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一人旅@甲府

一日目

新宿~甲府駅

 10時ちょうどのあずさ13号で私は旅に出た。コロナ以降テレワークですっかり甘やかされた私にはこれ以上の早起きは困難であった。

 今回のゴールデンウィークはMSH(My Sweet Honey) が帰省していて不在なので、久々の一人旅となった。一泊二日の旅は難しい。いままで一人旅をするときは帰る日を決めず適当に何日かぶらぶら回って満足したらそこで終わりという旅だったのだが、二日間に限定されることで効率よく回らなければいけないというプレッシャーを感じてしまう。脳内の旅程ダメ出しおじさんが有意義な休日おじさんとともに私にプレッシャーをかけてくるのだ。このおじさんたちは特定の誰かがモデルというわけではなく、今までに出会った様々な人の言葉が一つの思念となり架空のおじさんとして私の行動に影響を及ぼそうとする。おじさんであることに合理的理由はないのだが、私のこれまでの交友関係におじさん率が高いからそうなったのだろう。

 つまり何が言いたいのかというと、10時という早起きしすぎない時間はぎちぎちに予定を詰め込もうとする旅程ダメ出しおじさんと有意義な休日おじさんに勝利した証なのだ。

 さて、今回の旅の目的地は山梨県の甲府である。どこを回るかあらかじめいくつか目星はつけたのだが、折角なので流行に乗ってChatGPTにも聞いてみた。昇仙峡というところに行きたいので是非ChatGPTにもおすすめしてもらおうといろいろ質問を試行錯誤した結果、以下のように聞くことで昇仙峡という答えを導き出すことに成功した。

Chat GPTに昇仙峡をおすすめしてもらった

 甲府に着くまでしばらくChatGPTで遊んでみたが、使っているとChatGPTが流行る理由がなんとなくわかる。流暢な返答を返してくる日本語力もさることながら、明らかな嘘をさらっと織り交ぜてくるサイコパス感が癖になる。

山梨県のマイナーなご当地グルメ

 11時半ごろ甲府駅に到着した。ちょうどいい時間なので早速昼ご飯を食べる。なんせ今回は一泊二日なので食事の数も限られている。効率よくご当地グルメを摂取しなければ。幸い駅の近くの鳥もつ煮発祥のお店にすんなり入ることができたので、鳥もつ煮とそばのセットを頼んだ。

鳥もつ煮とそば

 本当はほうとうを食べたかったのだが、メニューから見つけることができなかった。ちなみにこれはメニューになかったという意味ではなく文字通り見つけられなかったという意味である。割とデカデカと載っていたのに何故か見過ごした。二つ隣の席の客が注文しているのを聞いてメニューを見直し、ようやく存在に気付いた。注意力が欠如しているのか自分でも理解不能な失敗を起こしがちなのだが、人類が犯しうるヒューマンエラーの知見が増えるのは決して悪いことではない。世の中に存在するユーザーインタフェースの多くは先人たちの様々なヒューマンエラーを分析し、改善してきたものである。成功体験は自信にしかならないが、失敗体験は様々な使い道があるのだ。

 食べ終わって駅前に戻ると先ほどは気付かなかったが武田信玄公の像がある。眼光の鋭さが印象的だ。ちなみに視線の先にはカラオケがあった。うるさきこと林じゃないのごとしとでも思っているのだろうか。いや、カラオケ屋に入っていく女子高生を見て混ざりたいなあと思っている可能性もある。現代人の勝手な理想を押し付けるのはよそう。

武田信玄の像
逆光で表情が分かりにくいので少し加工
視線の先にあったカラオケ

武田神社~善光寺~舞鶴城公園

 駅近くの観光案内所で甲府近辺の観光スポットをまとめたパンフレットを手に入れた。武田信玄が住んでいた躑躅ヶ崎館跡(現武田神社)を含むモデルコースが166分らしい。これプラス善光寺でちょうどいい時間になるかと思ったのだが、よくよく見ると「滞在時間は含まれません」とのこと。え、歩く時間だけで166分てこと? 動き続けること山じゃないのごとし。流石に166分+観光してたら善光寺に行けなくなるので、武田神社までバスで移動した。

武田神社
堀沿いに生えがちなギリギリ水面に枝がにつきそうでつかなさそうでよく見たらついている木

 神社に着いたらとりあえずお参りする。といっても信仰心に篤いわけではないためか、最近神社でお参りするときにどんどん適当になっている気がする。願い事も大体「なんかいいことありますように」だ。お賽銭も何も考えず15円入れてしまうことが多いのだが十分ご縁があると困るタイプの神様が祭られている可能性をあまり考えていない。便秘の神様とかが祭られていたらどうしよう。

