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理学部で学ぶ生物学

生物学を学ぼうとすると一般的にはどこの学部を想像するものなのだろうか。生物学は主に細胞や遺伝子といったミクロなものを扱うものから生態学や生き物の個体に関するマクロなものがある。前者は理学部や農学部、獣医学部や医学部と幅広く学べるだろう。後者は理学部か農学部という印象がある。私が専攻していた学問はなんとも難しいところだがミクロを見てマクロを知る学問、といったところだろうか。大きな括りで言えば進化学を学んでいた。もともと水族館の飼育員になるくらいなので個体に関心があり、マクロな部分を学びたいと考えていた。しかしそうすると農学部と理学部のどちらに進むべきなのだろうという疑問が出るのは必然である。
この二者の違いといえば応用科学か基礎科学かという点だろう。今でこそ「生物多様性」という言葉は巷で耳にすることはあるが、直接的に私たちがそれの重要性を感じる機会は少ないのではないだろうか。そうしたわかりにくいことや役に立つのかわからない、科学の基礎を学ぶ場所が高等教育機関における「理学部」という場所なのだ。

私が所属していた大学でも金にならないことや社会に出て、就職して使う機会が少ない学問が多いことから「就職無理学部」など言われたものである。確かに「この虫がどういう経緯で今の姿になったかわかりました!」と言われても「そうか、それがなんの役に立つのだい?」と言われてしまうだけかもしれない。理学=サイエンスとはそういうものだ。しかし全てが役に立たないわけではない、むしろ農学や医学といった応用科学で用いられている技術は基礎科学である理学の恩恵を受けたものが多い。今では当たり前に使われるゲノム編集技術の確立、DNAのシーケンス技術などの根幹はDNAの発見というサイエンスが根本にある。別に医学が偉い理学が偉いという話をしたいわけではないが、直接的な利便性のわかりにくい理学系研究が現代の日本では疎かにされていることは研究費を見ればわかる。進化や生態学の研究に関してのお金は出にくく、医学系の基礎研究にはお金が出やすいようだ。論文でもいかにインパクトファクター(世の中へ影響度)の高い雑誌へ投稿できるかは「今後の保全(あるいは医学)に役立つ可能性がある」という内容が含まれるかどうかに掛かっているとも聞く。

ここまで理学部のマイナスの面ばかり書いてきているが、私は理学が一番好きだし理学部出身であることを誇りに思っている。私の学んできた進化学を含め理学はロマンの塊だろう。地球や生物の歴史で見れば我々の人生などコンマ1秒にも満たないスケールだろう。しかしDNAの存在が見つかり様々なことが理学研究によってわかったことで生き物間の近縁関係や進化の歴史を知ることができる。「なぜイルカと私は同じ哺乳類なのに全然違うのだろう?」「なぜこの島のカエルとあの島のカエルはこんなに違うのか?といった日常に潜む「なぜ?」を解明できる可能性を秘めた学問、理学が、持つ面白さは他のどの学問でも体感できない夢とロマンがあるのだ。

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