗して、歯茎の骨が増大し、骨隆起と呼ばれる力こぶを作ることがあります。この周囲も、歯が割れるリスクに注意が必要です。

⑤被せ物のかみ合わせが高い

金属やセラミックは、天然歯より硬い

上下で噛みあった時に、被せ物が早く当たって、強い力がかかることがあります。保険の金属や、セラミック、ジルコニアなどの被せ物は、天然の歯に比べると硬い素材です。被せた時は適切な高さであっても、時間の経過とともに、天然の歯だけがすり減る場合があります。

そうすると、被せ物だけ早く当たるようになり、歯が割れてしまうことに繋がります。かみ合わせは徐々に変化するので、定期健診で確認をしてもらいましょう。

抜歯後の治療方法

歯を抜いた場合、その後の治療はどのようになるのでしょうか。選択肢は、入れ歯、インプラント、その他(延長ブリッジ、移植など)です。いずれの方法でもメリットやデメリットがあるため、お口の状況や患者さんの希望に合わせて、治療を始めることになります。

まとめ 母はインプラント治療をするらしい

おいしく食事するために、歯は大事

歯がなくなってしまった時は、残っている歯の割れるリスクに注意しましょう。一本の歯を無くしたことをきっかけに、次から次へと、歯を失う方は珍しくありません。

例えば入れ歯を作ったとしても、良く噛めない入れ歯であれば、そこを避けて食事をするでしょう。その結果、残っている自分の歯が割れてしまうのです。
 
歯をなくした部分の治療をすると、以下の大切なメリットが得られます。
・お口全体がバランスよく噛めるようにすること。
・将来的に歯を失うリスクを減らすこと。

 
外科治療を嫌がっていた母親ですが、私はこんこんと説明をしました。何本も歯が無くなってから、治療をするなんて、お金も時間ももったいないこと。かみ合わせが崩壊する前に手を付ければ、治療の難易度が低いこと。そして、美味しいごはんをずっと食べたいでしょ、と。
 
母は、非常に嫌な顔をしながら、歯科医院へカウンセリングに行きました。後日連絡があり、インプラントの治療に決めたとのこと。
歯科治療はもちろんイヤなことですが、問題を先送りしても良い事はありません。感情を理性で押さえて、決断してくれてよかったな、と思います。

ご褒美に、今度ステーキでもご馳走しようかな。

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