 お参りが終わると宝物殿に向かう。宝物殿だ!やったぜ!本殿へのお賽銭は15円だが宝物殿には拝観料として何の躊躇いもなく300円を支払う。宝物殿は良いところだ。旅行するとき何気なく寺社仏閣に行きがちなのだが、本殿への参拝だけだと意外とすぐ終わってしまい長い時間かけて移動したのが悔しくなることがあるのだが、宝物殿があるといいもの見れた感が増して大変満足できるのだ。今回の宝物殿で印象に残ったのは切れ味が鋭すぎて自刃するとき無痛で死に至ることができるという懐刀だ。無痛で自刃できるか実験するのはさぞ大変だったことだろう。痛かったら手を挙げてくださいね~。グサー

宝物殿の前にあったハローキティ

 武田神社の後はパンフレットに載っている大泉寺と華光院に行ったのだが、驚くべきことに人っ子一人いない。ゴールデンウィークとは思えない。もしかして一週間ほど地味にタイムスリップしたのではないかと疑うレベルで人がいない。166分歩くモデルコースはやはり不人気なのだろうか。

大泉寺
猫はいた

 華光院からはモデルコースを外れて善光寺へ向かう。歩いて30分ほどらしいが、バスを使うとそれ以上に時間がかかるので歩いていくことにした。166分まではいかないにしろそれなりに歩くことになるがこれはこれで都合がいい。本日は温泉宿を取っている。聞くところによると温泉は日頃の疲れを癒しに行く人が多いらしいが、テレワークになってから通勤がなくなり日頃あまり疲れなくなっている。したがって、温泉までに疲れを補充する必要があるのだ。いっぱい歩こう。

 歩いていると山々の向こうに富士山が見える。山梨県に来てから富士山の存在感がすごい。壁の向こうから超大型巨人にのぞき込まれている気分だ。霊峰と呼ばれるだけのことはある。実をいうと十代のころは富士山をあまりすごいと思っていなかった。海外にはもっと高い山がいっぱいあるのに富士山をありがたがるなんて格好悪いと思っていたのだ。だがこうやって他の山と比べてみるとやはり圧倒的存在感である。結局のところ私は標高何mという知識だけで分かった気になっていただけなのだろう。

富士山

 善光寺に到着すると、それなりに観光客がいる。よかったタイムスリップはしていなかったようだ。写真を撮っている人がちらほらいるので、邪魔にならないように気を付ける。私はとてもくせ毛で、4か月ほど髪を切っていない現在はほぼアフロである。自意識過剰かもしれないが、アフロは写真に写り込んでしまうと微妙に目立って背景になり切れない気がするのだ。侵略しないこと火じゃないのごとし。

善光寺

 邪魔にならないように本殿に向かう。本殿は土足厳禁で奥のほうに入るには拝観料がいるようだ。そう思っていたら勝手に入ろうとした無法者がつまみ出されていた。この無法者は帰るときもずっと中に入る隙を伺っていた。

無断侵入してつまみ出された無法者

 甲斐善光寺は長野の善光寺が合戦で焼失するのを恐れた武田信玄が色々移動させてできたものらしい。そんな甲斐善光寺の二大目玉コンテンツは鳴龍とお戒壇巡りである。鳴龍は本殿の中で手をたたくと反響して龍が鳴いているように聞こえるというものである。実際鳴いてもらえて結構うれしかった。お戒壇巡りは真っ暗な廊下を歩いて一周するというもので、途中で極楽につながる扉の錠があるので、それに触れたらOKというものだ。長野の善光寺にMSHと行ったときはこのルールをよくわからずただ真っ暗な廊下を歩くアトラクションとして楽しんでしまった。今回はぜひ錠に触れてMSHに自慢したいものだ。

 実際にお戒壇巡りを始めると、真っ暗で思いのほか怖く、すり足でめちゃくちゃ慎重に歩いてしまう。遅きこと風じゃないのごとし。少し進んだところで後ろから物音がした。他の誰かもお戒壇巡りを始めたようだ。ゴホッゴホッ。少し大きめの咳払いをする。別に喉に異常があったわけではなく、後ろの人が追突しないように私の存在をアピールしたのだ。2回ほど咳払いしたところで、「ゴホッゴホッ」と聞こえてきた。後ろの人も返してくれた!ちょっとうれしい。二人のおじさんの心が通った瞬間である。その後、無事例の錠にも触れることができた。あまり長々と触って後ろの人のネタバレになってはいけないので早々に退散した。心を通じ合わせたおじさんの邪魔をするわけにはいかない。

