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朝ドラ「おむすび」が「複線化」している

連続テレビ小説「おむすび」もいよいよ第20週が終わりました。今週のサブタイトルは「生きるって何なん?」。ヒロイン・米田結(橋本環奈)の父・聖人(北村有起哉)が胃がんと診断され、手術しなくてはならなくなりました(サムネイル画像は番組オフィシャルInstagramより引用)。

第19週で、父・聖人が胃の不調を訴える

第19週では、母・愛子(麻生久美子)が謎の男と大阪・梅田で「密会しているのでは」との疑惑が。しかし、聖人は信じようとしませんでした。食事が喉を通らなかったのは、愛子の様子が気になっていたから…というフリかと思いきや、本当に胃の病気が悪くなっていたとは、不穏な展開でした。

胃がんと言ってもさまざまで、早期胃がんに関していえば、初期症状がない場合も多く、自覚症状が出ていた頃には進行していたなんて怖い話もあります。

一方で、一般的な健康診断では、いまだに胃カメラではなくバリウム検査(X線検査)が行われており、早期胃がんを発見しにくかったり、結果として要精密検査になっても異常がなかったり、精度の低さが問題となっています。

第20週「生きるって何なん?」が問いかけようとしていること

「生きる」ということは思い通りにはいかない、だからこそ尊いということを描きたかったのでしょう。胃の調子が悪くなることは、日常の出来事としてよくあることです。日常のなかで「生きる」というテーマとヒロインが向き合う…という方向性が理想だったのだろうと思います。

ただ、それが直接的な原因で亡くなる方もいるわけで、朝ドラで描くにはやや重たい感じも否めません。震災を描くのと同じくらい慎重さが求められたのではないでしょうか。

当然、生きていれば病気にもなりますしケガもします。不慮の事故に遭うかもしれませんし、災害にだって遭うかもしれないのです。それで大切な人を失うことだって、あり得ない話ではないのです。

管理栄養士として人々の生命を預かる立場にあるヒロインの家族だったって、「一族に胃がんになった人はおらん」と言ったって、なるときはなるのです。それで亡くなることだってないことはないのです。辛い現実を直視したくはないけれど、避けて通れない時だってあるのだということを認識させられました。

ヒロイン・米田結は「生きるって何なん?」という問いにどう向き合うべきだったのか

こうした経験を通じて、ヒロイン本人の仕事や生活にどんな変化があったでしょうか。「生きるって何なん?」という問いを突きつけられた時、結は何を思い、何を為したのでしょうか。

管理栄養士として食事療法に関わった磯山八重子(徳田尚美)の病状が悪化したことを気に病んでいた結は、当然この問いからは逃れられないでしょう。それゆえに、八重子の治療に関与し続けることに迷いを感じるのも自然なことです。

「生きるって何なん?」を考えるうえで、八重子の治療とどう向き合うかは避けては通れない課題です。結が仕事で経験した試練を踏まえ、どう行動し、どう成長するのか。本来そこが焦点化されるべきところ、聖人の胃がんが発覚。「伏線」があるのではなく、焦点が「複線」になってしまいました。

次から次に、焦点が移っていくので、ついていくのも一苦労。そういえば、摂食障害の麻利絵(桧山ありさ)もいましたが、八重子と「複線」で登場したゆえに「役割分担」も曖昧だった印象です。

米田家は仲が悪いわけではないが「地に足がつかない」

ヒロインが責められることでもありませんし、ヒロインが何もしていないから怠慢だとばかりもいえません。2月21日の第100話では、聖人は麻酔から覚めると、手術中に夢を見たといいます。

それは、糸島で一家団らん平和に暮らしていた日々を思い起こすかのような情景ですが、セリフで事後報告として愛子に語られるのみで、ヒロイン不在。

娘である結は仕事上も「生きるって何なん?」について、ぼんやりとでも考えていたはずです。だから、その考えについて、まさに手術を終え、現在進行形で病と闘っている父に表明する機会を得ても、何ら違和感なく、問題もなかったと思います。

結局、夫婦2人きりになったわりに、出会った頃を振り返るわけでもなく、とりあえず糸島のエピソードらしき「それっぽい」ものを出しておいたという感じが否めません。

米田家は決して仲が悪いわけではないのですが、第19週のサブタイトルが「母親って何なん?」であったわりに、この作品は家族に関する話題になると「地に足がつかない」印象です。

結が子育てとどう向き合っているかが「母って何なん?」の答えになるはずが、そうはなっていないので、消化不良感が否めません。

また、愛子の存在は現代的な母親像を象徴しているのでしょう。「母とはこうあるべし」と表立って主張しません。過干渉気味なところもなく、それはそれで画期的なことかもしれませんが、母親像としては弱いと感じます。

北村有起哉はコメディアンにもなれるし生死の境を彷徨う病人にもなれていて、改めて感動を覚えました。これだけ作品を背負っている父親役も珍しいかもしれません。出演者の強みをじっくりと感じ取っていく余裕があれば楽しめる作品だと思います。

第21週「米田家の呪い」どうなる?

聖人の健康問題は恐らく解決するのでしょう。第21週では、糸島から永吉(松平健)と佳代(宮崎美子)が突然神戸に現れます(夢のシーンも撮れたのでは…?)。大阪・関西万博が開かれることを知り、かつての万博の会場であった太陽の塔を訪れたいのだそうです。

その一方で、高校時代のクラスメイト・恵美(中村守里)が「来年結婚する」と報告します。「複線化」模様はまだまだ続きそうですが、糸島編からの「呪い」は「伏線」回収されるかもしれません。

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