 その後甲府駅に戻ったが時刻は15時半。バスや電車という文明に頼った結果思ったより早く見終わってしまった。まだホテルに移動するにはさすがに早いので、駅の近くの舞鶴城公園にも寄ってみた。城跡にはなぜか立ち寄りたくなる不思議な魅力がある。舞鶴城公園は天守閣などはないが、本丸付近が展望台になっている。山梨は四方を山に囲まれた盆地なので、どの方向を見ても山を見ることになる。海側か山側かで方角を把握する地域で育った人間としては、山梨は実質樹海みたいなものだ。Google Mapがなかったら3回ぐらい野垂れ死んでいるかもしれない

舞鶴城公園展望台から見える景色(北)
舞鶴城公園展望台から見える景色(東)
舞鶴城公園展望台から見える景色(南)
舞鶴城公園展望台から見える景色(西)

湯村温泉

 この日の夜は開湯1200年の歴史を誇る湯村温泉のホテルをとった。歴史ある温泉の開湯1200~1300年率の高さは一体どういう理由なのだろうか。温泉ブームでもあったのだろうか。ググればわかりそうな気もするがなんとなく調べずにいることというものがある。なまじ調べてしまい想像する楽しみが減ってしまうのが嫌なのかもしれない。私が勝手に想像している、この時代に温泉を開拓しまくった伝説の修験者像を壊されたくないのだ。

湯村温泉

 今晩の宿はご飯はついていないので近くの居酒屋で飲む。お酒はせっかくなので3種のみ比べセットを頼んだ。一つ目、うまい。甘口でコクとキレがある※。二つ目、うまい。甘口でうまみとコクがある。三つ目、うまい。これはもしかしたら何飲んでも美味しく感じる日かもしれないな。

※私は、他の人もきっとそうであると信じつつ、コクとキレという言葉を雰囲気で使っている。他人が使うコクとキレという言葉は観測して初めて実体がわかるシュレディンガーの味覚なのだ。

お酒

 色々頼んで最後の〆は伝家のほうとうだ!お昼ご飯で食べれなかったので、ちょうどいい。全国のおっさんの名誉のために言うが私がダジャレを言うのは若いころからなので30代中盤の年齢は関係ない。

ほうとう

 ホテルに戻り、温泉に入ったあと、土産物屋で買ったおつまみとお菓子で飲みなおす。ChatGPTから聞いた鮑の天ぷらは多分嘘だが、鮑の煮貝という山梨県の名産品は実際に存在する。海がない県なので不思議だったが、冷蔵技術のない江戸時代に鮑を醤油漬けにして静岡から運んできたらしい。山梨に着くころにはちょうど良く醤油がしみ込んでとても美味になったとか。水揚げも味付けも静岡だし静岡の名産ではという疑問を感じなくもないが、山梨と静岡の間に富士山の領有権以外の火種が生まれるのは良くないのでこれ以上考えるのはよそう。

ホテルで飲んだ酒
おつまみ

二日目

昇仙峡

 二日目は予定通り昇仙峡という渓谷に行く。甲府駅からだと昇仙峡口までバスで30分ほどだが、湯村温泉からだと20分で行ける。日本一の渓谷美ともいわれるらしい。奇岩好きとしては心が躍る。変な形の岩いっぱい見るぞ!

バスを降りたら昇仙峡の大きい看板が見える。なお昇仙峡があるのはこの看板と逆のほう

 バス停の近くの長潭橋(ながとろばし)を渡ったら昇仙峡沿いの道に入ることができる。この道を登っていくと仙娥滝という滝がありその上あたりがゴールだ。観光案内所で手に入れた昇仙峡のパンフレットを見ると様々な名前の岩があるらしい。最初は亀石だ。

昇仙峡のパンフレット

 どれが亀石だろうと思いながら歩いていると、ちょっと立派な岩が出てきた。あれが亀石だろうか?でもあんまり亀っぽくないなあ。木に隠れて分かりにくいのだろうか。

亀石かもしれないと思いながら見ていた岩

 もう少し歩くとまた立派な岩が出てきた。これが亀石か?いや、もしかしたら次の大砲岩か?これも木に隠れ気味で分かりにくいが直線的な部分があり、人工物っぽさがあるので、近くで見ると大砲っぽいのかもしれない。というかこの先もずっと、この岩が○○岩なのかとか考えながら歩くことになるのだろうか。ちょっと不安になってきたぞ。

大砲岩かもしれないと思いながら見ていた岩

 そんなことを考えながら歩いていたら、普通に亀石を示す看板が出てきた。なるほど、これまでに見た岩はただの無名岩だったか。やるじゃないか昇仙峡。

亀石の場所を示す看板
この写真のどこかに亀石があるはず

 結局看板の先を見ても亀石がどれかはわからなかったが、立派な岩を見れたので良しとしよう。次の大砲岩に期待だ。この日は天候に恵まれ、青々と生い茂った木に囲まれた道を歩くのはとても気分がいい。この気分の良さは森林から直接得ているのか、自然が豊かなところを歩くと気分がいいはずだという自己暗示によるものなのかは不明である。まあ、大人の世界で重要なのは結果だ。気分が良いという結果が得られるのであれば、どちらであろうとさして重要ではない。

  さらに歩くとオットセイ岩が出てきた。看板があるところから見るとよくわからなかったが少し歩いたところから見ると確かにオットセイに見えなくもない。あれ、大砲岩はどこにいった?もしかして看板を見落としたのだろうか。

オットセイ岩
基本的には道沿いに柵があるが唐突に途切れることがある。フリー足滑らしスポットかな

 しまったなあと思いながら歩いていると大砲岩の看板が現れた。え、このパンフレットの岩って順番に並んでるわけじゃないの!? これが日本一の渓谷美の洗礼か。

大砲岩

 昇仙峡で最も印象に残った岩は猿岩だ(写真では奥の岩があるせいで分かりにくいが手前の岩だけに注目して見ていただきたい)。猿なのかゴリラなのかは多少意見が分かれそうだが、個人的にはゴリラっぽく見えた。そして、別の角度から見ると、なんと別のゴリラっぽく見えるのだ。どんな人間も善人のように見える側面もあれば悪人のように見える側面もある。猿岩にはゴリラっぽく見える側面と別のゴリラっぽく見える側面がある。

空を見上げるゴリラっぽく見える
空を見上げる別のゴリラっぽく見える

 この手の○○岩はだいたいそういうものなのだろうけど、確かにその通りだなという岩もあれば星座レベルでこじつけではないかという岩もある。とはいえきっと昇仙峡岩命名会議でも侃々諤々の議論の末命名されているのだろう。既存のネームド岩に文句をつけるのはやめよう。逆に名前のない岩にこちらが勝手に命名するのは許されるだろうか。あの岩とか昔姉にもらったモアイ像のティッシュケースに似ている気がしてきたぞ。

モアイ像のティッシュケース岩

 ちなみにこのパンフレットに載っている石・岩以外にもいくつかのネームド岩が出てきた。なるほど。シークレットというやつだな。楽しませてくれる。

シークレット岩の一例

 渓流沿いの道はかなり長く続いており、まだ仙娥滝までの道の半分にも達していない。なかなか歩き甲斐がある。この辺りで薄々気付き始めたのだが、何も考えず昇仙峡口というバス停で降りるのではなく仙娥滝の滝上のバス停で降りて、そこから下るほうが楽だったのではなかろうか。

重厚なカメラを持った人が被写体に選んでいた有難い木
熊が出そうな自然観察小屋

 昇仙峡はこの季節は緑一色だが、秋になると紅葉がきれいらしい。実際あちこちに紅葉っぽい形の葉っぱを目にする。秋に来ても美しい風景を楽しめるだろう。もしくは賢いAIに着色してもらって5年ぐらい経過してから見たら、いい感じに記憶が改ざんされて紅葉を見に行った思い出が手に入ることだろう。人間の記憶の美化能力を舐めてはいけない。一人旅が真価を発揮するのは追憶するときなのだ。一人で行っているので誰からも訂正されずに済む点も見逃せない。

紅の葉と書いてもみじだが緑色のときも紅葉と呼んでよいのだろうか

 昇仙峡沿いの道は途中で車道から遊歩道に変わる。車道が終わるあたりでおなかが減ったのでお昼ご飯にする。

昼食。初日とそばが被ってしまった

 腹ごしらえも済んだことだし遊歩道へと歩を進めよう。人生は舗装された道を歩くばかりでは前に進めないこともあるのだ。なんて考えてたら遊歩道も車両が通れないというだけで、きっちり舗装されていた。適度に自然が感じられる十分に整備された安全な道。素晴らしい。

遊歩道
昇仙峡の奇岩のボス的存在
岩魚に違いないと確信して撮った水中の影
途中の橋から見える風景
野生の一円玉群生地
仙娥滝

 滝の上まで来ると土産物屋や軽食店が数多く立ち並んでいる。昇仙峡を開拓した偉人である円右衛門 さんの伝承館があったので入ってみることにした。昇仙峡は水晶が名産らしく関連するグッズが色々展示されている。100万円の水晶と3000円のガラス玉が並べて展示されており、どちらが100万円かをあてるコーナーがあった。うーん。まったく分からん。しかしこの場合まったく分からないというのは重大な気付きである。すなわち私は水晶でもガラス玉でもどうせ見分けはつかないので、欲しくなったときはガラス玉のほうを買えば間違いないということだ。

円右衛門 さんの伝承館

 その後は将来何かの拍子に石油王になったときのために水晶宝石博物館で宝石を見てみたりワインを買ったりしたのだが、思いのほかすぐに疲れてしまった。ロープウェイでパノラマ台のほうに行こうかと思っていたが断念して下山することにした。

山梨ワイン王国の映えスポット。MSHがいない時の私は映えスポットの前では無力

 時間的にはまだ昼過ぎで晩御飯までちょっと時間が余ってしまう。バスの中でプランを検討した結果、石和温泉に行くことにした。甲府駅から二駅ほどのところにある温泉である。日帰り入浴と洒落込もうではないか。自らの疲労度に合わせた完璧なプラン変更だ。小学5年生の頃クラスメイトから「6年生レベルや!」と称されたこともある私の頭脳を持ってしたら造作もないことだ。

石和温泉~甲府駅

 石和温泉の観光案内所で相談すると、移動中に下調べしたホテルがちょうど日帰り温泉やっているとのことだったので、さっそく入りに行くことにした。

石和温泉

 そのホテルには内湯の大浴場とワイン風呂に加え、外に露天風呂がある。入ってみると私以外には二人ぐらいしか利用者がいない状態であった。時刻は15時ごろ。なるほど、この時間帯は宿泊客が入りに来ないから狙い目なのかもしれない。自分のペースで自由きままに入れるのでとても快適である。

 おそらくこのホテルの名物だと思われるワイン風呂は少し赤みがかったお湯で、大浴場の湯と比べお肌がよりつるつるになっている気がする。34歳男性でもお肌がつるつるになるとちょっとテンションが上がる。ワイン風呂を楽しんだ後は露天風呂へと移動する。この時間帯にお風呂に入るもう一つの利点は明るいため外の景色がよく見れることだ。昼の露天風呂というのも爽快である。

 しばらく露天風呂に入っていたら他の利用者のおじさんも来たので、ワイン風呂へと戻ることにした。あれ、おじさんが来たことを契機に別の風呂に移動していたら自分のペースで気ままに入っていることにならないのではなかろうか。いや、でも独り占めできる風呂に入りたいというのは私の欲求なわけで、それに従っているなら自由きままと言っていいのではないか。自由とはいったいなんなんだ?どこからが自分の意志なのだろうか?

 そんなことを考えている間におじさんが内湯に戻ってきた。大浴場に入っている。おじさんがワイン風呂のほうに来た時未練なく出れるように今のうちにしっかり浸かっておかねば。

 2分ほど風呂に浸かっていたがおじさんは一向にこちらにこない。もしかしておじさんは私に遠慮してこちらに来れないのではないだろうか。そう思い至り、試しに風呂から上がるとすぐにおじさんがワイン風呂に入った。やっぱり私が退くのを待っていたのだ!おじさんと心を通わすことができたぞ!

 風呂から出る直前に洗い場で眼鏡を洗っていると、シャワーを浴びるおじさんの水がめっちゃこっちにも飛んできたので、結局のところおじさんとどの程度心が通ったかは不明であるが、とにかくいい湯であった。あとは甲府に戻ってご飯を食べるだけだ。石和温泉の駅にはワインサーバが設置されており、ワインを試飲しながら電車を待つことができる。ワインに酔いしれながら優雅に電車を待つ自分に酔いしれたかったので、乗る予定だった電車を一本遅らせて時間を確保した。

ワインサーバ

 すっかりワインの口になってしまったので、最後の食事は洋食にした。国内旅行をすると郷土のものを食べたくなり和食になりがちなのだが、山梨は洋食でも山梨を感じられるのがよい。

ワインビーフを差し置いてピントがあってしまったブロッコリー

 この後はMSHへのお土産を買い、特に落ちもなく今回の旅はつつがなく終了した。鮑の煮貝とワインビーフが美味しかった。やまなし落ちなし意外な味あり。




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